再試験

1週間後、実行高専試験会場

再試験開始から40分。生徒数は1クラスほどの人数から6人まで落ちていた。その間俺は内界力の消費を抑えつつポイントを獲得し、現在賢は22ポイントを獲得するに至る。ちなみに試験のルールは前回同様。前回の試験でリタイアした生徒はそのまま復帰することなく失格となっている。そして前回獲得したポイントもそのまま引き継がれている。前と違う所はというと翔庭さんと共に行動していないところだろうか。実は試験開始時に各生徒がランダムな位置に配置されたのだ。

しかし翔庭さんがいなくて1人だとこうも落ち着かないものなのか。今になって翔庭さんの有能さが目に見えてくる。



あれから1週間。強くなろうと必死に努力し、新しい技も考えた。だが、結局は一瞬間でどうにかなるはずなく内界力の緻密な操作ぐらいしか成長したところは無かった。


賢が新しく得た技。内界力を緻密に操作し、消費量を限界まで少なくして力を強制的に抑制する。それによって賢は"力を出す準備を完了させた状態"を常に保っておくことが出来るようになった。つまり、賢はいつでも低炎、消炎などの技を出せるようになった訳だ。


(決められた言葉を言うというタメの時間を無くせて、更に先制攻撃も出来るのは大きなアドバンテージだ!これを使って一気に優勝まで持ち込む。)


「!!敵!」

奥に敵が見え、俺は走るスピードを上げる。


「なっ!ま、守れ!!」

相手がそう言った瞬間、相手の周りに試験会場に張られているバリアのような結界が張られた。...なるほど結界を張れる力か。


「そこでずっと芋るのか?」


「ッッ──!!ち、違う!!」

突然結界がこちらへ地面を抉りながら直進してきた。だが、避けられないほどの速さでは無いので苦労無く避ける。

相手は避けられるとは思っていなかったのかその場にフリーズしている。


俺は相手の方へ走り、殴りかかる。もちろん俺は非力だからワンパンなんて出来ない。だから、俺は緻密な内界力の操作で新しく得た技を発動する。

その技は、力によって出てくる炎を内界力の緻密な操作を使って手からだけ放出するようにし、手の周りを炎が包むという形の技で、俺は"焰渦響拳(えんかきょうけん)"と名付けた。


力によって生み出された炎は水によって消えることも酸素を必要とする事も無い。自分の解釈によって力の仕様を変えられるのだ。

自分の手になんの操作もせずに炎を出してしまえば自分も燃えて自爆ということもある為、自分の手に内界力を纏い、力と内界力で自分の手の周りだけ中和させる。それにより、自分以外のものを焼き払う炎の拳が完成する。


「あっっづぁぁっ」

俺の打撃をまともに食らい、相手は悶え、転げる。そのまま相手が反撃してくることはなく、反撃の代わりに大きく息を吸って、言葉を口にする。


「リ、リタイア!!」

そう言った瞬間、相手の体が緑色の薄い膜のようなもので守られ、俺の炎も相手も一瞬にして消えた。


4ポイント...か。思ったより追加されてるな、勝負がスピーディーだったからか?


この力を発動する準備を完了させた状態を常に保っておく事。これは便利だが、常に微量の内界力を消費する事になるので俺の内界力の多さでは数時間は持たず、長時間続けることは困難だ。


ディスプレイを見て、あと何人かを確認する。あと4人。俺を入れないであと4人だ。優勝の可能性は全然ある。がんばろう。



とりあえず俺は中央広場に行くことにし、そこで敵とあいまみえたのならそのまま勝負をすればいい。そうじゃなくてもそこから見下ろして敵を探そう。


​───────​───────​───────

中央広場にて。

「うぉっ」

ガタイの良い男の体が突然浮き、高さ8m前後のところで自由落下に入る。

男は慣れたと言わんばかりに大剣を構え、地面を爆散させて衝撃を吸収する。


「くっ!」

男の相手...もう1人の弱腰のメガネをかけている男がまたも技を流されて悔しそうに拳を握りしめる。


「あのよぉ、おめぇ同じ攻撃しか出来ねぇのか?」

大剣を持った男がもう1人の男に問いかける。


「そ、そんなこと無いです!余裕ぶってるのも今のうちですよ...!!!」

もう1人の男が捨て台詞を吐く。


「へぇ、そうかい。」

再び男が大剣を構える。それに合わせてもう一人の男も近くの大岩を空中に浮遊させる。


「自己紹介がまだだったなぁ。おれぁ特進コースに進む男【大柳 堅 おおやなぎ けん】だ。なぁに、しがない一般中流家庭さ」

と、大剣を構えたまま男が、大柳堅が自己紹介をする。


「ぼ、僕は【深瀬 永流 ふかせ える】です。あ、あなたに勝って特進コースに進んでみせます。」

言葉に詰まりながらも、深瀬は確かな目で大柳を睨む。


「はっ!まあ、お互いに良い勝負をしようや」


大柳が言い終わった瞬間、深瀬は空中に浮遊させた岩を更に上空に持ち上げ、大柳の頭上まで移動させ、力を解除する。そして岩は大柳を押し潰さんと落ちるスピードがどんどん加速する。


