第4話 Chapter4 「昇天道場 師範保坂」
Chapter4 「昇天道場 師範保坂」
米子とミントは回転寿司『スシオー』で食事をしていた。
「米子、私ってさ、お寿司は滅多に食べないんだけど美味しいね」
「うん、私は大好物だよ」
「この白いの何? 初めて食べたけど、コリコリしてて超美味しいじゃん」
「エンガワだよ」
「エンガワ?」
「ヒラメやカレイのヒレの筋肉だよ」
「へえ、米子は何でも知ってるね」
「小学生の頃、家族で良く来たんだよ。あの頃は両親も弟もまだ生きてたんだ。お父さんがエンガワ好きだったんだよ」
「へえー、私は物心ついた時には施設だったから家族の思い出とか無いんだよね」
「今の生き方を続けるなら、その方がいいかも」
「だよねー。1人は気楽だよ。昔の思い出なんかいらないよ。思い出はこれから作ればいいし」
「今の生き方じゃあんまりいい思い出は作れないかもよ」
「米子って射撃上手いし、格闘術も強いし、頭も滅茶苦茶いいじゃん。ルックスだってアイドル並みだしさ、特級工作員になれるんじゃないの?」
「特級は20歳以上じゃないとなれないみたいだよ」
「そういえば木崎さんって特級らしいよ。自衛隊の特殊部隊にいたらしい。かなりヤバイ事やってたんだって」
「へえ、そんな情報どこから仕入れたの?」
「北山さんだよ。この前、あいつとファミレス行ったんだ。色目使ったらペラペラ喋っていろんな事教えてくれたよ。あいつ、女に慣れてないみたいだね。年齢イコール彼女いない歴じゃないのかな。そういえばあいつ、米子に気があるよ。米子の事いろいろ聞いてきたよ」
「そうなんだ。あの人35歳くらいだよね」
「うん、内閣情報統括室でサイバーテロ担当だったって自慢してた。木崎さんが引き抜いたらしいよ。見た目はキモいけど、ハッカーとしては凄いみたい」
「ふーん。でも、机の上のフィギュアはなんとかして欲しいよ」
「だよねー、美少女戦士みたいなの、5つも飾ってるよ。強い女性が好きなんじゃない。だから米子に気があるんだよ。気を付けた方がいいよ」
「そうかな。まあ、力では負けないけどね」
「だよねー。ねえ、明日道場行かない? 私さ、体小さいからさ、柔道の技は有り難いんだよね。力が無くても相手を投げ飛ばせる」
「いいよ。ジムにも行こうよ、私はキックの練習がしたい」
「米子は足が長いからいいなー。私、蹴り技は苦手だよ」
「ミントちゃん、ローキックとかカーフキックを鍛えるいいよ。凄く効くんだよ。傷も残らないし。私も滅多にハイキックは使わないよ」
「うん、そうするよ、ジムも行こう。ローキックか、覚えたらいろんな場面で使えそうだね。米子は訓練所で何習ってたの?」
「射撃と格闘術と爆破だよ。サバイバルも訓練したけどあれはきつかったよ。ミントちゃんは?」
「ほぼ同じだよ。サバイバルはあまりなかったなあ。でも、同い年なのに訓練所では会わなかったね。訓練期間は2年もあったのに」
「そうだね。私は北海道の訓練所だったよ。たしか訓練所は3か所だったよね?
