第15話 正直な気持ち

さおりの家に着くと、さおりはミシンで何かを作っていた。

「これ、大学の課題なの、もう少しで終わるから、ちょっと待ってて、ビールでも飲む?」と言ったが、かなめの顔を見て、立ち上がりホットミルクを持ってきてくれた。

「それ飲んで、少しは落ち着きな」と言われ、涙を流しながら、ホットミルクを飲んだ。


肩にブランケットがかかるのに気付き目が覚めた。

さおりの家だった。さおりのベッドに凭れかかり寝ていたようだ。

「ごめん、遅くなって」

時計を見ると午前1時近かった。

さおりは優しい声で「どうする?このまま寝る?話する?」と言われると、かなめは、また泣き出した。

さおりは、かなめの話を黙って聞いてくれた。

聞き終わると、

「その人、良い人なんじゃない?1回しただけで、満足する男なんていないし、かなめのこと大事にするって言ってくれたんでしょ?じゃあ、大切にしてくれてるだけだと思うけど」


自分には色気がないこと、女らしくないし、キャピキャピもしてないしとコンプレックスを話すと

「男が求める女の好みなんて、人それぞれだよ。それに、かなめに色気がないって誰が言ったの?自分が思ってるだけでしょ?」


欠点ばかりで、人としても魅力がないと言うと、

「そんなことないよ!私はかなめの良いとこいっぱい知ってるよ!」疑う目をしたかなめに、さおりは続けて

「かなめには嘘がない、それに人を不快にするようなことは言わないし、人の悪口も殆ど言わない、話しやすいし一緒にいるとホッとする。」

さおりの言葉は嬉しかった。でもやっぱり自信が持てなかった。


「かなめには言ってなかったけど、私さ初体験、中2なんだ。家に来てた大学生の家庭教師で、私の方が好きになって、近づいたんだけど。

相手はヤりたかっただけ。痛がる私に無理やり押し込めてきて、泣いて止めてって言ったけど、止めてくれなかった。

その後、来る度にしたがって、家庭教師しに来てるんだか、ヤりに来てるんだか分からなかった。避妊もしてくれなかったし、妊娠はしなかったけど、そのうち親に見つかって、その家庭教師はクビ。

それからは、父親はまるで汚いものを見るような目で私を見るし、母親は父親の言いなりで庇ってもくれなかった。それで家を飛び出して、夜遊びするようになったの」

知らなかった。何も言えずにいると

「かなめが私を立ち直らせてくれたんだよ」と言われ、驚いた。

「覚えてない?高2の時、そのとき付き合ってた男も最低で、身体ばっかり求めてくるし、挙げ句には薬も進めてくるしね。

そんな時、かなめが私に「もっと自分を大切にしなよ」って言って、真っ直ぐな目で見てくんの。その後、聞いてもないのに、私の良いとこ言いまくるし。事情なんて何も知らないのに、何かを感じとったようにね」

なんとなく思い出した。さおりが悲しそうな、何かを諦めたような顔をしてて、今にも何かしそうな気配があったときだ。

さおりは、美人だし、頭もいいし、おばあちゃんを大切にする優しいとこだってあるし、おしゃれだし。欠点だらけのかなめには、たくさん魅力があるさおりが、なんで自分を追い詰めるのか、理解ができなかった。


「そんなこと言ってくれたのは、かなめが初めてだったから、嬉しかった。それで誓ったの、私を大切にしてくれない男とは付き合わないってね、お陰で高校も卒業できたし、かなめにそう言われる前は高校辞めて、男の言われた通りに薬始めようとしてたから」

