第5話 Chapter5 「半グレ集団 皆殺し」
Chapter5 「半グレ集団 皆殺し」
「米子、ミント、新しい仕事だ。二人でやって欲しい」
木崎が煙草の煙を吐き出しながら言った。
「二人でですか? 大きい仕事ですか? 煙草くさ!」
米子が訊いた。
「私はいいよ、米子が一緒なら心強いし」
ミントは乗り気だ。
「半グレ集団を殺って欲しい。人数は18人だ。いっぺんに殺って欲しい」
「多いですね。拳銃じゃ厳しいです。いっぺんって、場所の選択も難しいです」
米子が難色を示す。
「18人? そんなの無茶苦茶だよ! 成功したら給料上げてよ!」
ミントが抗議する。
「給料は上げられないが、ボーナスは払ってもいい。場所はやつらのアジトだ。川崎の埋立地にある。解体ヤードの中だ」
「どんなやつらですか? プロなら18人はムリです」
米子は冷静だった。
「最近台頭してきた半グレ集団だ。『ボンバードラゴン』と名乗ってる。オレオレ詐欺やクスリの売買や管理売春までやってる。暴力団顔負けだ。勢いがある集団で、殺しも平気でやる荒っぽい連中だ。ただヤクザと違って組織がフラットなんで実態が掴みにくい。だから一気に殲滅するんだ」
「一気にって、いくらアジトでも、そんなに都合よく集まりますかね?」
「2週間後に重要な集会がある。おそらく全員集まる。北山さんが調べた情報だ。そこに潜り込むんだ」
「18人でしょ、しかも向こうのアジトだよね、ちょっとヤバイんじゃない? 近づくのも難しそうだよ」
ミントが不安そうに言った。
「潜入方法はこっちで考えた。米子、潜入後の作戦を立てろ。アジトの見取り図がある」
木崎が地図と見取り図を机の上に広げた。
「この印は何ですか?」
「監視塔だ。鉄骨で高さ12mだ。おそらくライフルを装備している」
「潜入の方法を教えて下さい」
米子はしばらく考えてから訊いた。
「集会の後にパーティーがあるようだ。お前達二人にはそのパーティーの余興に楽器の演奏者として潜入してもらう。現役女子高生のコントラバスとチェロの2重奏だ。すでに契約済だ。渉外部隊がイベント会社を使って上手く捻じ込んだ。今回はゴミもいっぱい出るから掃除屋は近くで待機させる」
「半グレの人達がチェロなんか聴くんですか?」
米子が眉を寄せて訊いた。
「演奏の後は過激なストリップショーって事になってる。現役JKのな」
「趣味ワル! なんかサイテー! 米子どうする?」
「木崎さん、イングラムMAC10を2丁用意して下さい。弾は9mmでお願いします。弾倉は4つです。サプレッサー(消音器)もお願いします」
米子が言った。
「私はP90でいいよ。サプレッサーは付けるよ」
ミントが反応する。
「MAC10は2丁とも私が使うの。ミントちゃんはP90でいいよ。それとダイナマイト5本とロケットランチャーも用意してもらえますか?」
「いいけど最新型は難しいなあ。古い型なら可能だ。M72ならすぐに手配できる」
「米子、作戦立てたんだね! 米子の作戦なら安心だよ」
「ミント、髪の毛を黒く染めろ。清楚な感じにするんだ。その方がきっと受けがいい。ストリップへの期待が高まる」
「木崎さんエロっ。いやらしい目で見ないでよ」
「俺は子供には興味ない」
解体ヤードは高いフェンスに囲まれていた。フェンスのゲートが開いた。米子とミントはお揃いの制服を着ていた。ライトグレーのブレザー、ブルーのシャツにワインレッドのスクールリボン、グレーのチェックのミニスカートに黒いローファー、白いソックス。ミントは髪の毛を黒く染めていた。
「ケースの中を見せろ。デカいな。チャカが何十丁も入りそうだ」
門番小屋から出て来た男が言った。
「チャカって何ですかぁ~? なんか美味しそう、お菓子かな~」
ミントがあどけない声で言った。
米子とミントはコントラバスとチェロのケースを開けた。コントラバスのケースは全長200cm、チェロのケースは全長145cm。中はコントラバスとチェロの前面部分だけを切り取った物をダミーとして入れていた。楽器のケースとダミーは『劇団』と呼ばれる工作の支援部署が用意してくれた。劇団は作戦に応じて武器以外の必要な道具やエキストラのような人材を提供してくれる。大道具係や小道具係や役者のような人材を抱えてるので劇団と呼ばれている。
「よし、行け。正面の建物に入るんだ、階段を降りて地下室に行け」
