第4話 中立都市『ジュール』
中立都市『ジュール』。
観光地として名を馳せており、演劇や美術館、動物園に、美味しい食事までそろっている。
食べることが好きな私は、今日も雰囲気の良さそうなカフェに入る。ちなみにアストも一緒だ。
「アイ様。こんなお店ダメですよ」
「なんで? こんなにいいところじゃない」
高級じゃないけど、庶民的で暖かな空気が流れているのに、アストは否定する。
たぶん、彼の中では高級店に入るのを望んでいるのだろう。
姫様だから。
そんなのは私にとって嬉しくないけどね。
オリジナルコーヒーのケーキセットを注文する。
アストは一番高いケーキを頼んでいた。
「しかし、アイ様はずるいお人です」
「なぜ?」
「その美貌を持ちながらも、まったく男になびかないではありませんか」
「ふふ。私は私を信じてくれる人が好きなのです。みな、自分の手元においておきたい。その程度でしょう?」
運ばれてきたコーヒーをくいっと飲み、舌で丁寧に味わう。
うん。悪くない。
「そうですか……。自分も信頼していると思うのですが」
苦笑を浮かべるアスト。
「ええ。宙の国民にしては信頼できるわ」
知を基礎としている宙だが、その性質上、ウラオモテのある人が多いのだ。
謀略・知略を張り巡らせている者も多い。
なぜレンのように男気のある人は少ないのか。
ほとほと困っている。
ケーキを頂くと、外にレンの姿が見える。
「ちょっと用事を思い出したわ!」
「えっ!? あ、アイ様!?」
アストが会計をする隙を突いて、私は外にいたレンに突進する。
「レン……っ!」
「何やつ!」
レンの護衛が刀を鞘から抜き、切っ先を向けてくる。
「アイ!?」
私はその刀を指でへし曲げて、レンに抱きつく。
「押したい申しております!」
「ああ。俺もだ」
くしゃくしゃの笑みをもらすレン。
「そこ、まがいなりにも敵将ですよ」
抗議の声を上げる護衛の女性。
「ああ。すまない」
レンがポンッと護衛さんの頭に手をのせる。
「こいつは
なんか面白くない。
レンが親しそうにしているのも、その行動も気に食わない。
ふくれっ面を浮かべていると、レンは頭をガシガシと掻く。
「そ、そうだ。これから劇場に行こうと思うんだ。くるかい?」
「……ええ。行きますともっ!」
自分でも自分の感情がコントロールできない。
一国の将がこれでは、とも思うが。
面白くないのに変わりはない。
「じゃあ、行くぞ」
そう言って私の手を取るレン。
もう。こういうところが好き♡
「ふ、ふん。分かっているじゃない♪」
「何か言ったか?」
「なんでも♪」
困ったようにため息を吐くレン。
そんな姿も可愛い。
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