第9話 弁当の乱
「イリーで藩の動きが活発化しています。アイ様、司令を!」
「アスト。分かったわ。私も行きます」
両手に弁当を携えて前戦へと向かう。
あれから二週間。
ずいぶんと料理はうまくなったが、それでも不安はある。
彼がおいしいと言ってくれなかったらどうしよう……。
不安と期待に押し潰れそうになりながら、前戦へと向かう。
しばらくして、本陣を構えた作戦司令室に行く。
「私も前に出る。こちらにトラップはない。知を知る者ならその知を活かせ」
私は両脇に剣を携えて前戦に向かう。もちろん弁当箱も持って。
弁当箱を持ちながら、蹴りを食らわせる。
「遅い!」
敵の剣戟をかわし、金属製の弁当箱で殴りつける。
敵兵がひるんでいる間に、私は真っ直ぐに敵本陣へと向かう。
「このまま突貫するわ!」
「待ってください! アイ様!」
アストが後から追いかけようとするが、敵兵に阻まれてしまう。
飛翔し、かかとで敵兵を踏みつける。
飛び越えた先で回し蹴りを食らわせる。
後ろから飛び込んできた別の敵兵に向けて、肘鉄を食らわせる。
「こいつ!」
「両手がふさがっているのに!」
敵兵は困惑気味に悲鳴を上げる。
倒していくと、敵将が目の前に現れる。
「ほう。ここまでくるとはいい度胸だ。俺が相手してやる」
私はにやりと口の端を歪めて、声を上げる。
「あら。あなたはそんなに強くなさそうだけど?」
「言ってくれる」
レンは私の蹴りをかわし、剣をふり下ろす。
その切っ先を腰の剣でいなす。
そうして切り結んでいるなかで、徐々に丘の向こうへと向かう。
若干の日陰になっているそこに誘導する私。
それを知ってかレンも呼吸を合わせる。
高度な肉弾戦に他の誰もついてはこれない。
丘の向こうにたどりつくと、レンは構えを解く。
「それで? どうしてこんな真似を」
「そ、その……。ええっと……」
ちょっと恥ずかしい。
顔が赤くなっていると思う。
男の子のために料理を作ってきた。
それだけなのに、私にとってはもじもじしてしまうほど不安が大きい。
そんな私を見てギュッと抱きしめてくれるレン。
「大丈夫だよ。気にしないで」
「うん。ありがと」
そう言って、私は弁当箱をレジャーシートの上に乗せる。
「お弁当作ってきたの。一緒に食べよ?」
「おお! ありがとう」
レンは私の手をとって、少し困った顔をする。
そしてクスッと笑みを漏らす。
「頑張ったね。ありがとう」
私の手、その絆創膏を見たんだ。
「もっとうまくできればよかったけど……」
本当にそう思う。
けっきょく、料理長には勝てなかった。
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