第11話 インフルエンザ
映画から帰ると、何故か身体の節々が痛かった。
翌朝になっても痛みは収まらず、熱をはかると8度5分もあった。病院に行き、薬を処方された。病院帰りにポカリを買って、家に帰り炊飯器でお粥が炊けるようにセットし、ベッドに入った。
高熱を出すなんて何年ぶりだろう。身体はしんどかった。
家族も恋人もいない、看病をお願いできるほど親しい友人もいない。急に心細くなった。
寝なければと思いなおし、そのまま目を閉じた。
「西脇!西脇ってば料理あがってんぞ!」と大介から呼ばれ、我に返った。
料理を運び終えると、「なに、ぼっーとしてんだよ!」と珍しく大介から叱られた。
修二は熱を出してバイトを休んでる。かなめは修二のことばかり考えていた。
店が閉店になり、いつものように片付けてると、「これ、よろしく」と、マスターが紙袋をカウンターに置いた。中をみると、ビニール袋に入った大きめのタッパだった。
これは?とかなめが聞くと、
「スッポンのスープ!修二に。あいつ死にそうな声で電話してきたから、これで栄養つけてもらおうと思ってな」とマスターが答えた。
「俺が届けることになってんの」と大介がいい、「西脇も一緒に行く?」と聞かれ、首を横にふった。「一緒に行ってやってよ、かなめちゃんが行けば修二も喜ぶから」とマスターに言われ、行くことになった。私が行っても喜ばないよ。と心で呟いた。
修二の家に行く途中、大介から「修二さんと、なんかあった?」
「何もないよ」
本当に何もなかった。かなめも自分でどうしたらいいのか分からなかった。
もっと知りたい、もっと近づきたい、会いたいと思うのに、会うのが怖い。
もしかしたら、修二もかなめを思ってくれてるかも、と期待したり、逆に周りの女の子に比べて劣ってる自分が嫌になり、自分から離れたほうがいいのでは、と考えたり。
言葉では説明できないほど、かなめの心はぐちゃぐちゃだった。
「なんか変なんだよな、2人とも。修二さんは西脇のことを聞いてくるし、西脇はなんか修二さんを避けてるみたいだし」と首をかしげた。
大介は鋭い。
その言葉にかなめは、修二さんが私を気にしてる?なんで?と動揺した。
気づくと大介は立ち止まっており、「ここ」っと木造の古いアパートを指差した。
1階の一番奥の部屋が修二の部屋で、大介がチャイムを押した。
「修二さーん!生きてます?大介です!」と言うと少しして、ドアを開ける音がした。その音を聞くと、かなめは咄嗟に建物の影に隠れた。
「これ、マスターから」
「悪いな」と明らかに、辛そうな声が聞こえてかた。
「それから、西脇も、あれ?西脇?さっきまで居たんですけど、どこ行ったんだぁ」という大介の声を聞きながら、かなめは踞っていた。
修二さんの住んでるアパート、この壁の向こうに修二さんがいる、そう思うとドキドキした。それなのに、会うのが怖くて隠れた。
ドアを閉め修二が部屋の奥に入る音を聞くと、なぜか安心して、帰ろうとする大介に声をかけた。
「どこに居たんだよ!修二さん心配してたぞ。
修二さん、インフルエンザだって、今日病院行って、まだ熱も8度近くあるって」と説明してくれた、「やっぱりお前変だよ」とも言われた、返す言葉もなかった。
次の日、さおりのバイト先の古着屋に行った。
「今日はデートじゃないの?」と聞かれ、落ち込んだ。
「デートなんてしてないもん」と言うと、
なにそれ?という顔をして
「あと1時間くらいしたら終るからどっかで待ってて」と言われ、表通りにあるコーヒショップで待つことにした。
周りの席はカップルばっかりだ。
なんだか自分だけ取り残らされたような気持ちになった。
時間をもてあまし、バッグを開けると、本が一冊出てきた、
それは2人で映画に行った日に買った本で、読みやすい本だし、何年か前に映画化されてるから、映画好きのかなめにはぴったりだと修二が勧めてくれた本だった。
あれから3週間しか経ってないのに、凄く昔のことのような感じがした。
その本を取り出し読んでいると、「珍しいね、読書なんて」と言いながら、さおりがやってきた。
かなめは、さおりに映画を見に行ったときの話、この3週間の話をした。
さおりは首をかしげ「悩むようなことかな?だって、彼女がいるって決まったわけじゃないんでしょ?」
「だって、駅で一緒にいた女の子、2人とも可愛かったし、おしゃれだった」
「なんだ、そっち?単なるヤキモチか」
