第19話 会いたい

「あ゛あ゛あ゛。レンに会いたい……っ!!」

 私は執務室で大の字になり、身体をくねらせる。

「はぁ。本気ですか? アイ様」

「ぎゃっ! 誰もいないと思ったら。アスト」

「今回だけですよ。大使として迎え入れれば問題ないでしょう」

「それだ! 停戦に向けての話し合いという名目があればっ!」

「待ってください。停戦させれば毎日会えるのですよ?」

「そうだった!」

 私勇み、書類に向かうため席につく。

 書類の束から一枚手にする。

 と、隣にまた書類の束がドンッと置かれる。

「アスト、これはなに?」

「停戦協議に向けた資料になります。レン様を迎え入れるとなれば、そのセキュリティや開催場所、開催日時の資料なので、早めに提出――って待ちなさい」

 私が意気揚々と取りかかろうとすると、アストが素早い対応で止める。

「なに?」

「注意事項があります。こことここ、まだ記入しないでください」

「あー。なるほど。議会にかけるわけだ」

「そうです。さすがアイ様」

「あと開催日時は祭りの後がいいのかしら?」

「向こうも忙しい……と言いたいところですが、祭りで彼ら武の士気が上がる前にこちらとの停戦協議を進めましょう。意識を逸らすことができます」

「そうね。確かに反宙派はんちゅうはが士気を高める前に出鼻をくじけばこちらの優勢として話が進められるわ」

 こくこくと頷き、こちらの都合に合わせることにする。


 書類の提出を済ませると、アストはため息を吐く。

 その顔が哀しげにしているのも見えた。

「アスト。少し休みなさい」

「いえ。大丈夫です。アイ様こそ休んでください」

「無理よ。少しでも早い停戦協議をしたいのだから」

 アストが席を外し、ティーカップを持ってくる。

「小休憩くらいならいいでしょう?」

「……そうね。私も少しミスが増えてきたし」

 私は応接用に用意してあるソファに腰をかけて、アストのお茶煎れを見る。

 お茶を差し出されると、手に取り口に運ぶ。

「あちぃ……」

 ちょっと熱かった。

 私はフーフーと息を吹きかけて注意深くすする。

「うん。アストはお茶煎れも上手だね」

「それはどうも。でもこんなのできても……」

「いいえ。人は身体に現れるわよ。あなたの几帳面さが見えるわ」

「そうですか」

 ゆったりとした時間が経ち、私は重くなった瞼の先にアストを見る。

 眠い。

「アスト、何を……?」

「分かっていますか? あなたの言葉一つで世界は変わるのです。だから今は……」

「すい……みん、薬を、入れた。の、ね……」

「はい。少しおやすみください」

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