第10話 Chapter 10「有楽町サディスティック 罠」
Chapter 10「有楽町サディスティック 罠」
米子とミントは中央区にあるタワーマンション『プロミスプレイス』近くの公園にいた。服装は紺色のスクールポロシャツにグレーのチェックのミニスカート。肩からナイロンの大きな黒いショルダーバックを掛けている。部活帰りの女子高生のような姿だった。
「あれが『オットー』が住んでるマンションだね。大きいね。でもこの辺何もないね。駅からも遠いし」
ミントが言った。
「なんで呼称が『オットー』(カワウソ)なんだろ?」
米子は疑問を口にした。
「顔がカワウソに似てるかららしいよ。北山さんが言ってたよ。まあ似てるっちゃー似てるよね。米子は『ゴールデンレトリバー』に似てるね。澄ました時の顔は『シベリアンハスキー』みたいでカッコいいよ」
「何それ、犬か。ミントちゃんは、リスやハムスターみたいでカワイイよ」
「あはっ、ちょっと嬉しいよ。木崎さんは犬だったら『ボクサー犬』か『ドーベルマン』みたいだね。北山さんは『パグ』みたいだよ」
「似てるかも」
「でしょ!」
「このマンション54階建てだって。オットーは最上階に住んでるみたいだよ。お金持ってるんだね」
「だよねー、お金持ちは違うよねー、景色が綺麗だろうね。きっとレインボーブリッジやお台場も見えるよ」
「でもここで殺るのは難しいよ。必ず橋を渡らなくちゃいけないし、逃走ルートが少ないよ。緊急配備されたら終わりだよ。マンションはセキュリティが厳しいから入れないよ。コンシェルジュがいるみたいだし、監視カメラも多い。それに護衛もいるだろうしね」
「米子、作戦立ててるの?」
「うん、今度は暗殺っぽくやりたいよ。だから木崎さんにスタームルガーを用意してもらったんだ。SIGも持ってくけどね。やっぱり357SIG弾は頼もしいよ」
「だよねー、爆弾使ったりするのはなんか違うんだよねー、派手で気持ちいいけどさ。それにしても米子のチョイスはいつも的確だね。ねえ、357SIG弾ってどうなの?」
「カタログスペックだと9mm弾の1.5倍の威力だよ。体感的もそんな感じかな。発射音と反動は大きくなるけどね。ミントちゃんの357マグナム弾の方が火薬の量が多いから威力はあるけど、357SIG弾はオートマチックで撃てるのが魅力だよ」
「そうなんだ。オートマチックもいいね」
「リボルバーはマグナム弾が撃てるのがいいけど、連射ならオートマチックだよ。装弾数も多いし。リボルバーの倍だよ」
「でもリボルバーの方が頑丈で故障も少ないし、スライド引かなくていいから初弾はすぐ撃てるよ」
「護身用ならリボルバーだけど銃撃戦はオートマチックだよ。何よりも再装填が速いよ。マガジンチェンジするだけ」
「だよねー、迷うよねー。それより米子、帰りに『もんじゃ』食べようよ、月島が近いよ」
「いいねえ、味のベースをソースにするか醤油にするか、トッピングも楽しみだね」
「それも迷うよねー」
時刻は8:00。米子とミントは有楽町銀座口近くのファミレス『ジュナサン』有楽町店にいた。米子は和朝食セットを、ミントはパンケーキセットを食べている。竹長建蔵の講演会が有楽町にある産業振興発展会館で開催される予定になっている。米子の服装は前回羽田の第3ターミナルで『アウル』を始末した時と同じ金色のボタンが目立つ明るめの紺のブレザーに同じ色のひざ丈のスカート。白いシャツに赤いネクタイだった。ミントはライトグレーのブレザーに青いシャツにワインレッドのリボンに灰色のチェックのスカートだった。違う制服にしたのには訳があった。講演会は10:00からだった。産業発展会館は有楽町駅を挟んで銀座口の反対側にあった。
「米子、今日は拳銃でいいんだよね? P90は持ってきてないよ」
「うん、でもミントちゃんは撃たなくていいよ。廊下で見張ってくれてればいいから」
「わかってるよ。一応ショルダーホルスターに『パイソン』入れてるよ。でも、コルトパイソンは隠し持つには大きいから小型のオートマチックも欲しいよ」
「小型なら、SIGのP‐230かベレッタのM84がお勧めだよ。もっと小さいのならベレッタM950かコルト25オートかルガーLCPかデリンンジャーだね。どれもポケットに入る大きさだよ。でもデリンジャーは2発だし、撃つと手が痛くなる」
「さすが米子だね。銃に詳しいね」
「部屋にいろんな種類のエアガンがあるよ。食事とお風呂の時以外は常に手に持ってるよ。テレビを観ながらマガジンチェンジの練習してるんだ。銃は手というか、指の延長みたいな感覚だね」