「さおりには、分かんないよ」
「じゃあ、かなめもおしゃれになれば、いいじゃん!」
「そんな、私センスないし」
「大丈夫!私に任せて」とさおりは胸を張った。
それから、2人で洋服選びに出かけた。
「服は、着方できまる。みて、このシャツでも下をこのパンツにするか、こっちのスカートにするかで、全然印象違うでしょ?ようは着まわし、セットアップだけがおしゃれじゃないから。
同じ服でも、他に身に付けるものを替えるだけで、別の服みたいに見えるしね、色も重要、好きな色より似合う色!」と
さおりは、服が好きで、デザインの勉強もしてるから、色々と詳しい。
それまでは、なんとなく流行ってる服を無難に着ることしか考えてなかった、かなめには勉強になった。
さおりは、かなめに似合う服をいくつかチョイスしてくれた。
試着してみると「やっぱ、かなめに似合うじゃん」と言ってくれ、かなめも少し自信がついてきたが、消えないコンプレックスを吐き出した
「おしゃれしても、さおりみたいに美人じゃないし、可愛くもない」と言うと、
「また、そんな事言って!私はかなめを可愛いいと思うけどね」
「じゃあ、あとはメイクだね!」
大学に入ってから、かなめは化粧をしだした。とはいっても、ファンデーションに、アイシャドウ、口紅、と簡単なものだ。
「まずは化粧下地、次はアイメイク、アイシャドウは流行りは追っかけちゃダメ、似合う色を探さないと」
コスメコーナーで何色も試し、ブルー系とピンク系をいくつか買い、「かなめは、奥二重で目が大きいからアイラインはくっきり書くより、ぼかす感じがいいかな。目元が暗いと暗い印象になるから、コンシーラー」とさおりは、次々に化粧品を選び、実践練習として、さおりの家に泊まり、練習することになった。
寝ながら、さおりは、「かなめは、気持ちが大きくなり過ぎてんるんだよ、少しは気持ちに余裕を持たないと」言ってくれた。
余裕なんて持てなかった。
「インフルで倒れてるんでしょ、私もなったことあるけど、結構しんどいよ。弱ってるから、お見舞いがら看病に行ったら?距離も縮まるんじゃない?」と言われ、かなめは、たちまち顔が赤くなり「そんなこと、できないよ」と否定した。
「かなめには、ハードルが高かったか」と笑った。
翌日、一旦家に帰り、スーパーのバイトに行き、夜にさおりと原宿で待ち合わせをして、原宿と表参道の間にある美容院に行った。
そこは、さおりが時々、カットモデルしてる店で、その紹介で閉店後ならという条件で店員のカット練習も兼ねて、通常の半額で切ってもらえることになった。
かなめは、ボブが少し伸びたようなくらいの長さで、ギリギリ結べるくらいだ。
「ショートはどう?色も入れて」と美容師さんに提案された。
自分に合う髪型が分からない、かなめは「お任せします」と言い、切ってもらった。
翌日の月曜日、大学に行くと、同級生から「ずいぶん、イメチェンしたね!可愛いよ」と誉めてもらった。
その言葉が嬉しくて、修二さんにも見てもらいたい、バイトが一緒になる日が待ち遠しかった。
そしてバイトの日、店に行くと修二は来ていた。
インフルエンザは、すっかりよくなったそうだ。
かなめと目が合うと、一瞬驚いた顔をし、すぐに笑顔になり「おはよう」と声をかけてくれたが、その笑顔に影があるように見えた。
修二は、かなめがイメチェンしたことには、触れてくれなかった。
加奈子さんからは、「かなめちゃん、可愛くなって、彼氏でもできた?」と言われ、「違いますよ」と言いながら、修二を見ると、ムッとした表情に見えた。
その日、修二と会話はしたが、最低限で、修二はどこか、よそよそしかった。
次のバイトの前に、いつものようにマックに行ったが、修二は来なかった。
やっぱり、もうダメなのかな?イメチェンしても意味なかったな。と落ち込みながら、バイト先に行くと、修二はキッチンでマスターから何か教わっていた。
聞くと、これからは簡単な料理は修二に手伝ってもらうことになったと、説明された。
修二は、元々はホールだった。これで、修二と話すチャンスが減るとかなめは落胆した。
その日も特に話すこともなく、家に帰った。
家に着き、夜食を食べていると、携帯が鳴った。修二からだ。
連絡先は交換していたが、かかってきたのは初めてだった。
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