第14話 ケンカ

修ちゃんとの初体験のことを思い出し、顔が赤くなった。

何を思い出してるんだろ、と自嘲ぎみに笑った。

外は天気が良かったので、布団を干し、洗濯をした。


携帯が鳴ったので、出てみると上の姉だった。

「あんた、仕事辞めたんだって?お母さんが心配してた」先日、母から電話がかかってきたとき、思わず口走ってしまった。

「これからどうすんの?何さんだっけ、彼氏いるんでしょ?結婚するの?」と聞かれた。朝見さんがどうしてもと言うので、1度だけ家族に会わせていた。

「結婚はしない、別れたから」と言うと「はぁ?あんたもう30近いのよ!この先どうするつもりなの?」そんなの私が聞きたいよ。と心で呟いた。

「うちを頼ってきてもダメだからね、お母さんを引き取ってるからって、あんたの居るところなんてないし、迷惑だからね」と言われカチンときて、

思わず「貯金もあるし、失業保険の申請もした!お姉ちゃん達を頼るつもりもない!余計な心配しないで!」といつになく声を荒げて反論した。

「なら、いいけど、今の言葉忘れないでね」と電話は切れた。

上の姉は本当に勝手だ。傷心の妹に優しい言葉の一つも言えないのかと、腹がたったが、今さらか。とため息をついた。


まるで自分の気持ちを落ち着かせるために、修ちゃんとのことを思い出した。

修ちゃんと別れてから何人かの男と寝た。でも、どこか儀式のようで、修ちゃんのときのようなトキメキや幸福感はなく、特別なものではなくなっていた。

夕方になると風邪がぶり返してきたのか、熱っぽくなり、計ると7度5分あった。干したふかふかの布団の上に横になると、また修ちゃんのことが思い出された。



修二のベッドで裸のまま抱き合っていた。

かなめの目から涙がこぼれた。その涙が何を意味するのか、自分でも分からなかった。

喜びからなのか?鈍痛からくるものなのか?

修二はかなめの頭の後ろ側を撫でた。

「初めてやった?」と、聞いてきた。頷くと、「大事にする」と言ってくれ、それから何度かキスをし、修二のスエットを借りて眠りについた。

翌日、早朝に起こされた。

「今日、学校やろ?」と言われ、慌てて起きた。早朝に着くバスで帰ると親には言っておいたので、早く帰らないと辻褄があわなくなる。

慌てて着替えようとすると、修二の視線が気になり恥ずかしくなった。修二はとっさに背を向けた。その隙に着替え、急いで家に帰った。


家に着くと母から「学校間に合うの?」と聞かれ、「今日は午後からだから少し寝る」と部屋に入った。

本当は午前中も授業はあったが、興奮していて、授業どころではなかった。

午後から大学に行ったが、修二の顔が頭から離れなかった。修二の温もりの感覚と鈍痛が1日消えなかった。


その日はバイトもなく、英会話の講習も昨年までで終わっていたので、真っ直ぐ家に帰った。

お風呂に入りながら、バイト増やすかな?なんて考えてると、前日の修二とのことが思い出され、身体中が熱くなった。

お風呂を出ると、下の姉が夕食をとりながら、ビールを飲んでいた。

「あんたも飲む?」と聞かれ、一杯だけ飲んだ。お風呂上がりのビールは美味しかった。

「どう?彼氏とはうまくいってんの?」と聞かれ、なにそれ?と誤魔化すと「隠さなくていいわよ。お母さん達には黙っておくから」と言われ、修二とのことを少しだけ話した。

「お母さんとも、うまくやんなさいよ、私も来年には、この家から出ていくから」

どういう意味?と、かなめが首をかしげると

「結婚するの」

「前に見た人?」

「違う。あの人は結婚に向いてないから」と言った。下の姉は姉妹の中で一番綺麗で男の人からもモテていた。前に男の人に送ってもらうところを家の前で見たことがあった。

結婚か、その頃のかなめには想像できなかったが、できれば修二とずっと一緒にいたいと考えていた。

「佐和ちゃんとも、うまくやんなね、まともに相手してると身がもたないから、適当にあしらうの」佐和ちゃんとは上の姉のことだ。



ふと、我に返り、結婚について考えてみた。

結婚か、果たしてするんだろうか?という疑問が沸いていた。修ちゃんの後に付き合った人で、修ちゃんのときのように、ずっと一緒にいたいと思った人はいなかった。

今年で28、適齢期だということは分かってるが、。「はぁあ」とため息がでた。

風邪がぶり返してこないように、早めに夕食を食べ、お風呂に入り眠ることにした。


8年前

かなめには、悩みがあった。修二との初体験を済ませて、2カ月近くになるが、それから修二は誘ってこなかった。バイト前に修二の家に行くことはあっても、キスはするがフレンチキスだけで、抱き合うこともないし、夜に部屋に誘われることもなかった。


