第13話 お好み焼き

目覚めると朝だった。

夢だというのに、修ちゃんの唇の感触が残っているような気がした。

熱は下がり食欲もでてきた。冷蔵庫を開けると、卵とキャベツ。冷凍庫を開けるとカレーのときに多めに買っておいた豚こまがあった。

棚を探すとお好み焼き粉がある。

朝から?とも思ったが、お好み焼きを作ることにした。


お好み焼きを作りながら、修ちゃんの家で食べた、お好み焼きを思い出した。


初めてキスをした帰りの電車の中でも、修二はかなめの手を握ったまんまだった。その後、サークルの飲み会があるという修二は、途中の駅で降りることになった。

すると不安がやってきた。サークルって、女の子もたくさんいるだろうし、前にみた修二と一緒にいた女の子達もサークル仲間かもしれないと。

そんな不安を感じとったのか、「サッカーのサークルで男ばっかりでむさ苦しいけど、みんなええやつだから、今度、西脇もおいで」と言われ、ホッとし笑顔になって、頷いた。


次のバイトの日、大介から「修二さんは?」と聞かれ、

「今日は授業は2限までで、図書館に行ったあと、家庭教師のバイトだって」と答えると

「へぇーそうなんだ」と含みのある笑い方でかなめを見てきた。

しまった!バイト先の人たちには黙ってることになっていた。

「マスター達には黙ってて」と祈るように手を合わせて、大介を見ると、

「もう遅いって!マスターも加奈子さんも気付いてるから」と声をだして笑った。

気づかれてると思うと、たちまち恥ずかしくなった。


修二とかなめの交際は順調だった。

ある日、貸したいCDがあると言われて、修二の家に行くことになった。以前に修二がインフルエンザで倒れたとき、部屋の前まで行ったことはあったが、部屋の中に入るのは初めてだった。

部屋は奥が和室で手前に広めのキッチンがあり、奥の和室には、洗濯物が干してありパンツも干されていた。急に恥ずかしくなって目を背けた。

その事に気づいた修二は、慌てて洗濯物の隠し「上がって、コーヒー入れるから」と言った。

「お邪魔します」と上がると修二の匂いがした。その匂いが何故か嬉しかった。

和室にあるローテーブルに、コーヒーが2つ置かれ、修二はCDを探し始めた。

そのCDはB'zだった。意外に思えた、てっきり洋楽でも聴くかと思っていたからだ。

そのCDは、さおりも好きで、前にさおりから借りたことがあった。その事は黙って「ありがとうございます」と言うと、「いいかげん、敬語やめへん?なんか、よそよそしい感じがするわ」と言われた。

慣れないタメ口を使いながら、音楽の話をした。

時計を見るとバイトに行かなくてはならない時間となった。

そのことを修二に伝えると「もう、そんな時間なん?」と残念そうに言った。立とうとする、かなめの手を引き寄せ、修二はキスをしてきた。2回目のキスだった。

唇を離した後も、見つめあっていたが、恥ずかしくなり、かなめが「バイトに行かないと」と言うと、修二は残念そうな顔で立ち上がった。

バイト先の近くまでは、手を繋いでいたが、バイト先が近づくと自然に手を離した。


次の日は、さおりと約束をし、映画を見たあと、さおりの家に泊まることになった。

「いよいよだね!下着は買った?」と言われた。かなめは動揺した。考えてないわけじゃないが、どうしたらいいか分からなかった。

もうすぐクリスマスだし、そろそろかとも思っていた。

さおりから、いろいろ教えてもらった。

「避妊しない男はダメだね、もしゴムつけるの嫌だと言われたら、断りな。」とか「最初は痛いかもしれないけど慣れるから」とか

かなめからも「血はでるの?」と聞くと「私はでなかったけど、替えのパンツは用意しておいた方がいいかも」とアドバイスをもらい、次の日、下着選びに買い物に行った。


クリスマスイブは日曜日だったが店を開けることになり、マスターに頼まれて2人で朝からバイトに入ることになった。「2人一緒だからいいでしょ?」と言われ、2人で目を見合せた。

