第6話 オコノミヤキ

 決して寡黙と言う訳ではない。

 でもおしゃべりと言う訳でもない。

 彼はそんな人だ。

 そしてとても優しい。紳士的である。

 私が彼に惹かれるには十分だった。

「これがオコノミヤキか……」

 私の前で焼いてくれた謎の料理オコノミヤキに興味津々なレン。

 ちょっと可愛い。大型犬みたいな印象がある。

「たっぷりソースがかかっているけど、どうなのでしょうね?」

 七瀬さんが苦笑いを浮かべている。

「でも最近流行っているらしい。それはうまいからじゃないか?」

 レンはあくまで知的に語る。

 本当にあの武の才を認められた歴代の党首なのだろうか?

 躊躇は終わりとばかりにパクッと食べるレン。

「ぅ……」

 ゴクリと生唾を飲む七瀬。

「うまい……!」

 本当に美味しいのか、二口目は早かった。

 私もならうようにして口に運ぶ。

「ホント……おいしい」

 ソースの甘塩っぱさと、柔らかな生地の甘み。シャキシャキ食感のキャベツ。

 その全てをまとめあげている。

「これ、うちでも作れないかしら……」

「俺のところでも用意して欲しいな」

「努力します」

 七瀬さんがメイドらしくこくりと頷いて見せる。

 パクパク食べていくと、ふとレンが呟く。

「俺、母さんの手作りが好きだったんだよ」

「そう。じゃあ、今度作ってこようか?」

 レンの言葉に私は提案する。

 でも姫である私はあまり料理が得意ではない。

「レン様……」

 気遣わしげに呟く七瀬さん。

 メイドとしては看過できない提案だったのだろう。

 とはいえ、王の決めたことだ。そう簡単に否定もできない。

「本当か? 作ってきてくれ。頼む」

 仰々しく頭を下げるレン。

 これが和平交渉なら――。

 とにもかくにも一国の王がそう簡単に頭を下げることはない。

 が、それにも関わらず彼はそれを選んだ。

「そんなに食べたい?」

「ああ。もちろんだ」

「ふ、ふーん。考えておくよ」

「やぁった!」

 子どものようにはしゃぐレン。

 ちょっと可愛いな、と思ってしまった。

「オコノミヤキもうまいが、手料理はもっとうまいんだ」

 うんうん、と嬉しそうにしている。

 これは気合いを入れて作らないとね。

「ちなみに好きな料理は?」

「アイが作ってくれるなら、なんでも」

 私としては嬉しいけど、困るような言葉でもある。

「もっと具体的に」

「そうだな」

 おとがいに手を当てて深刻に考え出すレン。

「卵焼き、ハンバーグ、唐揚げ、どれも捨てがたいな……」

 ぶつぶつと念仏を唱えるように候補を挙げてくれるレン。

 私はその言葉を一字一句もらさずに脳内メモをとることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る