第13話 予兆

 父ビリーが戦場に出て数日。

 藩を押しのけて宙が勝ち進んでいた。

「父上……」

「徹底的に叩け! 奴らにとって誰が導く者なのか、分からせてやれ!」

 人は〝知〟を持って初めて人間となる。

 他の動物とは違うのは〝知〟があるからだ。

 だが武がないと戦えない。

 だから私たちは知を駆使する。

 父上も知略が得意だ。

「ふん。奴らの王、武の長レン=フロックも現れぬ。もしや尻込みしているのではないか?」

 酒の席でそう高らかに笑う父。

 それに追従するように部下も酒を掲げる。

「アイも早く飲めるといいのだが」

「……そうですね」

 レンのことを悪く言うのが気に食わなかった。

 私だってすぐに終わらせたい。

 でも、彼を裏切ることなどできない。

「アイ。お前ももっと知略を学べ、過去のデータから分析しろ」

 そう言って父は子どもの頃から知を学ばせてきた。

 それが好きではなかった。

 人殺しの手伝いをするのがどうにも許せなかった。

 人は分かち合い、理解し合えると本気で思っていた。

 いや、今も思っている。

 だってレンとはうまくいっているのだから。

 彼を討つ理由が私にはない。

 ともに未来をつくっていくことを望んでいる。

 だが、父もその部下も思っていない。

 ただの猿としか思っていない連中が、わかり合えなくしている。

 人を見下すから、わかり合えない。

 同じ人間として正しく評価できないのが悪い。

 私たちはまだ可能性がある。

 知と武を持って、最高の人類に進化できる可能性が。

 武知ぶちじんとして。


「次は奴らの拠点アルワールに向かう。武器を整えろ」

 父は休む暇もなく、部下に命ずる。

「父上、少しは休めた方が……」

「なぁに。心配することはない。我はまだ戦える」

 傲慢だ。

 これは父の失態だ。

 そう思っていても私にできることは少ない。

 父の姿を見て、私は決意する。

 父が成し遂げなかったことを成し遂げるために。


 私がやるしかないんだ。


 じゃないといつまでも終わらない。

「奴らには知恵がないんだ。それこそ、猿同然だ」

「よっ。天下一!!」

 父の妄言に乗っかる部下たち。

 だがその中でも苦笑を浮かべていたり、マジマジと酒のラベルを見つめる人がいる。

 そのことに気がついた。

 私にもできることがある。

 確信めいたものが心の中に宿る。

 この心、無駄にしてたまるか。

 さっそくメモ帳を取り出し、作戦概要をまとめ上げる。

 宙の民草はみんな頭が回る。

 勝ち戦にならなければすぐに身を引く。

 説得材料が必要だ。

 すぐにでも図書館に駆け込みたい。

 私にならできる。

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