イブの日は、店が混み、2人で話す余裕もなく、かなめは終電で帰った。

翌日のクリスマスは、修二は夜にサークルのクリスマス会があるので、その前に会いケーキを買って修二の家で食べた。そして3回目のキスをした。

さおりは彼氏とデートらしく、かなめは何も予定がないので、バイトに入った。

「あれ?修二さんと一緒じゃなくていいの?」と大介に言われた。

「そっちこそ、どうなの?また振られたの?」と、聞くと「人聞きの悪い言い方するなよな!話し合って別れたの」

「あっそうー」


バイトから帰ると修二から電話がかかってきた。

まだ携帯電話の通話料が高かった2000年頃、電話はあまりかけなかった。

珍しく酔った様子で、周りは騒がしかった。「ごめんな、今日一緒におれんで、ほんまは、かなめともっと一緒におりたいんや、一緒に泊まりで遠出とかもしたいし」と言われ、全身が熱を帯びたのが自分でも分かった。初めて、かなめと下の名前で呼ばれた。泊まり?!。つまりそれは、。と考えていると電話は切れた。


年末年始は、修二は田舎に帰った。

かなめはバイト先の仕事納めまで働き、特に予定もないまま過ごしていた。

年始はスーパーの初売り出しの日にバイトに入った。

田舎から戻ってきた修二は忙しそうだった。家庭教師をしている生徒の受験が近くなり、予定の日以外も呼ばれることが増えたからだ。


いつものファミレスで話していると、「西脇はスノボーとかやったことあんの?」と言われた。クリスマスの日に酔って電話してきたときだけ、下の名前で呼ばれて、あとは西脇に戻っていた。

「ううん」

「そしたら、今度一緒に行こ!俺も去年始めたばっかりで、まだ下手っぴやけど、一緒に練習しよ」と誘われた。ということは泊まり!?と緊張すると

これ!っとパンフレットを出された。それは土曜の夜に出て、日曜日の早朝につき、その日1日滑り、その日の夜行で東京に戻ってくるという内容だった。

かなめは、ちょっとがっかりした。

それでも、修二と遠出できるのは嬉しかった。


約束の日の夕方、修二から「ツアーキャンセルになったわ」と電話があった。新潟に向かうツアーで、途中の道が大雪のため、通行止めになったということだ。

仕方ないと諦め、その日はお酒を持ってさおりの家に行った。

「それで、やけ酒?私の家じゃなくて彼氏の家に行きなよ!」と言われた。もちろんそうしたかったが、誘われてもないのに、行けなかった。


次の日の朝、2日酔いでさおりの家で寝ていると、携帯が鳴った。起きると修二からだった。

「何してるん?ひまなら、俺の家で映画でも見いひん?」と言われた。

さおりは、かなめの耳にあててる携帯に耳を張り付け聞いていた。

どうしよう?と迷っていると、さおりが電話を取り上げ、「私、かなめの高校時代からの親友で、米倉さおりって言います。今、私の家にいるので、お昼前くらいにはそっちに行かせますね」と言い出した。

「ちょっとなにするの!」と怒り、携帯を取り返した。

「あの、ごめんなさい」と言うと、「おもろい友達やな!ほな待ってるわ」と切れた。


「ほら早く支度して!一度家に帰って勝負下着に着替えないと!」と言われ、さおりの家をたたき出された。

お昼前に高田馬場駅に着くと、修二は改札の前で待っていた。

手を繋ぎ、修二の家に行く途中、お弁当屋さんに立ち寄った。「ここの唐揚げ弁当、めちゃうまいねん」と言い、唐揚げ弁当を2つ買った。

唐揚げ弁当を食べたあと、映画を立て続けに2本見た。映画を見てる間もずっと2人は手を繋いでいた。


映画を見終わると夕方になり、「西脇、今日は何時くらいまで、おれるん?」と聞かれた。

かなめは「何時まででも、もともと今日は帰らない予定だったし」と言い、自分がとんでもなく恥ずかしいことを言ってることに気付き、顔を赤くした。

少しの間のあと、修二も少し顔を赤くして「そしたら、夕飯でも食べにいく?何がええ?」と聞かれ、「お好み焼きがいい!前に作るの上手だって言ってたから」と言うと

「よっしゃ!材料買いに行こ!」と手を繋いで買い物に出かけた。


修ちゃんが作るお好み焼きは本当に美味しかった。一緒に買った缶酎ハイも飲み、かなめは少し酔ってきた。

テーブルを片付け、拭いていると、修二に後ろから抱きしめられた。

振り向き、かなめも修二に抱きついた。酔っているせいで大胆になってる自分に気がついた。

修二は、かなめの身体を少し離し、キスをしてきた。それは長いキスで気づくと修二の舌がかなめの口の中に入っていた。

歯も磨いていないし、お風呂にも入っていなかったが、修二と離れるのは嫌だった。

修二は顔を赤くしながら「ええ?」と聞いてきた。かなめは頷いた。

それから電気だけ消してもらい、キスの続きをした。修二に身体を触られると身体が熱くなった。

何度もキスをしながら、かなめは大人への一歩を踏み出した。

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