第16話 プチ同棲
仲直りした修二とかなめは、強く抱き合い、その夜はかなめは修二の家に泊まった。1度目のような鈍痛はなく、自然に修二を受け入れることができた。
終わったあとも、修二はかなめの髪を撫でたり、キスをしてきたり、なかなか寝させてくれなかった。
その日から、かなめは修二を修ちゃんと呼ぶようになった。呼び捨ては恥ずかしかったからだ。
翌日、さすがに2日連続で学校をサボることはできず、修二はいつも通り大学に行った。
午前中休講のかなめは一度家に帰った。
家には母がおり、「泊まるんだったら、電話くらいしなさい!それにいつも泊まっちゃ、さおりちゃんにも迷惑でしょ!」
昨晩、帰ってこない、かなめを心配して電話をしたが出ず、さおりに電話したら「もう寝てる」と言われたそうだ。さおりがうまく誤魔化してくれたようだ。
2人の関係は、それまであった、どこかぎこちない感じも消え、雰囲気もよくなった。
かなめは、毎日が楽しくてしかたなかった。バイトも学校も全てが輝いて見えた。
前はマクドやファミレスに行くことが多かったが修二の家で2人で過ごすことが増えた。
ある日、修二の家で、修二から「お互い、学生やから学業を優先にしよう」と言われた。理系は単位を取るのが難しいと聞いていたし、修二の邪魔になるのは嫌だったから、素直に納得した。
背を向けて「かなめのことだけで頭がいっぱいになりそうで、大変やから」と小声で言った。
かなめは嬉しくなって、後ろから修二にくっついた。
「やめろや」と言いながら、振り向きキスをした。
かなめの変化は、周りにも分かるようで、加奈子さんから「かなめちゃん、可愛くなったし明るくなったね、幸せそう」と言われた。「そうですか?」と誤魔化したが、かなめは幸せだった。
ある日、バイトが終わり家に帰ると、険悪な雰囲気だった。
上の姉が帰省していて、「また、夜遊び?!」といきなり怒鳴られた。
ムッとなり、「バイトだったの!」
「バイト、バイトって何してるんだか」
父が「かなめは、ちゃんとしてるよ、バイト代から家にも金入れてるし」と言ってくれたが、
「お金ったって、払ってる学費に比べたら、はした金でしょ!偉そうにしないでよ」
かなめが言い返そうとすると、佐和子は続けて「お母さん、こんな子、産まなきゃよかったのよ、あんた知らないかもしれないけど、あんた妊娠したとき、お母さん、あんたを堕そうとしてたのよ、それをお父さんが止めただけ。分かった?あんなは要らない子なのよ!」
今までも、酷いことは言われてきたが、ここまでのことを言われたのは、初めてだった。怒りと悲しみがこみ上げてきた。
悲しかったのは、父も母も何も言ってくれなかったことだ。
思わず、かなめは家を飛び出した。
修二の家に行き、「どないしたん?」と言う修二には応えず、泣きながら修二に抱きついた。
なにがあったか話すと、修二は何も言わず優しく抱きしめてくれ、かなめが泣き止むまで頭を撫でてくれた。
そのあと、修二の家族についても話してくれた。修二は大阪で生まれ育った。両親は仲が悪く、その原因は父親の浮気だった。ケンカが絶えず、修二が中学2年のときに離婚した。
父親は優秀だった兄だけを引き取り、修二と母親は、母の実家があった三重に移り住んだ。それ以来、父と兄には会っていないと教えてくれた。
修二の暗い過去を聞くのは初めてだった。
その日は終電が終わっていたので、修二の家に泊まることになったが、次の日は帰った方がいいと修二から言われた。
気が重いまま、バイト先に行くと、下の姉がカウンターに座っていた。
「どうしたの?」
「これ持ってきたの、着替え。それより、あんた昨日はどこ泊まったの?さおりちゃんに電話したら繋がらなくて、今朝、さおりちゃんの自宅に電話したら、おばあちゃんが来てないって言うし」
答えられずにいると、
加奈子さんが「うちに泊めたんです、連絡しなくて申し訳ありません」と援護してくれた。
「すいません、妹がご迷惑をおかけして」といい。
「うちは全く構わないですよ。かなめちゃん、そっちの席でゆっくり話したら」と奥のテーブル席を手で指した。
「佐和ちゃん、今回は長くなりそうだから、ほとぼりが冷めるまで、帰ってこなくていいって、お母さんが」
それは、母のかなめに対する優しさなのか、姉への気遣いなのか、分からなかった。
話し終えると下の姉は帰っていった。
これで正式に修二の家にいることができると、かなめは内心嬉しかった。
修二は「ほんまに、ええんかな?」と言いながら、嬉しそうだった。
次の日から、朝は修二と一緒に起き、かなめは洗濯をし、修二は朝食の準備をし、一緒に朝ごはんを食べ、出かける前は新婚カップルのようにキスをした。夕食は2人で作り一緒に食べ、夜は遅くまで色んなことを語りあった。
