第16話 仇討ち。

「どういうつもりだ? アイ」

「父上。あなたは差別主義が過ぎた。死んでもらう!」

 剣を父ビリーに突き立てる。

 それを前腕でいなし、私の顎をつかむビリー。

 さすが〝豪腕の君王くんのう〟。

 その筋力はただの剣じゃ貫けない。

「はっ。我が娘だろうと、裏切る者には容赦せぬ。苦しんで死ぬがいい!」

「娘の、気持ちも知らずに。何が親よ! この毒親!」

 私は手にした香水をビリーの目に散布する。

「のわっ! 何をする!」

 目が痛いのか、瞼を閉じて私を離す。

 もがき苦しんでいる姿を見て、気持ちが揺らぐ。

 本当に殺すしかないの?

「貴様は万死に値する!」

 ビリーは拳を地面にぶつける。

 衝撃波で砂埃が舞う。

「くっ。目くらましなど!」

 うめき走り出す私。

 砂埃が晴れる頃にはビリーは頭上にいた。

 私の頭に衝撃が走る。

 鋭い痛みにうめき、私は身体の力が抜けるのを感じた。

 殴られたのだ。

「親が子に手を挙げるなんて……!」

「貴様こそ。子が親を殺そうとするとはな! 育て方を間違えた」

「あんたは自分の地位しか考えないから! マリーだってそうだ! あんたたちのくだらない権力争いに巻き込んで!」

 私はカッとなって言い返す。

「死んでわびろ!!」

 ビリーは私の顔を捕まえると、そのまま天にかざす。

「このまま、死ねっ――――――っ!!」

「た、すけて……。レン!」



 天が曇る。

 いや、陰る。

 人影だ。

「俺の嫁を殺させん!」

 その腕を叩き切る彼。

「レン!!」

「アイ!!」

 私はレンの手を強く握りしめる。

「なるほど。貴様が、我の娘をたぶらかしたんだな! 武の者よっ!!」

 ビリーは憤りを見せてレンをめつける。

「違う! 私は自分の意思で彼を選んだ――未来を作るためにっ!」

 剣先に魔法をまとわりつかせ、私は剣を振るう。

 ビリーの身体を貫くことはできないが、弾くことはできる。隙を作ることができる。

 あとはレンが動ければ。

「ビリー=レンティアには死んでもらう!」

 レンがその武を持って力を振るう。

 剣先がビリーの腕を切り裂く。

 男らしく声を上げずにのけぞるビリー。

「……ごめんなさい。あなたは私を育ててくれた。でも間違えていたのよ。この世界は」

 その世界の犠牲者でもあるビリー。

 そのことを私は知っている。

 でもそれでも今ここで倒さなくちゃいけない。

 父の喉元に剣を突き刺――

「マリーよ。キミのかたきは……」

「父上!?」

 まさか母マリーの仇をとるために武と戦うことを決意したの!?

 私の大好きだった母の思いに報いるために?

 剣を止める。

 喉元には刺さらなかった。

 でも、父はもう……。

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