第25話 和平交渉

「では調印式の日取りはいつにしましょうか?」

 アストが司会となり、和平交渉はうまくいっている。

「ああ。すぐにでも行おう」

「ですがメディアを巻き込む必要があります。交渉が成功した! だけでは国民に伝わりません」

「そうだな。今すぐにメディアへの呼びかけを」

 狼煙と伝書鳩を用意させる私たち。

「両軍の憤り、遺恨もあります。すぐにできるのでしょうか?」

 七瀬が鋭い質問をしてくる。

 確かに前戦で戦っていた者。その家族をおもんばかると軽くは言えないだろう。

「だが、それは亡くなっていた者たちの思いでもある。戦争を終わらせたいと。こんなことはもう嫌だと」

 レンが声を荒げると、周りにいた従者も浮かない顔をしている。

 知と武を持っても、感情は変えられない。

 人の心は癒やせない。

 それは分かっている。

 私だって何度も考えた。

「でもこれを新しい輝かしい未来のために変えていかねばなりません」

 できることなら戦争はもうしたくない。内戦もだ。

「こんな戦うだけの日常になんの意味があるというのです」

 私は声を高らかにする。

「でも、失礼」

 七瀬が立ち上がる。

「……わたしたちは自分たちの価値を認めさせたい。知らぬ存ぜぬを決め込む今の宙は見るに堪えない。それで始めたのです。彼らは自分たちの存在を知って欲しいのです。それさえも許されないのなら……」

 七瀬は机に向けて拳を叩く。

 そうだ。

 戦争を行うにはそれなりの理由がある。

 排斥されてきたもの。

 迫害をされてきたもの。

 理不尽に追い詰められたもの。

 誰もが、誰かから劣等種とみられている。

 そんな不平不満が、爆発すれば、また争いが起きる。

「……分かった」

「アイ!?」

 レンが驚いたようにこちらを見る。

「今後、政府運営の参画に辺り、和族の優先を盛り込もう」

 七瀬がちっと舌打ちをし、顔を背ける。

 私、何か間違えたのかしら。

「それでいいですか?」

 アストがその後を続ける。

「では、次の調印式でお願いします」

「レン、それに藩の皆様。お食事をご用意します。ごゆるりとおくつろぎください」

 私は誠意をもって言い、頭を下げる。

「ありがとう」

 レンが先陣を切って言うと、周りの者たちも優しい声を上げる。

「私はお化粧直ししてくるので……」

 あとはアストに任せ、私はトイレに向かう。

 トイレから戻る途中。

「七瀬、さん……?」

 私を待っていたのはレンのメイドである七瀬だった。

 他の藩の人々はすでにパーティー会場に行っているみたいだ。

「どうしたのですか? 七瀬さん」

「あんた、ホント嫌い!」

 折りたたみ式のナイフを陽光に輝かせる。

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