第12話 勝利の代償
「俺たちの勝利か……」
困惑と疲労の色が滲んでいる俺の顔。
鏡で見る俺は思ったよりもやつれてしまっている。
「大丈夫です。このまま、あの敵将を倒しましょう」
「何を言うかっ! 俺はあいつを……」
言葉に詰まる。
「殺せる、わけないだろ……」
絞り出すようにかすれた声が洗面所に響く。
「でも、そうしないとこの戦争は終わりません。レン様が戦う必要なんてないのです」
「七瀬、言っていいことと、悪いことがあるぞ」
「わたしは! あなたを押したい申しております。その意味が分からないレン様ではないでしょう!?」
感極まった七瀬が声を荒げる。
「七瀬……」
彼女もまた悩み苦しんでいるのだ。
それを知らなかった俺も悪い。
だが、だからと言って俺の気持ちが変わるわけじゃない。
「お前は頭を冷やせ」
「そうですね。でもアレックスらの士気は収まりませんよ?」
「分かっている」
アレックスたち、部下が戦いたがるのは無理もない話。
勝ち戦とばかりに兵の士気が上がっている。
このままでは部下がいつ暴発してもおかしくはない。
部下からの信頼が厚いが、それを面白くない奴も山ほどいる。
俺だってこの戦争を終わらせたい。
だが、それは相手を滅ぼして、という意味ではない。
あくまでも和平交渉が目的だ。
武で人々を従える。
民草を守るだけの力が必要なのだ。
変えようとする気すら起こさせない。
そのためには武が必要だ。
人々を暴力から守るために力を行使する。
矛盾していることも分かっている。
だが、そうでもしなければ、この世界は変わらぬ。
いつまで経っても平和は訪れない。
何も変わらない。
「とりあえず、次の作戦を考えてください。もう抑え込むのは難しいです」
必死に説得を試みている七瀬。
彼女も必死で生きようとしている。
なのに、どうしてこうもすれ違う。
どうして手をつなげない。
「――っ。分かった。明日中になんとかする」
俺は歯がみしたくなる現実を受け入れることにした。
作戦指揮は俺の仕事でもある。
武に長けている俺たちは知の連中と真っ正面からぶつかり合えば、勝てるのだ。
だが、知に長けた相手は策略を練る。
九割の勝利を、知略で三割にまで抑え込むことができる。
あのアイならそのくらいのことはやってのける。
彼女が本気を出さなかったから、今回は勝てたのだ。
それを理解している武の者は少ない。
「真っ正面からは戦えない。どうすれば……」
理解はしているが、俺も武の者。
知恵を絞っても良い結果など……。
「俺は、どうすれば……」
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