「へえー、そこまでやるんだね。指の延長か。それなら射撃が上手くなるね。一度米子の部屋に行ってみたいよ」
「遊びに来なよ、いっぱい話そう。ゲームもやろうよ。それはそうと、私は9時になったら講演会場の隣のセミナールームに入るよ。部屋はお昼まで組織が押さえてるから直前まで待機して、オットーが会場に入るところを部屋から出て廊下で殺るよ。オットーは時間に正確だから10時直前だと思う。殺ったらすぐに部屋に戻って窓から外に出るから。少し離れた場所にバイクが停めてあるからそれに乗って逃走するよ。事務所で合流だよ」
「わかった。私は9時45分から廊下で待機してるよ。もしヤバくなったら援護するよ。スピードローダーが2つだから全部で18発」
「9時45分に東京国際フォーラムのロビーギャラリーに劇団が仕掛けてくれた陽動用の時限爆弾と催涙爆弾が爆発するよ。警察はそっちに掛かり切りなるから逃走は大丈夫だよ。緊急配備さえ切り抜ければ捜査は組織が圧力で潰してくれるよ。私はスタームルガーの10発とP‐229が予備の弾倉を入れて357SIG弾が36発」
「陽動か。やっぱり米子は頭いいね。でもC4じゃないよね?」
「うん。音響爆弾と煙幕と催涙ガスだよ。この前の羽田のターミナルみたいになったら大変だからね」
「だよねー、でもそれでも大騒ぎになるよ」
9:20、スマートフォンが振動した。
『米子です』
『木崎だ、今どこだ? 何してる?』
『講演会場の隣の部屋です。暇だからスマホで『ナンプレ』やって、グミ食べてました』
『米子、少しまずい事になった。罠かもしれない。窓から出て逃げるんだ』
『どういうことですか?』
『いいから早くするんだ』
『ミントちゃんは?』
『ミントにはメールする、急げ!』
『わかりました』
セミナールームの前と後ろのドアが同時開いてスーツを着た男達が2人ずつ飛びこんで来た。米子はセミナールームに並んだ机の影にしゃがみ、肩掛け鞄からスタームルガーMK-Ⅳを取り出した。サプレッサーが着いている。男達も伏せているようだ。部屋の中に『ワサビのような臭い』が漂っている。セミナールームの中は静かだった。先に動いた方がリスクが高い。米子は静かに呼吸をして様子を窺っていた。1分が1時間にも感じられた。何故か視界がぼやけ、頭の奥が痛くなった。シューっという音が微かに聞こえる。
「米子、敵襲だよ! 逃げて!」
ミントが叫びながらパイソンを構えて後ろのドアから入って来た。部屋の後方に伏せていた男2人が立ち上がってミントに銃を向けた。
『バン』 『バン』
ミントが発砲した。357マグナム弾が片方の男の胸の真ん中に当たって男が後ろにひっくり返った。
『パシュ』 『パシュ』 『パシュ』
米子は立ち上がりながらスタームルガーMK‐Ⅳを撃った。22LR弾とサプレッサーの相乗効果で銃声が極めて小さい。22LR弾が3発連続してもう一人の男の顔面に当たり、男はその場に崩れ落ちた。
『パン! パン!』 『パン! パン! パン!』
部屋の前方から銃声が響いた。男達が立ち上がって銃を撃っている。マズルフラシュが眩しい。銃はグロックだ。ミントの体から霧のような赤い血が勢いよく噴き出した。
『パン! パン!』 『パン! パン!』 『パン! パン!』
銃声はまだ続いている。
『パシュ パシュ パシュ パシュ パシュ』
米子は男達に向けて撃った。男達が机にぶつかりながら倒れる。ミントも後ろに倒れた。
「ミントちゃん!」
米子はミントに駆け寄った。ミントの胸と腹から血が流れている。ライトグレーのブレザーが血に染まっていく。
「ミントちゃん!? 大丈夫!?」
米子は叫びながら膝まづくとミントの両肩を掴んだ。
「米子、やられたよ・・・ もうだめだよ 目が開けられない、見えないよ・・・・・・」
「ミントちゃん! ミントちゃん! ダメ、目を開けて!」
「米子、生まれ変わっても、また友達になってね」
「ミントちゃん何言ってるの!!!」
「米子、また友達になってよ・・・お願いだよ・・・・・・米子と一緒だと寂しくないんだよ」
「うんっ! なるよ、なるから、ミントちゃん!! 目を開けて!」
「米子、約束だよ 絶対だよ・・・ 本当に・・・・・・絶対・・・だよ」
ミントの体から力が抜け、呼吸止まった。
「ミントちゃん? ミントちゃん!? だめだよミントちゃん! ミントちゃん、戻ってきて! ミントちゃん!!!!」
米子の目から涙が溢れた。米子は両親と弟を失った時以来、初めて涙を流した。
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