第21話 撃退

「敵歩兵部隊、90%を撃退。一部が歓楽街へ抜ける」

「追い込め! ビリー派はこれからも我が軍の敵になる。さっさと行かないか!」

 声を荒げるハルト。

「失礼、僕も行きます」

「はい。気をつけて」

 私はハルトの後ろ姿を見つめて、無事を祈るばかりだった。

 すぐにアストのもとに戻る。

 体力が回復したのか、廊下を壁伝いに歩いているアストを見つけた。

「ごめんなさい。すぐに救援できなくて」

「いいんです。きっと軍部にいたのですよね?」

「うん。そう」

「ならわたしも同じ事をしました。治癒魔法はできませんが……」

「ありがとう」

 私は肩を貸すと、気楽になったアストがよろよろと歩みを進める。

 軍部に戻ると、私は彼らの報告を待つしかなかった。

 アストの意見も聞きつつ、敵の追い込みを行う。

「わざと、逃がしているのですか?」

 アストが乾いた唇を震わせる。

「ええ。これで敵の本陣が分かればもうけもの。ですが殲滅できるのなら、それもありかもしれません」

「そうですか……」

 アストは少し哀しそうに目を伏せる。

「父上と、その仲間なのですけどね……」

 小さくアストは呟く。

「それは――」

「いえ。分かっています。アイ様はいつも正しい。ビリー様は支配という形で世界を平和にしようとした。でもそれは抑圧・武力の行使という、武の奴らと変わらない結果をもたらす。なら――」

 悲痛で眉根を寄せるアスト。

「なら――アイ様が知の王になるべきなのです」

 それを聞いていた他の軍人も、コクコクと頷く。

 中には涙を流し聞いている人もいる。

「……そうね。私、この世界を平和に導くわ」

 それにより黄色声援が沸き立つ。

「「「アイ様! アイ様! アイ様!!」」」

 歓声を受けて私は声を上げる。

「私、アイ=レンティアは、藩との停戦協議に向けて、話し合いを進めています。こんな私ですが、ついてきてくれると助かります」

「「「おおっー!!」」」


 私はほっと一息吐くと、報告を待つ。

「伝令。敵歩兵部隊の壊滅を確認。敵戦力のあぶり出しも終了。アイ様の予想通り、敵地に対して無条件降伏を勧告しました」

「分かったわ。ありがとう」

 そう言って私は玉座から立ち上がる。

「明日には藩の親善大使が訪れる。彼らに軍事力と豊富な資源を見せつけてやれ!」

「はっ!」

「資源とは……?」

「食糧にエネルギー、アートもいいでしょう。すぐに用意なさい」

「了解しました!」

 これで戦争が終わる。

 私は晴れてレンと付き合える。

 ワクワクしている。

 こんなに楽しい気分になったのは久々だ。

 さ。仕事デートをしにいくぞ。

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