なんだか泣けてきた。さおりはいつも大人で優しくて、いろんな事を教えてくれる姉のような存在だった。

「でも良かった、かなめの彼氏が変な男じゃなくて、変な男だったら、あたしがぶっ倒しに行くとこだった」と笑った。

それから、高校時代の思い出話をして、明け方まで話した。

次の日の朝、さすがに眠くて大学休もうかなと言うと、「私は行くよ、これ提出しないと。おばあちゃんいるから、ゆっくりしていけば」と言ってくれた

さおりのおばあちゃんと、さおりの話をした。「小さい頃からよく遊びに来てくれて、足を揉んでくれたりしてね、近所の子供たちの面倒も

見てくれて、悪ぶってるけど、本当は優しい子なの」と言い。「そうですね」とかなめも頷いた。


それから大学には行かず、家に戻った。家には誰もおらず、シャワーを浴びてご飯を食べ、昼間にやってる映画の再放送を見た。

昨日、さおりに話を聞いてもらい、スッキリしていた。

少し早めにバイト先に行き、仕込みの手伝いをした。

その日は、修二と大介が代わり、大介と2人だった。

「修二さん、家庭教師が忙しいの?」と大介に聞かれ、「多分、そうじゃない」と言うと「ケンカでもした?」と聞かれた。相変わらず、察しがいい。

「ううん」と冷静を装った。

閉店が近づいた頃、修二がバイト先にやってきて、空いているカウンターに座った。

「あれ?忘れもんかなんかですか?」と大介が聞くと

「西脇に話があって来た」と堂々と言った。

かなめは修二に近づき、小声で「外で待ってて」というと「いや、ここで待たせてもらう」と譲らなかった。

心配したマスターが「あとは大介がやるから、かなめちゃんはあがっていいよ」と言ってくれた。大介は「えー?」とふてくされ声だった。

店を出ると、修二は怒った顔でかなめの手を引き、歩き出した。 

修二の家に着くまで、修二は一言もしゃべらなかった。

家に着いても手を離してくれないので、「痛い、離して」と言うと、手を離し「昨日と今日、どこ行ってたん?」と怒り声で話しだした。

「なんで?」

「心配したんやぞ!昨日バイト終る頃、行ったら、体調悪くて先帰ったって言うし、携帯かけても繋がらんし、今日は学校行ってもおらんし」

驚いて「学校に行ったの?修二さんは学校どうしたの?」と聞くと「サボった」と。

「いいの?」

「いいわけないやろ。でも気になって、授業どこやなかった。」

「ごめんなさい」

昨日はさおりの家に行ったので充電がなくなっていたこと、学校サボったことなどを話した。

下を向いてる、かなめの顔を覗き込み、

「何があったん?ミズホのこと気にしてる?」

と聞かれ、言葉が出なかった。

「なぁ、なんか言うて」と修二は困った様子だった。

かなめは、ボソボソと、自分のコンプレックスについて話だした。

ミズホさんみたいに綺麗じゃないし、色気もないし、女として見てもらえてないんじゃないかという不安、ミズホさんは下の名前で呼んでるのに、自分は名字でしか呼ばれないことなどを話した。

「そんなことない!俺は西脇のこと、可愛いって思てるし、もちろん女として好きや、前にちゃんと気持ち伝えたのに、信じてもらえへんの?」と言われ、涙がこぼれた。信じてないわけじゃない。でも、不安だった。

「それに、そっちかて、なんで呼び方、修二さんなん?」

「だってバイト先でそう呼ばれてるし」

「誰に?」

「大介に」

「基準は大介なん?大介のことは呼び捨てするくせに、俺にはどっかよそよそしいねん、大介とはようじゃれあってるのに、俺のときは態度が違うやん」

と言われて驚いた。もしかして、大介にヤキモチ妬いてる?

大介との仲は良いほうだとは思う。だけどそれは、男女の仲の良さじゃなくて、幼なじみのような、兄妹のような関係だ。恐らく大介はどんな女の子にも、かなめと同じように接するのだろう。


「修二さんは年上だし、ちょっと遠慮というか、好きだから、嫌われたくなくて。」と涙声になって伝えた。

修二は、かなめをそっと抱きよせ、頭を撫でた。

そして今度は、修二がミズホのことを話しだした。

修二は、大学2年までテニスのサークルに入っていて、そこでミズホに出会った。ミズホは積極的で、周りからも人気があった。そんなミズホから好かれることは、悪い気がしない修二はミズホと付き合いだした。

「そやけど、ミズホはあんな性格やし、俺以外の男にもモテてたし、ちょっかい出してた。本命は俺だけやって言うてたけど、信じられんし、他の男と仲良うしたがる気持ちも理解できんかった。俺には合わないと思て別れた」

「私は浮気の心配がないから?私の方が先に修二さんのことを好きになって、その気持ちに気づいたから?だから私だったの?」と聞くと

「いい加減にせんと、怒るで!なんでそんなに自信がないん?そんなことで告白したりなんかせんよ。

いつも一生懸命やし、よう気がつくし、優しいし、なんか、ええ子やなって思ってるうちに好きになってた。それにな、笑った顔が可愛いと思ってん」

初めて聞く話だった。

「かなめは、俺のこと、どう思ってんの?」

「頭がよくて、優しくて、面倒見がよくて、なんか一緒にいると気持ちが温かくなる。きっとそれは、修二さんの気持ちが本当に温かいからだと思う」

そう言うと、修二はかなめを強く抱き締めて、耳元で、「テレるな」と言った。

かなめもテレて、少し笑った。

抱き締められると、それまでの不安が消え去り、どうでもよくなった。それに、かなめと呼んでもらえたことが嬉しかった。

「聞いてもええ?なんで俺がかなめのこと好きやないって思ったん?俺ってそんなに愛情表現ヘタなんかな?」と言われ、返答に困った。

正直に言わないといけない、正直に言っても大丈夫だと思い、勇気をだして言ってみた。初めてのときから一度もしてないことを。

「男の人って、みんな、そういうことしたいんでしょ?したくないのは、私に色気がないからかなと思って」と言うと、修二は黙った。

余計なことを言ったと後悔した。淫乱だと思われたらどうしよう。そんなことが頭をよぎった。

修二は、恥ずかしそうに「そんなことはない。したくないわけないやん。でも初めてしたとき、かなめ、痛がってたし、泣いてたし、無理させて嫌われるんが怖かった。

ごめんな、不安な思いさせて」ともう一度、強く抱き締めてくれた、

そのまま少し何も言わず抱き合ったまんまだった。

修二から「今日、帰らんでもええ?帰したない」と言われ「うん」と頷いた。

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