かなめには、女としての魅力がないのではないかと考えるようになっていた。


もう一つ気がかりだったのは、修二が初めてではなかったことだ。やっぱり前に彼女いたんだ。それがショックだった。

ある休みの日、サッカーのサークルの試合があるので見に来れば?と言われ、行くと誰の彼女かは分からないが「山口君の新しい彼女?」と聞かれた。

ショックだった。前の彼女もここに連れてきていたのだ。

試合の後、みんなで焼肉屋に行ったが適当に話を合わせるだけで殆ど話さず、食も進まなかった。

帰り道に修二から「どないしたん?元気ないやん、体調悪い?」と聞かれ「ちょっと疲れてるだけ」と言って誤魔化した。

本当に?という疑いの目で修二はかなめを見つめてきた。


その晩、修二から電話があり、「ほんまに大丈夫?明後日バイトやろ、その前にうちに寄れん?」と言われた。本当は断りたかったが、理由が見つからなかった。


次の日、学食で友達が来るのを待っていると、隣の席の男子学生が「あいつ、マジ色気ないよな!お試しで抱いてやってもいいけど、次、誘われたら断るな」

「俺なら、1回でも無理!たたない!」と笑っていた。


何故か納得した。そういうことか、私には色気がないからか。と、泣きそうな気分になった。

私は所詮、妹みたいな存在なんだろうな。っと勝手に結論づけた。


翌日、バイトの前に修二の家に寄ったが、わざと時間を遅らせていき、話す時間を縮めた。

「遅かったやん、今日は授業早く終わる日やなかったん?」と言われ、なにも言わずにいると

「なに?なんか気に入らんことでもあるん?この前かて、みんなの前で暗い顔してたし、言いたいことあるんやったら、言ったらええやん!」

そう言われ、何も言えずにいると、

ドアを叩く音が聞こえて、外から「修二いる~?」と女の人の声がした。

修二が応える前に、女の人はドアを開けて入ってきた

「なんだ、いるんじゃん、あっ、彼女?ごめんごめん」

「ミズホ!何しにきたん?」

「前に修二にCD貸してたじゃん、あれ、返してもらってないよね?探してるんやけど、見つからなくてさ。お邪魔していい?」とずかずかと上がり込み、勝手しったるとばかりに修二のCDラックから、1枚抜き取り、「これこれ!ずっと探してたの。このケースの中に大事なものしまっておいたから」と言い、「お邪魔しました」と言うと、かなめの方を向き、「大丈夫、安心して!修二とはとっくに終わってるから」と手を振って帰って行った。


綺麗な人だった。肩のあいたニットを着て色っぽかった。

かなめは、何も言わずに、部屋を出ようとすると、修二に腕を捕まれた。

「ちゃんと説明させて」と言われたが「離して」と言った。「西脇!」と言われ、またショックだった。やっぱり私は西脇で、単なるバイト先の後輩でなんだと思った。


「バイトに遅れるから」と言うと、修二は手を離してくれた。

そのまま、駅までの道を全速力で走った。駅に着くとトイレに入り涙が止まるのを待った。

結局、バイトの時間には遅れてしまった。

マスターは心配して「顔色わるいけど、大丈夫?」と言ってくれた。

その日はお客が少ないので、早く上がることになり、9時前にはバイト先を出た。


家に帰る気にもなれずに、途方にくれ、さおりに電話し、声を聞くと涙がこぼれ出した。

さおりは困惑しながら、「今から、うちに来れば?」と言ってくれ

家に、さおりの家に泊まると電話すると「また?さおりちゃんのお宅だって迷惑でしょ!学校はどうするの?」と聞かれ、

「さおりの家から行くから大丈夫。さおりの家からの方が大学近いし、お家の方にも迷惑かけないようにするから」と説明し、電話を切った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る