第11話 敗退

「今回の戦闘で我が軍は敗退しました。これに対してアイ様はどう思うのですか?」

 私の父ビリー=レンティアが厳しい言葉を突きつける。

「それは……。でも部下の損耗率は比較的少ないです」

「そういうことを言っているのではない。敗退すれば、部下の士気も下がる。どう思っているのだ」

 声を荒げる父。

 なんだよ。そんなの知るかよ。

 私は心の中で悪態を吐き、切り替える。

「はっ。申し訳ありません。以後気をつけます」

「いいや。今度は我も参戦する。藩の長であるレン=フロックを倒せば、この戦争は終わる!」

 え。今なんて……。

 レンを殺す?

 そんなバカな。

「そんなっ!!」

「お前はあいつに一度も勝てなかった。その原因はお前の力不足にある。違うか?」

 違う。

 私が手心を加えていたから。

 愛し合っていることをひたすらに隠してきたから。

 でもそんな彼を父は殺すつもりなのだ。

 この終わりの見えない戦いに終止符を打とうとしている。

「父上、私一人で十分です」

「それでは、お主にやつを倒せる秘策があるとでも?」

「……それは」

 言いよどむ。

 私に彼が倒せるわけがない。

 でも父に彼を殺させるわけにもいかない。

 私はどうしたらいい?


 父との謁見を終えて、ふらつく足取りで通い慣れた調理室へと向かう。

「姫様、顔色が悪いですよ?」

 料理長が不安そうに訊ねてくる。

「アスト様をお呼びします」

 私はどうしたらいいのだろう。

 彼を殺めなくちゃいけないのだろうか。

 そんなの嫌だ。

「そうだ。亡命してもらえれば……」

 話し合えば平和条約を結べるかもしれない。


 この時の私は勝ち戦だったレンの部下の士気が上がっている。そして白旗を揚げる理由がないことを頭から振り落としていた……。



☆★☆


「アイの様子がおかしい。アスト、何か知らんか?」

「……知りません」

「だが、お主はいつも傍にいたではないか」

「は。しかし……」

 何も知らないのは事実だ。

 だが、どこか手を抜いていることは分かっていた。

 アイ様なら、彼を倒せない訳がない。

 彼女は歴代の知将の中でも最強と呼ばれている。

 そんな彼女があんな武の男に負ける訳がない。

 それはビリー様も分かっているのだ。

 どうして?

 その疑問は自分も一緒だ。

「アスト。貴殿に命ずる」

「はっ!」

「アイを監視しろ」

「分かりました」

 この戦争が一刻も早く終わるなら……。

 すみません。アイ。

 でも自分はまだアイを、

 身分の違いは分かっている。

 自分はビリー様の勅命を受けると、さっそくアイ様の元へ向かう。

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