ヤードの中はサッカーグラウンド2面ほどの広さで、土が剥き出しだった。右横には廃車が10台ほど積まれている。米子とミントはケースを持って70mほど奥にあるコンクリートの平屋を目指して歩いた。米子はコントラバスのキャリー付きケースを引きずった。
「米子、何もないね。でも空が広いよ」
「うん、晴れてて気持ちいいね。パーティーはあの建物の地下室だよ」
米子とミントは建物に入り、階段を降りて廊下を奥に歩いた。目つきの鋭い男が出迎えた。
「あんた達が女子高生の演奏者か?」
「はい、ニコニコ企画から依頼されて来ました」
「悪いが控室は無い。部屋に入って準備してくれ。それにしてもカワイイな。ダンスもしてくれるんだろ? 楽しみだ。俺もすぐに行く」
男は米子を舐め回すように見た。
部屋の中はパイプ椅子が4列に並び、男達が座っていた。手には缶ビールを持っている。皆ラフな服装で武器は所持していないようだ。男達は20代後半から30代後半のようだった。
「おおー、制服じゃねえか! しかもカワイイぜ!」
「本物の女子高生かよ! 後で学生証見せてくれ!」
男達から歓声が上がった。
「すみません、今から演奏の準備をしますので少し待ってて下さい」
米子が笑顔で言った。
「スゲエ、カワイイじゃねえか、芸能人みたいだな。来てよかったぜ! おい、早くしろよ!」
「演奏なんかいいから、さっさと脱いでくれよ、たまんねーぜ」
「上品ぶってないで脱げばいいんだよ!」
男達の目がギラギラしている。
「まずは演奏を聞いてい下さい、一生懸命練習しました。お楽しみはその後でゆっくりね~」
ミントがウインクをした。
「おおーーいいねーー、可愛がってやるからよーーー」
「早くしろーーーー」
米子とミントは床にケースを置くとしゃがんで蓋を開いた。男達から中は見えない。
「ミントちゃん、21人だよ。予定より3人多い。私は右、ミントちゃんは左をよろしくね。出入口もよろしく」
米子が小声で言った。米子とミントはダミー楽器をずらして銃のボルトを引いて安全装置を解除した。
「じゃあやろうか、3、2、1、それ!」
米子が言った。
米子とミントが同時に立ち上がった。男達の目が見開かれた。米子は左右の手それぞにMAC10を、ミントはP90を右脇に構えていた。MAC10もP90もサプレッサー(消音器)が付いていた。
『ジャカジャカジャカジャカジャカジャカジャカジャカ』 『ジャカジャカジャカジャカジャカジャカ』 『バスバスバスバスバスバスバス』 『ジャカジャカジャカジャカジャカジャカジャカジャカジャカジャカ』 『バスバスバスバスバスバスバス』 『バスバスバスバスバスバス』
凄まじい射撃だった。サプレッサーで銃声は抑えられているが、空薬莢がこれでもかと宙を舞って床で跳ねた。イングラムMAC10は弾倉の32発を1.5秒で吐き出すように発射する小型のマシンガンだ。座っていた男達から血煙が上がった。P90の5.7mm弾は男達の体に刺さるように食い込んで、その特性から体内でタンブリング(縦回転)して体を切り裂いた 。立ち上がろうとする男達は次々に被弾して倒れた。米子とミントは弾をばら撒くように撃ちながらも男達に正確に弾丸を浴びせた。銃声とは別に弾丸が男達の体に喰いこむ『ブスッ、ブスッ』という音が聞こえる。
「えっ?」 「うあっ!」 「うっ」 「えっ、何だ!?」 「クソっ!」 「うわーーーやめろ!」 「誰か、チャカ!」 「ぐふぁ」 「ぐぁ」
『バスバスバス』 『バスバス』 『バスバス』 『バスバスバス』
後ろの出口に向かった数人をミントが点射をして倒す。米子は左右のMAC10のグリップ底部のマガジンリリースレバーを親指で押してマガジンを自重で落下させた。しゃがんで左手のMAC10を床に置くと右手に持ったMAC10に予備のマガジンを装填して立ち上がった。セレククターレーをセミオートに切り替えた。這って逃げようとする男と呻き声を上げている男の頭をセミオートで狙い撃つ。部屋の中が静かになった。21人の男達が床に倒れている。硝煙の臭いと血の臭いが混じってなんとも言えない不快な臭いが漂う。
「半グレの皆さん、お疲れちゃ~ん! ってちょっと古いか」
ミントが大きな声で言った。
米子はコントラバスのケースからM72ロケットランチャーを取り出すとスリングに腕を通して肩に掛けた。
