第18話 アスト

 宙の首都に帰ると私は書類と向き合う。

「うーん……」

「アイ様。そろそろ休憩しませんか?」

 アストが書類を持ってきておいて、そんなことを言う。

「そう言うなら、書類を増やさないでくれる?」

「あなたが王女になったことで国のあれこれを決める必要があるのです。今だけですよ」

 正論を言ってくるアスト。

 そんな会話をしたかったわけではないのに。

「……」

「どうかした? アスト。もしかして本気で休憩させる気?」

「それもありますが、あのお方はそんなに好きなのですか?」

 アストの言葉に私は手を止める。

「そんなに気に食わない?」

「はい。あなたについていけるのは自分だけだと思っていたので」

「それはどいう意味かしら?」

「言わなきゃ分からないですか?」

 ジーっとアストの顔を見つめる私。

 私だって鈍感じゃない。

 アストのことは知らないふりをしてきた。

 私に恋するなんて。

「今度も無視ですか?」

「そうね。聞かなかったことにしてあげる」

 肩をすくめやれやれといった表情をするアスト。

 かわいそうだがアストのサポートはこれからも必要になってくる。

 彼ほど優秀な部下は他にいない。

「もう……。どいてください。そして少し休んでください」

 アストは私の隣に椅子を持ってきて、手伝いだす。

 それも好意があってのことか。

 分からない。でも。

「ありがと」

「どういたしまして」

 二人で苦笑を浮かべて書類に取りかかる。


 未だに国内の混乱は大きい。

 私が国民の前に立ち、諫める必要がある。

 とアストの提案にのり、私は第二都市リジオネールを訪れていた。

 王宮の前には女王を一目見ようと集まってきた国民がいる。

 アストの台本通りに挨拶と気持ちを伝える。

 それだけの仕事だ。

 それだけなのに。

 国民の大喝采を浴び、むせび泣く人も現れる。

 叫び声を上げて「ジーク・アイ」と唱える者も少なくない。

 これからの時代を見据えている国民は多いのだ。

 さすが知の宙。

 理知と、知力に優れている。

 武の者ではこうはいかないだろう。

 ふと彼の顔が頭をよぎる。

 いや、武の者でも知を持つ者はいるか。

 苦笑を浮かべて私は演説を終える。

 国民の士気は高い。

 だが、これを戦争に使う気はない。

 確かに隣接している武の国・藩とは仲が悪い。敵対関係にある。

 それも全ては知と武とでどちらが優れているか、といったなんとも情けないマウントの取り合いで始まっている。

 私はその意味を問い、こんな無駄な争いをするべきではないとく。

 人はわかり合えるのだ。

 その可能性を私は信じたい。

 だからせめてものの思いを国民に投げたのだ。

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