第10話 映画

有楽町に着き、何を見ようか迷っていると、何年か前にヒットした作品の続編の看板が目に入った。

前作はDVDで見ていた。内容ははっきりは覚えてなかったが、面白かったと記憶していたし、

時間もちょうどよかったので、見ることにした。

だが、見た映画は面白くなかった。

ヒット作品を無理やり続けたような内容で、途中から終わりがよめた。

どこかで食事して帰ろうかと思ったが、無職の身に贅沢は禁物だ。

駅まで歩くと、修ちゃんと待ち合わせした場所の前に来ていた。

また、9年前の記憶が蘇ってきた。


修二と映画を見る約束をした日のバイトはふわふわした気持ちで仕事が手につかなかった。

その晩、さおりに、一緒に映画を見に行けなくなったと断りの電話をすると

「あのさ~、人との約束をドタキャンするってのに、なに?その嬉しそうな声」と怒り気味に言われた。

「ごめん」

「ま、いいけど。で、着ていく服は決めたの?」

「まだ考えてない~。どうしよう😖💧」

「今度の日曜、うちの店に来な、私が選んであげる」

「日曜は、スーパーのバイトだし、お金無いし」

「はぁ?何いってんの?バイトなんてサボりなよ。お金だって、いっぱいバイトしてるんだから、あるでしょ?」

日曜日に、さおりがバイトしている原宿の古着屋に行った。古着といってもヴィンテージものも多く、安くはなかった。

「う~ん、かなめには、これかな?」と一着の黄色みがかった白のワンピースを持ってきた。

「こんな服、着たことないよ~」

「だから着るんじゃない!で、バッグと靴はこれ!」

値段を合計すると2万円近くになった

「こんなにするの?!」と驚きの声をあげると「あのね、おしゃれは、お金がかかるものなの」と言われ、

顔をしかめると

「そんな顔してると、彼氏に嫌われるよ」と言われ、顔が赤くなった。

彼氏、。

その響きが嬉しいような、恥ずかしいような複雑な気持ちになった。彼氏彼女、その言葉には憧れはあった。そうなりたいと思う気持ちと怖い気持ちがあった。

突然、かなめを不安が襲った。修二の気持ちが分からなかったからだ。映画に誘われただけ、深い意味なんてないかもしれないし、誰でもよかったかもしれない。

修二にもっと近づきたい、でも、何とも思われてなかったら、かなめの独りよがりだったら、と不安が過る。

そんな気持ちをさおりに話すと

「嫌いなら、映画に誘ったりしないと思うよ」

「そうかもしれないけど、そうじゃなくて、どう思ってるか知りたい」と言うと

「そんなに気になるなら、直接聞いてみればいいじゃん」

「それができるなら、とっくにしてるよ、できないから悩んでるのに」

さおりは呆れ顔で「うじうじ考えても仕方ないでしょ。とりあえず、映画楽しんできなよ。」


家に帰り、買ってきたワンピースをもう一度合わせてみた。本当に似合ってるかな?変じゃないかな?と何度も鏡に写った自分を見た。


約束の日までは、ウキウキしたり、ドキドキしたり、緊張したりの連続だった。


そして当日、約束の場所に約束の時間より15分前に着いてしまうと、驚いたことに修二はもう来ていた。

「遅れてごめんなさい」と言うと、

「まだ15分前やで」と笑った。

それから映画のチケットを買ったが、上映時間まで1時間あり、併設されたデパートを見ながら時間を潰すことになった。

そのエスカレーターで慣れないロングのワンピースを着たかなめは、スカートを足に引っかけ転びそうなった。するとすかさず、修二が手をさしのべ、かなめの腕を掴んだ。

その瞬間、かなめの身体は固まった。修二も「ごめん」とすぐに手を離した。修二はかなめと目を逸らすように前を向いた。

なんとなく気まずい空気が流れたが、サッカー用品コーナーに着くと、修二は子供のように商品を手に取り、どんなときに使うものなのかを説明し始めた。

かなめはサッカーには興味はなかったが、修二が好きなものには興味があった。こっそりサッカー雑誌を読んだり、サッカー好きの同級生からも話を聞いたりしていた。


上映時間が近づき列に並んでいると、修二があるものに気づいた。次に公開される映画のポスターだ。その作品は、修二の好きな作家が書いた本の映画化だった。

「これ映画になるんや、この本好きで3回は読んだわ」とポスターを眺めている修二を見て、私も読んでみようかかなと考えてると

「次はこれ見に行かへん?」と言われた。予想外の誘いに「はい」と笑顔で応えるかなめがいた。


映画を見終わると、修二から「腹減らへん?どっかでメシでも食べてく?」と誘われた。かなめは嬉しさから言葉が浮かばず「はい」とだけ応えた。

