第20話 流血のシナリオ

 目を覚ますとそこは執務室の中にある談話用のスペース。そのソファに寝ていた。

 ベッドとは違うちょっと堅いソファ。

 身体がちょっと痛い。

「アスト?」

 私は周囲に頭を巡らせると、こうした当人の名を呼ぶ。

 冴えない頭で私は立ち上がる。

「アスト!」

 そこには倒れ込んでいるアストの姿があった。

 胸の辺りに切り傷があり、血が流れている。

 治癒魔法を使い手当すると、顔色が良くなってきた。

「アイ、様……」

「しゃべらなくていい。治癒はできても、流れた血までは戻せないから」

「ビリー派の、やつ……ら」

「言わなくていい。分かったから」

 ビリー派。

 つまり私の父に傾倒する者たちの仕業なのだろう。

 アストが全力で守ってくれたお陰で私がいることは気づかれずにすんだのだろう。

「ごめんね。アスト」

 そう言ってアストの頭を撫でる。

「幸せものだぁ~」

 こんなに弱っているアストは初めてみた。

 まあ、これくらいで幸せを感じるなら……。

 いやこれも浮気に入るだろう。

 私は意を決してアストと距離を置く。

「アイ様?」

「ごめんね。でも私心に決めた人がいるから」

 私は部屋の外に出て、走り出す。

「アイ――――――ッ!」

 大声を上げるアスト。

 後ろ髪を引かれる思いだが、私はもう迷わない。


 宙には第二特別士官宙隊と呼ばれる特別な軍事力がある。

 彼らは私アイ=レンティアに主従した軍隊である。

 私は彼らの力を頼りにし、駆け出す。

「ハルト!」

「お待ちしていました。アイさま」

 ハルトと呼ばれた指揮艦長が敬礼をし、迎え入れてくれる。

「族は?」

「はっ。すでに八十パーセントを排除しております。完全排除まではもうしばらく待って頂けると幸いです」

「……私が指揮をとります。現在、動いている友軍と、敵勢力。それから武装を教えて」

「分かりました」

 ハルトは敬礼をし、すぐに戦力図を机に広げる。

 すぐに戦況を把握すると、私はすぐに命令を出す。

「こことここに戦力を集中させて」

「しかし、それでは逃げられます」

「こちらに残りの全部隊を集中させます」

「なんと! それでは敵をわざと泳がせるのですか!?」

「そう。誘い込み、そこで一網打尽です」

 知を巡らせた私は西と東に友軍を展開。空いた北側に敵歩兵部隊を誘導。両面からたたき落とす、というもの。

「やれる?」

「やらなくちゃいけませんよね。勅命だ! すぐにとりかかれ」

 ハルトは後ろにいた部下に投げかける。

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