第29話 デート その②

 ジェットコースターの列に並んで少し。

 ようやくレンが戻ってきた。

「もう、遅いじゃない」

「わりぃ。これを探していたんだ」

 そう言ってジュースをピタと頬につける。

「冷たいの」

「笑顔が戻ったな」

「え」

「ずっと緊張していたみたいだったし。良かった」

「そう」

 受け取ったジュースを飲む私。

 好みのリンゴジュースだった。

 まさか、コレを探しに園内を回ったのだろうか?

 体力自慢の彼だ。できないことはない。

 確か、リンゴジュースは園内の中でも遠い位置にあったような。

 うん。ありがたい。

 ギュッとレンの腕をとる。

「やっぱりレンは優しいね。ありがと」

「そんなことないって。でも俺はアイとここにこられて幸せだ」

 くしゃっと笑うレン。

「もう。レンったら」

 そうこうしているうちにジェットコースターに乗り込む。

 コースターが高い位置まで上り詰めると、そこから一気に落下。

 速度を増していき、全身で風を浴びる。

 私は思わず叫び声を上げるが、隣のレンはずっと笑っていた。

 ジェットコースターを降りると、私は近くのベンチで休む。

 と、リンゴジュースを飲み終えてしまった。

「ほら。これでも飲め」

 そう言って自分の飲んでいたジュースを渡してくるレン。

「うん。ありがとう」

 おっ。さっきまでレンが飲んでいたもの。

 今度こそ、間接キス。

 ドキドキした気持ちで、ジュースをあおる。

「うん。苦い……」

 ジュースだと思っていたけど、中身はコーヒーだった。

 彼、大人っぽいの好きだもの。

 その割りには子どもみたいな行動をとるけどね。

 隣に座るレン。

「もう、可愛いな」

「そ、そう?」

 褒められて嬉しくない人間なんていない。

 私も今日のためにオシャレをしてきたのだから、褒められて当然よ。

「その格好もいいな。さすがアイ」

「まあね」

 そうは言うけど、部下に意見をもらって選んだ服だ。

 きっと私のイメージなんかも反映されているのだろう。

「そういうレンも格好いいよ」

「ありがとう。キミのために必死で選んだんだ」

「ふふ。嬉しい」

 なんだろう。こんなにもドキドキするのは。

 レンと一緒にいるだけで、こんなに幸せな気分になるのは。

 ギュッと抱きしめると、レンは驚いたように硬直する。

「ど、どうしたんだ? アイ」

「触れあっていたいの。だって、私たち恋人でしょう?」

「そう。だよな。うん」

 ギュッと抱きしめ返してくるレン。

 このぬくもり、なんだか安心する。

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