MAC10はケースに仕舞う。ミントもP90をチェロのケースに仕舞った。表側だけのダミーのチェロとコントラバスはその場に捨てた。
「ミントちゃん、行くよ」
米子はダイナマイトの束の長い導火線にターボライターで火をつけると部屋の中心に投げた。ケースをひきずって建物の入り口から20mほど歩くと米子は立ち止まった。M72ロケットランチャーを抱えて後部を引っ張って伸ばした。M72ロケットランチャーは伸縮式で短い状態では67cm、発射時は90cmになる『使い捨て』のロケットランチャーだ。米子は照星と照門を指で立てるとロケットランチャーを肩に担いで狙いを付けた。監視塔の上に男が二人。こっちを見ている。
『ズズーーン』
地下室でダイナマイトが爆発して地面が振動した。監視塔の男達が喚きながらこっちにライフルを向けた。距離は50m。
「ミントちゃん、離れて」
『バシューーーーーーー』
『ドッドーーン!!』
ロケット弾は真っすぐ飛んで監視塔上部に着弾して炸裂した。塔の上から男が2人吹き飛んで転落した。米子はM72ロケットランチャーを地面に置くと制服のポケットから『コーラグミ』の袋を取り出して2粒口に入れた。
「グミうま」
「米子、カッコイイ~! 私にも撃ち方教えてよ。訓練所で習ったけど忘れちゃったよ」
「ミントちゃん、私はゲートの男を殺るから、監視塔の二人にトドメを刺しといて」
米子は制服のポケットからコールドスチールの折り畳みナイフを取り出すと刃を開き、ゲートに向かって走り出した。門番の男はこっち見ていたがゲートを開けてヤードの外に走り出した。米子は全力疾走した。ミニスカートから出た白く長い生足が回転するように地面を蹴る。男に追いつくと追い抜き様にナイフを一閃させた。門番の男は首から血を噴き出しながらしばらく惰性で走り、もんどりを打って前に転がった。米子は100mを12秒フラット、1500mを3分50秒で走ることができる。インターハイに出場できる走力だ。運動能力の高さは1級工作員の中でも飛び抜けていた。
ゲートから2台の大型貨物トラック入ってきて建物の前で停まった。サイドパネルには『ハッピークリーニング清掃社』と書かれている。荷台の扉が開くとマスクを着けて帽子を被ったブルーの作業着の男達が10人ほど降りて来た。
「なんか引っ越しみたいだね」
米子が呟いた。
「半グレの皆さんがこの世から天国にお引越しだよ。違う、地獄か。でも私たちも地獄行だよね」
ミントが呟いた。
「どうだろう? まあ、天国には行けないよね」
「だよねー、地獄には怖い鬼がいるんだよ」
「そんなのマシンガンで穴だらけにしてロケットランチャーで吹き飛ばせばいいよ」
「米子ならやりそうだね。米子は強いね。ちょっと鬼が可哀想だよ」
ミントは制服を着た米子が鬼達にマシンガンの弾丸を浴びせてロケットランチャーを撃つ姿を想像した。鬼達は涙目だった。
「ゴミはどこですか? ヤードの外にあったのは回収しました」
助手席から降りた男が米子に話しかける。50代くらいだろうか、顔色が悪い。
「この建物の地下です。21個です。ダイナマイト使ったから状態は良くないかもしれません。でも誰も来ないからゆっくり掃除して下さい。あと、地上にも2つあります」
「しかし驚いたな。噂には聞いてたけど、JKアサシンって本当だったんだな」
男が呟くように言った。
「あの、あんまり詮索すると貴方達もゴミになりますよ」
米子が低い声で言った。
「すみません! 私達は何も見てません、一生懸命掃除頑張ります」
ゲートから黒いタウンエースが入ってきて米子達の横に停まった。運転しているのは木崎だ。
「よくやった。荷物は後ろに乗せろ。新宿まで送ってやる」
タウンエースは第一京浜を走っていた。
「木崎さん、完璧にやったよ。ボーナスは幾らかな~?」
ミントが笑顔で訊いた。
「18人だから18万円だ」
「えっ、21人だよ。見張りとかも入れると24人。だから24万円だよ!」
ミントが抗議する。
「悪い、もう申請したから無理だ、次の時に上乗せする」
「もう、お役所みたいだね。まあ、国の機関だから仕方ないのか」
ミントが残念そうに言った。
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