Day31 またね

 幼い夏の日。『またね』と手をふりあった。それが最後になった。


 ごめんね。大人になればあの日の『またね』を叶えられると思っていたけれど、もうそれもできなくなってしまった。


 私にとって『またね』は約束の言葉で、だからきっと、こころが残った。


 もしかしてあなたもそうなのかな。

 毎年、毎年。大人になったあなたは夏がくるたびお参りにきて、そして『またね』といって帰っていく。


 ねえ、もういいよ。

 もう十分だから。忘れていいよ。

『またね』じゃなくて『さよなら』っていって。自由になって、しあわせになって。


 伝えたいのに。

 ここにいるのに。

 いまの私はあなたの目には映らない。


 あなたはいつまで、もう二度と会えない『またね』を積みかさねていくつもりなんだろう。

 私はいつまで、届かない『さよなら』を叫びつづければいいんだろう。


 時をかさね、大人になったあなたと、子どもの姿まま、時が止まってしまった私。


『またね』なんて、ただの挨拶なのに。そう思えなかった私たち。

 二人を縛りつづけている夏が、今年もまたやってくる。


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どこかの街の、ちいさな夏の物語2【#文披31題 2024】 野森ちえこ @nono_chie

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