第28話 デート その①

「さて。今日は遊ぶぞー!」

 書類の整理や承認といった仕事をあらかた片付け終えて、私たちは遊園地で遊ぶことにした。

「まずは何に乗りたい? アイ」

「ふふ。こういうときは男のリードが大切なの」

「そうか。じゃあ、最初はコーヒーカップにでも乗るか?」

「コーヒーカップ?」

「ああ。すんごいんだぞ」

 ワクワクした様子のレンにつられて私も頬が緩む。

「じゃあ、行ってみましょう」

 私は初めてのコーヒーカップとやらに乗り込む。

 見た目は確かにコーヒーカップを模している。

 だが真ん中にハンドルがあり、回転軸がある。

「これは?」

「回転させると、カップも回るんだ」

 係員さんがスタートの合図を出すとカップが回り出す。

「わわ、なんだか不思議な気分」

「これからだぞ」

 武の心得があるレンはすごい勢いでハンドルを回し始める。

 くるくると回転を速めるカップ。

「ちょっ、これ大丈夫なの!?」

「ああ。大丈夫だ。問題ない!」

 回転し続けるカップ。

 髪の毛がボサボサになりそう。

 手ぐしで整えながら乗っていると、レンがハンドルを止める。

「ご、ごめん。気が利かなくて……」

「いいのよ。少年みたいだったし!」

 可愛かったなー。

「いやまあ……」

 そのままコーヒーカップは終わり、次の乗り物を探すために、ガイドブックを開く。

「やっぱり、遊園地と言えばジェットコースターだな」

「そう? ならいってみよう」

「ああ。今度は安全だからな!」

 まあ、コーヒーカップも危険だったわけじゃないけど。

 まだボサボサしている髪を整える。

 ジェットコースターの列は長蛇で、一時間待ちと言われた。

「うへ~。こんなに並ぶのかよ」

「はい。飲み物」

 水筒を持ち出す私。

「おう。ありがとう。気が利くな」

 グビッと飲むレン。

 その喉仏が気になる私。

「アイも飲んどけ」

「うん」

 水筒を受け取るとじーっとふちを見つめる私。

 これって間接キスだよね。

 いいのかな?

 まあ、恋人だしいいか。

 ドンッと後ろから体当たりされて水筒を落としてしまう。

「ああっ!!」

「大丈夫か。アイ」

 倒れそうになった私を支えてくれるレン。

 後ろからぶつかった子どもは帽子をとり、平伏する。

「ごめんなさい」

「怪我していなから大丈夫」

 私はそう返す。

「アイは優しいな。ちょっと待ってくれ」

 レンはそう言って、ちょっと席を外す。

「わだじのがんぜつぎず……」

 切ない気持ちで落ちた水筒を回収する。

 間接キスの機会を奪われたショックが大きくて、怒る気にもならなかったのだ。

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