第26話 死がもたらすもの

「あんたがいなければ、わたしだって可能性があったんだよ!」

「落ち着いてください。七瀬さん」

「あんたが奪った!」

 私はじりじりと後退する。

「あんたが死ねば、和平交渉も失敗する。そしたら、武の人は喜ぶっ!」

「そんなことありません!!」

「喜ぶんだよ!」

 激高とともにふり下ろされるナイフ。

 私は地を蹴り、切っ先をかわす。

「あんたが死ねば全て丸く収まるんだよ……!」

「だからって!」

 私はスカートの端を切り裂き、走り出す。

 大声を上げて助けを求める。

「いい声で鳴きな。アイ=レンティア!」

 クツクツと笑う七瀬。

「七瀬さん。こんなの哀しいだけです!」

「死んじゃえ!!」

 ナイフを投げてくる七瀬。

 しかもかなり正確だ。

 私が声をかけるために頭を揺らしたからかわせたものの。

 腰からナイフを取り出す七瀬。

「アイ様!」

 ハルトの姿が見える。

 大丈夫そうだ。

「あんたは――っ!!」

「ハルト。殺めないで!」

「承知しました!」

 ふとハルトの顔が緩む。

 手のひらから火球を生み出し、七瀬にぶつける。


☆★☆


「ははは。やったっ!」

 わたしはあの憎き目狐であるアイ=レンティアを殺した。

 レン様はそれに悲しんでいたけど、すぐに良くなるだろう。

 彼はその悲しみを埋めようと戦場に赴く。

「わたしがおそばにいます。ずっとお守りしますよ」

「七瀬、お前と話すことなど何もない」

 あれからずっとこの調子だ。

 早くわたしの価値に気がついて欲しい。

「お前を国外追放する」

「え。どういうことですか?」

 わたしは理解ができずに目を瞬く。

「お前はすぎた力を持ってしまったようだ。平民に戻れ」

「そ、そんなこと! だってレン様にふさわしいのはわたしだけでしょう?」

「俺は俺の愛する妻を自分で決める。お前は違う。俺の言うことが分からないか?」

「分かりません! だって藩の歴史も、武の歴史も古いのです。先祖代々お守りしてきたこの国を売るつもりですか!?」

「キミこそ、何をいっている。この国の民を守るが長の務めだ。そのためなら和平交渉は必要不可欠だった。それを壊したのはお前だろ?」

 冷たくつんざくような言葉を投げるレン。

「そ、そんなこと……。だってわたしは……」


『お前が殺した』

『お前が平和を奪った』

『簒奪者に報いを!』


 頭の中を駆け巡る思考に、未来予知に。

 わたしは苦しんだ。


「本当に大丈夫なの?」

 私は恐る恐るハルトに訊ねる。

「はい。これはただ未来を見せる魔法ですから」

 苦笑を浮かべるハルト。

「そう。ならいいのだけど」

 七瀬に死なれては困るのよ、私も。

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