「何がええ?何食べたい?」と聞かれても「何でもいいです」としか答えられなかった。

「一番困る返答やな」と言われ、なんだか申し訳なくなったが、本当になんでもよかった。修二と2人なら。

そのあと歩き回ったが、適当な店が見つからなかった。混んでいたり、汚い店だったり。

かなめはどんな店でもよかったが、修二の方が拘った。

歩き疲れた頃、かなめの方から、いつものファミレスに行く提案をした。その方が気楽に話せるし時間も気にしなくて済むからだ。

修二は不服そうだったが、納得してくれた。

高田馬場のいつものファミレスで、それぞれ好きなものと、おかわり自由なコーヒーを頼んだ。

修二はあまり映画は見ないと言っていたが、その日見た映画は気に入ったらしく、興奮して感想を語り、かなめにも感想を聞いてきた。

お互い、気に入ったシーンを話すと、2人の意見は合致した。それがかなめには一番嬉しかった。

それから、かなめがそれまでに見た映画の話になった。

かなめの目を見て話を聞いてくれる修二を見て、ドギマギした。


話に夢中になってると、修二の携帯が鳴った。「ちょっと悪い」と修二は席を立った。すると突然、かなめは不安になった。相手は彼女かもしれない。彼女じゃなくても、かなめ以外にも一緒に出かける女の子がいるのかもしれない。そう思うと泣きそうな気分になった。

修二は気まずそうに席に戻り「ごめん、ゼミの連中がこの辺で飲んでるから、来いって誘われてん」と言った。

「じゃあ、行ってください、私もそろそろ帰らないとだし」と心にもない事を言って強がった。

修二は何か言いたそうだったが、何も聞かずに、かなめはレジに向かった。

駅までの道のりは、お互い何も話さなかった。駅に着くと、やっぱりもっと一緒に居たい、話したという思いが強くなった。が、

修二から「また、バイトで」と言われて別れた。ショックだった。所詮、単なるバイト仲間。さっきの電話だって、ゼミ仲間と言っていたが、彼女かもしれない。きっとそうだ。と妄想を膨らませた。


次の週の水曜日、修二とかなめの2人がバイトに入る日だが、かなめはグループセッションの課題を出され、同級生たちと集まって課題をやることになり、バイトを大介と代わってもらった。

金曜日は、授業が早く終るかなめは、いつもバイトまでの間、マックで時間を潰し、そこに修二が来ていた。でも約束しているわけではなかった。その金曜日、水曜と同様に同級生たちと課題の続きをしてると遅くなり、バイトの時間ギリギリになった。

バイト先に行く途中で「西脇!」と大介に声をかけられた。そのまま2人でバイト先に行くと、修二は来ており、談笑するかなめと大介をみて、ムッとした表情をした。

その日、かなめと修二は、なんとなくお互いを避けた。何かを悟った大介が、「修二さん、今日飲みに行きません?」と言うと「そやな」と修二も返事をした。すると大介はかなめの方を向き、「西脇もいくだろ?」と言った。


片付けも終わり3人で店を出ようとすると、マスターから「悪い、修二は残って」と言われた。

大介と2人で店を出ると「どうする?2人でも行く?」と大介に言われ、返答に困っていると「俺と2人じゃあ、行っても意味ないって顔に書いてあるぜ」と笑われた。結局、2人では行かなかった。


次の水曜日は、いつもは暇なのに珍しく混み、忙しくて話す余裕などなかった。

金曜日は、いつものようにマックに向かおうとすると駅前に談笑する男2女2のグループを見つけた。その1人が修二だった。修二はかなめに気付き近づこうとしてきたとき、かなめは修二から目を逸らし、マックには行かず、バイト先にいった。


「あれ?どうしたの早いじゃない」と加奈子さんに言われ、時間があるから何か手伝わせてほしいとお願いした。

加奈子さんに言われたことを黙々とこなしながら、修二達グループを思いだした。

あのどちらかが修二さんの彼女かな?2人ともおしゃれだったし、垢抜けていた。たちまち強い劣等感に襲われた。かなめは、おしゃれでもないし、化粧もヘタ。センスも悪いし、パッとしない。あげればキリがない自分の欠点が思い浮かんだ。


バイト先に修二がやってきたが、挨拶をしただけで目を逸らした。すぐに大介も来て、修二は大介と話し始めた。

その日も店は混み、閉店を過ぎてもお客は帰らず、「かなめちゃん、終電なくなるから帰っていいよ」と言われた。まだ終電までは時間があり、いつもならギリギリまでいるが、その日は帰った。

その次の水曜日と金曜日は修二は熱があるといい、バイトを休んだ。

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