だが、岩が大柳の間合いに入った瞬間、綺麗に真っ二つに割れ、その岩が大柳に当たることは無かった。


そして大柳が大剣を持ってるとは思えない速さで間合いを詰め、深瀬に近づくも、間合いの中に入る寸前に浮かび上がり、落とされる。さっきからその繰り返しだ。


「なぁ!?その技やめてくんねぇかなぁ!!」

大柳が必要以上にでかい声で吠える。


「だ、ダメです!これが無いと、ぼ、僕の負けになっちゃうので...」


「へいへい、そうかい。あーだる」と大柳が吐き捨てたあと、彼はこのままではジリ貧だと、小石を深瀬に投げつける。

深瀬はその小石を浮遊させ、慣性を完全に停止させる。


だが、深瀬が小石に取られた一瞬の隙に大柳は彼の背後に回り、彼を斬らんと──


「くそっっっ!!これもダメかよ!!」

大柳はまたもや浮かび上がり、落とされる。

どうやら深瀬が力を発動させてる時、彼の周りに入った瞬間に浮かせられるらしい。正直、近接戦しか出来ない大柳とはかなり相性が悪い。


深瀬永流の力は"物質や生物に浮力を与え、任意の方向に飛ばすことが出来る"という力である。また、飛ばした時のスピードは内界力をどれだけ込めるかによる。これを利用すれば瞬時に移動できたりもするが、深瀬は大柳が近接戦が得意と分かるやいなや、遠距離攻撃に力を入れた。先程から同じ攻撃を繰り返しているのは内界力の消費を抑えるためである。そうすれば.....


大柳の足元の地面が浮く。

「はぁ、だーかーら、これはもうみたって」

大柳は地面を蹴って地面から逃げようとするが、足が付かない 。

「!!」

(俺も、浮遊しているのか...!!!)


「やるじゃん、深瀬」


「勝つのは、僕です!!!」


大柳が浮遊している間に再び大岩をぶつける。だが、当然のように彼は大岩を細切れにする。

(いいや、これでいい。大柳さんの集中を少しでも逸らせれば...)


「どうしたぁ!?結局さっきと同じか!?」

浮いたままの大柳が吠え、挑発する。


さっきから同じ攻撃を繰り返していたのは、内界力を温存していたのと...これをするため。


「ッッ──!!!」

(なんだ!?いきなり...頭に上から衝撃が...これは、石!?)

「いや、俺が細切れにした岩か!!」


またも石が大柳へと遅いかかる。このサイズの石は大柳でも切れない。石のサイズが小さいのと、何より──


(速ええええ!!)


この石は浮力を与えられ、一つ一つに内界力を多く込められているので、凄まじい速さで飛んでくる。

動きを封じられ、大剣で斬ることもままならない。そしてダメ押しのように巨大な岩が迫ってきている。


(いける!勝てる!事前にシミュレーションをしておいて良かった!!)


直後、全方位から当て続けられた石と大岩が自由落下をする。

(なっ、なんで...!!!)


「あ゙ーー俺の力は、剣撃なんかじゃねぇよ。」


「!!!」

(そうだ!なんで僕は今まで...大柳さんの力が剣撃だと思い込んでいたんだ!!)


だが、これにより、元の状況に戻っただけだった。

互角。これでは埒が明かない。今は盤上がひっくり返るような異物が欲しい。だがそんな事は──


突然誰かの内界力が解放された気配がし、大柳はほぼ反射的に後ろに飛びずさる。


左から爆音とともに炎の塊がこちらへ直進してきた。そして先程大柳がいた位置で爆発し、周辺の地面が一気にえぐれる。


盤上がひっくり返るような異物──


「当たると思ったんだけど」


そこには力を開花させて約1ヶ月間で急成長を遂げた、自身の体から膨大な量の内界力が溢れ出ている....何をするつもりか分からない恐怖。そんなものを感じさせる、


──圧倒的な異物が静かに佇んでいた。

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