第17話 別れ。

「私を育ててくれたの、感謝しているよ」

 もう泣くことも引き返すこともできない。

「私、アイ=レンティアは、知の者に告げる! 武力放棄をせよ! これは命令である」

 私が息を吹きかけていた部下が一斉に反旗を翻す。

 前々から仕込んでいた彼らが父ビリー側の知の者に敵対する。

「俺はレン=フロックだっ! 今から、我々は知の見方をする! 俺に続け――っ!」

 レンは声高に叫ぶと私の部下と共闘する。

 武の人は力を示せるならそれでいい者が多い。

 私を擁護するなんて、レンのカリスマ性がなければ叶わぬこと。

 隣に立ち歩んでいける。そんな彼に惚れたのだ。

 一時的に共闘した私たちはビリー派の軍を圧倒する。

「に、逃げろ――っ!!」

 ビリー軍は戦場から身を引いていく。

「深追いはするなっ! 人命の救護に当たれ!」

 声を上げて私は治療を求める者の傍に寄り添う。

「やはりアイは優しい。それは武の者にはない。人に寄り添い、知を示す。それがお主の生き方なのだな」

「そうよ。そしてあなたも優しい。武を持って死に人を出さぬように、まとめ上げている」

 苦笑を浮かべる私とレン。

「そうかもな。だが、俺たちはまだ敵対している。すぐに平和交渉というわけにも……」

「いいえ。やってみせるわ。私ならそうする」

「そうか。分かった。軍を撤退させる! 全軍引け!!」

 レンはそう言い、難民キャンプから離れていく。

 武の軍のほとんどがはんに帰っていく。


 私の治癒魔法で、我が軍の傷者を癒やしていく。

 そんな中、助けられない者も多い。

 悔しい。

 もっと助けることができれば、世界の憎しみはなくなるのに。

 どうして……。

「アスト。どうして人は傷つけあうのかしら?」

「……私見ですが、それは生きているから……じゃないでしょうか?」

「生きているから?」

「はい。誰もが、生きていれば誰かを傷つける。誰かに迷惑をかける」

「そんな後ろ向きな発言……」

 一瞥するとアストは苦しそうに笑む。

 彼も納得はしていないのかもしれない。

 ただ誰かの受け売りなだけで。

「さっ。アイ様。これからが大変ですよ」

「そうね……。まずは父の罪を断罪せねば」

 亡くなっている人でも罪は問える。

 そこから始めなくては知の者は納得しない。

 知略を巡らせるというのは、ルールにのっとらなくてはいけない。

「行くわよ。次のステージへ」

「はっ!」

 アストは綺麗な敬礼をし、自軍へ命令を下す。


 私はもう引き返せない。

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