第27話 調印式
そのせいで
もう和平への道は閉ざされたかに見えた。
だがレンと私は諦めたわけじゃない。
調印式当日。
私たちはお互いの理解努力と、平和とを誓い、その書類にサインをしていく。
「これで私たち宙と藩は互いの手を取り合い、素晴らしい仲間となるでしょう」
そう宣言し、互いに不足していた食糧や知識の分配を行う。
七瀬の一件で、世界は一度平和を手放した。
そう思われていた。
だが、意外にもお互いのトップは戦争を止めたがっていた。
いい加減、疲れたのだ。
国力を多く消費し、なおも戦い続ける。
そのことに意見し、疑問を持つ民草が増えたのだった。
こうして六十年近く続いていた差別に終止符をうつこととなった。
未だに差別的な意見は多い。
多いが入植者も確保している。
互いの文化交流は成功しつつあった。
本当の調印式よりも一年近く時間を有したが、それもお互いを知るいい機会になった。
私たちはようやく国民に顔向けできるようになっていた。
「アイ。これで俺たちも」
「ええ。そうね。レン」
調印式終了間際になり、私とレンは結婚の宣言をした。
「私はレン=フロックを」
「俺はアイ=レンティアと」
「愛しています」
「結婚する」
二人で宣言したことで、世界を震撼させた。
あの知と武で有名な二国間の結びつきが強くなったのだ。
世界は変わっていく。
「さ。これからが大変よ。レン」
「ああ、もちろんだとも」
しかしここで一つ問題が発生する。
「俺の家にこい」
「いえ。来るのはあなたよ、レン」
お互いにどこに住むかでもめているのであった。
「こっちにくるれば肉も野菜も食い放題だ」
「あら。こちらに来れば米もパンも食べ放題よ」
「何を言っている。良質なタンパク質はこちらだ」
「だけど糖質は抵抗力を高めるわ」
そんなやりとりを一時間もしていると、アストを含めた以下従事者が呆れ顔を浮かべる。
「あのー。アイ様」
アストが怖ず怖ずと手を挙げる。
「何よ?」「なんだ?」
「季節によって住む家を変えるのはどうでしょう?」
アストの意見は二人の仲裁役としてはもっとも正しい判断だった。
「それよ!」「それだ!」
「なら、4月頃の春と10月頃の秋は私の家にくればいい」
「何を言っている。その時期こそ、我が城に来い。4月と10月は乾期だから暑さを凌げる」
「「ん?」」
なんと過ごしやすい時期まで一緒であった。
お互いにいがみ合う結果となり、アストはタジタジ。
結果、この日だけでは決定することが困難であった。
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