ミントちゃんは?」
「私は群馬県だよ。色んな組織の人が来てたよ。大人も子供も。北海道の訓練所は厳しいらしいね。『菊』(防衛省)系だよね。群馬は『桜』(警察)系なんだよね。だから格闘術は柔道と逮捕術がメインだった。空手も習ったけどね。あと法律とか語学とか座学も多かったよ」
「私はサバイバル系が多かったね。格闘術は軍隊格闘技だったよ」
「サバイバル系って何やるの?」
「単独の山中行軍とか潜入や破壊工作だよ。食べ物は現地調達で野生の植物や動物を食べるんだよ。夜は野宿だったね」
「それはキツいね。北海道は優秀な訓練生が行くって聞いたよ、やっぱ米子は優秀なんだよ」
「どうだろうね。でも躊躇なく人を撃てるのは訓練の成果だよね」
「だよねー、大きなスクリーン使ったシミュレーターで反射的に撃つ訓練はイヤになるくらいいっぱいやったね。色んなシチュエーションがあったし、早く撃って当てないと電気ショックが痛かったよ」
「痛かったね。あれはアメリカ軍の新兵訓練プログラムらしいね。新兵は戦場で敵と遭遇しても殆どの兵士が焦って撃てなかったらしいけど、あのプログラムを導入してからほぼ100%の兵士が条件反射的に正確に撃てるようになったんだってさ」
「そうなんだ。私達は戦闘マシーンにされたんだね」
「でも、そのおかげで生きていられるんだよ。柔道の稽古も大事だよ」
「そうそう、柔道の師範の保坂って、なんかいやらしいよね。目が気持ち悪いんだよな。ロリコンって噂もあるし。高校の柔道部の顧問もやってたけど、セクハラで出入り禁止になったらしいよ」
「でも強いよね。警察でも柔道教えてるし、オリンピックの強化選手を鍛えてるんだって」
「ふーん、そうなんだ。でもあいつの稽古はやだな。やたらと寝技掛けてくるんだよね。この前も体をぴったり付けてきてあちこち触られたよ、米子も気を付けなよ」
「そうなんだ。じゃあ道場付き合うよ。明日17時に両国駅の改札ね」
格闘術や語学などの習い事については任務に直結するスキルとなるため、費用を組織は負担してくれる。
米子とミントは柔道着に着替えて基本技や乱取りの稽古を行った。柔道は力が無くても相手を崩してコントロールすることによって自分より大きな相手を投げる事ができる実に合理的な格闘術だ。戦前にルーズベルト大統領が柔道に惚れこんで、アメリカ海軍士官学校に日本の柔道家を呼んで指導させたのは有名な話だ。
師範の保坂が米子に試合形式の稽古を申し込んできた。保坂の瞑っているのか開いているのかわからない細い目が米子の体を舐めるように見ている。米子は組手争いでは上手く保坂の掴みを躱しが一瞬のスキを突かれて足を掛けられた。小内刈だ。米子が畳に仰向けに倒れると保坂は伸し掛かってきた。左手で奥襟を掴まれた。保坂は異常に体を押し付けて来る。米子はされるがままにした。保坂の右手が右足の内ももに伸びて来た。内ももを擦り上げるようにして保坂の掌が股間に近づく。米子は両足をクロスして保坂の掌を挟んだ。保坂の股間が米子の左のももに当たった。強く擦り付けて来る。その股間は硬かった。米子は右手を保坂の右手と自分の体の間に押し込んで保坂の股間を弄ると、道着の上から硬くなった一物を握って激しくしごいた。
「はうっ」
保坂が声を出した。米子はしごき続けた。
「沢村さん、やめるんだ」
「やめていいの?」
米子は甘い声を出した。
「やめろ、やめろ、まずい!」
「何がまずいの? どうしてまずいの? 道着の上からより直接の方がいい?」
米子はさらに甘い声を出した。
「神聖な道場で何を言ってる。あっ、あっ、とにかくやめるんだ! で、出、」
「じゃあ、やめるね」
「あっ、やめないで・・・・・・ハァ、ハァ」
「どっちなの」
米子は保坂の一物を強く握ると手首を勢いよく捻った。
「ゲフッ! イデーーーーー」
米子は右膝を保坂の股間に叩き込んだ。膝が睾丸にヒットした。
「ウゲッ!!」
保坂はダンゴ虫のように体を丸めて動かなくなった。
「米子、どしたの?」
稽古を見ていたミントが言った。
「この人の股間に変な生物が寄生してたから、やっつけてあげたの」
「キャハッハ、米子最高だよ!」
ミントが腹を押さえて愉快そうに笑った。
「米子、目黒のジム行こうよ、ローキック教えて」
「いいよ、そのかわり、『焼肉コング』で焼肉奢ってね」
「もう、私が奢ってばっかだね。でも、米子といると楽しいよ」
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