かなめには、夢のような時間だった。
修二の家に滞在し3日が過ぎ、4日目、授業が終わる頃、加奈子さんから電話があった。お父さんが迎えにきてる。と。
慌ててバイト先に行くと、父は手土産を出しながら、マスター夫婦にお礼を言っていた。マスターは気まずそうにしてたが、加奈子さんがうまく立ち回ってくれた。
「かなめちゃん、今日はバイトはいいから、お父さんと一緒に帰りなさい」
と言われ、父と一緒にバイト先を出ると、修二と会った。
「お父さん、バイトでお世話になってる先輩の修二さん」と紹介した。
父が「いつも娘がお世話になってます」と言うと、「こちらこそ、お世話になってます」と、いつになく緊張した様子で修二が応えた。
修二がバイトが終わって家に着く頃、かなめは修二に電話をした。
「何も言わずに帰って、ごめんなさい」
「ええよ。事情は加奈子さんから聞いたし」
お父さんに、ちゃんと紹介すれば良かったかな?と聞くと、「どうなんやろな」と迷ってる様子だった。
気まずさを吹き飛ばすつもりで、かなめから冗談ぽく「私が帰って寂しい?」と聞くと、少し間があき、照れくさそうに「そりゃ、寂しいよ」と言った。
「すぐにとは言わんけど、2人とも社会に出たら、一緒に住もうか?そん時は、かなめの両親にもちゃんと挨拶をして、許しをもらって」と修二は言ってくれた。
かなめは、嬉しかった。卒業までは、まだまだ先だが、その日が待ち遠しかった。修ちゃんと一緒に住める、ずっと一緒にいられる、そう考えるだけで、ワクワクした。
目覚めると、夏の日差しが眩しく本格的な夏の到来を教えた。
電話が鳴った、下の姉からだ。
「これからそっち行っていい?」と言われ不思議に思ったが、断る理由もないので迎いいれることにした。
1時間くらいすると、お土産をたくさん持ってやってきた。
「これ、うちにあった物だから大した物ないけど、食べて」と食料品が入った紙袋を2つ渡してくれた。
「どうしたの?」
「ああ、たまには都会に出て買い物でもしようと思って、ついでに寄ったの」
「ふ~ん」
「それに佐和ちゃんが心配して、様子を見に行って欲しいと頼まれてね」
「えっ?」
「佐和ちゃん、あんなだけど、結構、あんたのこと気に掛けてんのよ。」
信じられなかった。上の姉は身勝手で、かなめには、いつも辛くあたるからだ。
「本当はうちで引き取って休ませてあげたいけど、余裕がないからできないって。だから、私に助けてやって欲しいってね。
あんた仕事辞めて、お金は大丈夫なの?」
「お父さんからの遺産も使ってなかったし、そのうち新しい仕事も探すから」
「まぁ、少し休むのもいいわね、人生長いんだから休みも必要よね」と笑顔で語りかけてくれた。
涙が出そうになった。
上の姉が心配してるのが、意外だったので、真意を聞くと
「佐和ちゃんさ、小さい頃は苦労したのよ。」
父は友人と共同で工場を経営していた。その友人が借金を作り失踪してしまった。連帯保証人になっていた父は借金を抱え、毎日のように借金取りが家に来ては、父を殴ったそうだ。上の姉が、2才の頃だ。それを見て泣き止まない姉に、借とりは蹴りを入れた。今ならとんでもない話だが、40年前は、まかり通っていた。
しばらくして借金は返済できるようになって、借金取りも来なくなったが、姉はトラウマになり、思い出しては奇声をあげるようになった。
そんな姉を不憫に思った両親は上の姉が理不尽なことを言っても、強いことは言えなくなった。
全てが落ち着いた頃に、かなめは生まれた。年をとってからの子供で、身体が弱かったかなめを、父はことのほか可愛がった。
「あんたが羨ましかったのよ。あんたは運が強いというか、いつも何かに守られてるところがあるから」
確かにそうだ。高校、大学はさおりが傍にいてくれたし、修ちゃんも守ってくれていた。朝見さんも優しかった。
「佐和ちゃんも悪いのよ、男に依存しすぎ。結婚前に付き合ってた男も最低だったけど、今の旦那もひどい。稼ぎが悪いくせに浮気ばっかりするし、佐和ちゃんのところ、子供がいないじゃない、それを姑が責めて、いびってくるのに庇ってもくれない。おまけに新しい事業始めては失敗してるしね。そんな男、見切りつけて、とっとと別れればいいのよ。まったく。
お母さんを呼び寄せたのだって味方が欲しかっただけなんだから」
上の姉も大変なのだと知った。これで、今までのことが帳消しになるわけではないが、姉の見方を変えようと思った。
かなめは、そろそろ次のことを考えないと、と思い始めてきた。
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