第14話 ビリー=レンティア

 父が戦場に赴いてから二日。

 私はただ父についていくだけじゃなかった。

 根回しと作戦概要の伝達。それに武の者との接触。

 私が彼と恋人になれないのはこの世界がおかしいから。

 この世界が狂っているから。

 だから、私は愛するために、父から力を奪う。

 そしてこの世界に平和と安定をもたらす。

 そう決意し、敵兵と対峙する。


 今日もまた敵兵との接触に成功した。

 相手はヨルミと呼ばれる武の者。


☆★☆


「なに? ヨルミが敵兵との接触をした、だと……?」

「はい。処分はいかがなさいましょうか?」

 敵に情けをかけられるなら、死にもの狂いで戦い抜け。

 それが武におけるおきての一つだ。

 だが、最近はそう言う話をよく聞く。

 相手はかなり頭の回る者らしい。

 武の力を上回り、その気力をそぎ、そして弱味につけ込む。

 武の才を持ちながら、こんな卑怯な真似ができるのはしかいない。

「俺も出る。今度は大丈夫だ。心配するな、七瀬」

「はっ。……しかし」

 言いよどむメイドの七瀬ななせ

「こちらから仕掛けるまでもないな。雑魚ざこだよ雑魚」

 恐らく、生真面目きまじめな七瀬のことだ。

 本心を知ったら、余計な心配をするだろう。

 俺はもう待てない。

 武の力を持って知をねじ伏せる。

 この世は力で征服すればよい。

 武を持って人々に分からせてやればいい。

 強い者に支配されるのは、元来人間という動物に備わった本能なのだから。

 知略などなくとも人は生きていける。

 むしろ――知を持つが故に無駄な争いをし、その知を持って人類存亡の危機にまで発展させたのだ。

 長く生きることが若者への負担になり、文明が進歩すれば環境汚染が起きる。

 全ては本能のまま、正しく生きれば良いのだ。

 それが人間の生きる道なのだ。

 知略を巡らせたところで人は変わらない。

 本質が変わらないのだから、いくら文明を発達させても意味がない。

 

 それから先、人は精神を統一し、文明を発達させるべきなのだ。

 分かる者だけがついてくれば良い。

 そう言った意味合いでは七瀬はよくやっている。

「七瀬、またも過酷な道になるかもしれぬが、ついてきてくれるか?」

「はいっ! もちろんです!!」

 輝かしい笑顔を浮かべる七瀬。

 やはりこやつも……。

 いや、それよりも。

 俺が戦場に出るタイミングも見極めねばなるまい。

 まったく厄介なことをしてくれたな、アイ。

 だが俺にもこの戦争を終わらせる意思がある。

 それには最大の敵がいる――。

「俺はビリー=レンティアを殺す」

 アイの父を。

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