幕間:先輩の弁と、話下手
先輩の弁と、話下手
*
『ミズチってさ、変な祭あるだろ。祭って言やあ春の種蒔きか田植えの時か夏の盛り、あとは収穫の秋祭ってのが普通だと思うんだけどさ、あそこ冬にやるんだよな。いや十一月の後半だから秋って言えなくもないけど、でも遅いだろ。
そんでちょっとそれが変わってるからって、高校の時に友達に誘われて見に行った事があるんだ。
肝試しみたいなそういうノリだよ。そんな事の為にわざわざ県っていうか山越えて、車持ってる先輩に乗せて貰って。先輩とか後輩とか合わせて六人ぐらいだったかな。今思えば馬鹿だなーって思うけど、まあ、ガキだったからな。そういうもんだろ。
それで見付からないよう山道に車隠すように止めて、みなで歩いてその祭をやるっていう西っ側の山に登ったんだ。整備されてる方の道は住民に見付かるから、斜面にある獣道みたいのわざわざ登ってさ。いや夜でも意外と歩き易かったな、あれ山菜とか採る時に使うんだろうな、ああいう道って。
そんで速しん中に潜んでたら、鳥居の所にかがり火が焚かれ始めて男ばっか集まって来て。見てたら何て言うのかな……上の部分が無い神輿みたいなって感じの、扉ぐらいの丈夫な板に担ぎ棒が付いたみたいなの、そういうのに何か白いのが載せられて運ばれて着たんだよ。
大きさ? 結構それが大きいんだ。人間ぐらいのやつ。もぞもぞ動いてて、……まあ結論から言うとそれ、布袋に入れられてた人間なんだけど。ああごめんな、俺話下手だから先に言っちまった。
まあそういうのを載せて黒い着物着た男達が鳥居までそれを運んで着て。ああ、他の男もみんな黒い服とか着物とか着てたな。
そんで何が始まったかって、それを吊すんだよ、鳥居に。その、人間を。
どうも大きい袋を頭からすっぽり被せたみたいな感じだったんだろうな。被せたまんま首ん所を縄で縛って、大きい脚立に登って縄を鳥居に引っ掛けて、こうぐっと引っ張って、括り付けて。そしたら苦しんで暴れて、裾から足がちらちら見えて。声は聞こえなかったからなんか口に詰め物でもしてたんだろうな。でも多分女だよ、足小さかったから。
その人間照る照る坊主が完成したら、皆で取り囲んで、なんか手拍子しながら歌を歌って……。俺もう凄っげえ怖くて。そんで気を紛らわせようと周りを見た時に、ふっと気が付いたんだ。
周囲の林ん中に、女が一杯いたんだよ……!
俺もう怖くて怖くてさ。先輩にもう帰ろうって言ったのに、皆聞いてくれなくて。それで祭が終わって他の奴らが帰ろうって言い出すまで、俺林ん中の様子見る振りして木の陰に隠れてずっと震えてた。幸い、皆には気付かれてなかったみたいでまあ、そん時は良かったんだけどさ。
帰りの車の中で話してたら、後輩が知り合いを見たって言い出して。
その後輩、中学の時はそっち住んでたんだって。いやミズチじゃない、一緒の町ってだけだよ。町、中学一校しか無いんだろ? そういう事だよ。
それでその後輩が、静宮って奴が居たって言ってて。そらミズチの住民だったら祭にも参加してるだろって思うんだけど、別に話の本質はそこじゃないらしくてさ。そいつが変な奴だったって話。まあ会話途切れてたから、話題提供って奴だな。
その静宮って兄と妹の双子なんだけど、祭に居たのは兄貴の方な。どっちも凄い美男美女でさ。妹がちょっと病弱で学校休みがちだったのは置いといて、兄貴の方、無茶苦茶頭良くて常に学年トップだったらしいんだけど。
それが凄っげえ女癖悪かったらしいんだ。あ、らしいらしいってらしいばっかで悪いな。俺も後輩から聞いた話だからさ。
で、顔も良くて頭も良くてでまあ女が寄って来るの当然って奴なんだけど、そいつ本当に取っ替え引っ替えっていうか、手当たり次第っていうか、ヤりまくってたらしいんだ。で、ヤるだけ。付き合ってるとかそんなんじゃなくて、ヤるだけなんだ。
そんなの直ぐ揉め事起こるの当然だろって思うだろ。確かに起こるんだ。でもそいつが女に刺されるとかじゃなくて、女同士がそいつ取り合いして喧嘩になるとかそういうんなんだって。そいつが怨まれるとかにならないの。
いや、過去に一度だけそういう事になった事はあるらしいんだ。でもその女子がさ、変死体で見付かったんだ。当時ちょっと話題になったらしいんだけど、結局犯人も分からなくて、状況からまあ自殺だろって事で片付けられたらしくてさ。変だろ、絶対。
それとそいつ、妊娠騒ぎも起こした事あるけど、結局うやむやになるらしくて。何人か孕んだとかで軽く騒ぎにはなったんだけど、結局女子の方が転校したり何たりでそいつ自身はお咎め無し。なんかそこまで行くと、裏があるんじゃ、って思っちゃうよな。
でだ。極め付けの話は、そいつそんな感じの癖に、妹に異常なぐらい執着してるって事だな。
微笑ましい? そんな程度じゃなかったらしい。常軌を逸してるって表現がぴったりなんだと。
女とヤりまくってるのに何処にそんな時間があるのか。兄妹は組がいつも別だったんだけど、登校下校はまあ一緒なのは当然としても、休み時間に毎回逢いに来るし、授業サボって妹の様子見に来るし、妹が調子悪くて早退する時は自分も早退するし。あと男が妹に手を出さないか見張ってたりとか、近付こうとしたら脅したりな。……まあ相当だったらしい。
え、何? あ、へえ、あいつその妹と同じ組だったの? 仲良くしてたっぽいのに兄貴に見逃されてたの? いやあ、そりゃあれだろ、あいつ影薄いもん。無害そうだからほっとかれてたんじゃないの。いや酷くねえって。無難なのが一番なんだって。現に兄貴に何もされなかったんだし、良かった良かったって話しだろ。
それでまあ、話は戻るんだけどさ。それでもあの兄貴がお咎め無かったのは、成績が良かったからか、他に何か理由があるのか……。色々憶測は飛び交ってたみたいだな。男子にはかなり嫌われてたみたいだし、当然っちゃ当然か。
祭でもなんか長老みたいな偉そうな爺さんの隣、一番目立つ所にいたみたいだしな。なんか権力者と繋がってるとか、そういうのあるのかな。いや無いよな、そんなドラマじゃあるまいし。
なんか良く分からない話になったな。俺話下手だからさ、悪いな。面白かった? そりゃ良かった。
あ、そういや帰省、早めにするんだろ。え、俺? ギリギリまでこっちに居るかな、卒論もアレだし、何より帰ったらこき使われるだろ。
お礼? いいよそんなの。こんな下手な話でいちいち感謝されてちゃ気が引ける。ああ、まあ坊主なるんなら話もちっとは上手くならなきゃ駄目なんだろうけどさ。元々の素質ってモンもあるだろ。な?』
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