激突

エンパイアからの刺客と実行高専の番人。両者は向かい合い、構える。白黒男の内界力が澄まされ始めたのを確認、白黒男は内界力の整理をし始めたと矢羽根は推測し、同じく矢羽根も内界力を整理しようと──


したところで。矢羽根の地面が爆ぜた。


「ッッ──!!!フェイントか!!」


「あのさぁっ、後頭相手にバカ正直に隙を見せると思うかい?」

白黒男は右手を額にかざして遠くを見つめるときのポーズを取り、矢羽根の存在を確認する。

白黒男が内界力の整理をし始めたと矢羽根は推測したが、それは勝負を一瞬で片を付けるためのフェイントであった。


「....まぁ、そう簡単には終わらせられないよね。知ってたよ」


土煙でシルエットでしか見えない矢羽根の全身から細い糸が無数に飛び出し、土煙をかき消す。


ここから、侵入者対番人の戦いが始まろうとしていた。


木々や地面が次々に爆ぜ、矢羽根の周りの地面がどんどん抉れていく。それに対抗するように矢羽根は地面や自身の体から無数の糸を出して目の前に糸の壁を作り、攻撃を防ぐ。


「そんなことしても目眩しぐらいにしかならないのに」


だが、家を豆腐のように切り刻める糸で作った壁でも、一瞬で矢羽根を避けるように上下左右へ移動する。そして続く敵の攻撃が矢羽根を襲いかからんと——


「マジか!!」

木の破片や石などが爆発の影響で飛んで矢羽根に当たる寸前。

その攻撃は肉眼ではとても見えない細かな糸によって粉々になった。そしてその糸は白黒男をも切り刻まんと飛んでいくが、糸は寸前のところで屈折し、白黒男の肌を少し切るだけで避けるかのように進行方向が変わる。


(あの糸の壁で目眩ししたのは、あの攻撃を撃つため!!!)

「もしかして、もう僕を倒す算段も完成しちゃってたり?」


「.....どうだか」


再び両者は向かい合い、構える。

今度はフェイントでは無く、どちらも内界力の整理を始める。


「──内界力解放、血を代償とする」

「──内界力上限解放、絲藝技法(しこうぎほう)。喜」

両者がほぼ同時に技名を発した。

次の瞬間、矢羽根の体からは黄色の糸が手から放たれ、糸は織り成し、混ざり合い、円形に形を変えて白黒男へと直進する。

対して白黒男は、彼の周りの木や地面がえぐれ、目に見えない不可視の周りのあらゆる物体を抉る球を目の前に作り出す。


2つの技はぶつかり合い、木や地面の塊は一気に爆ぜる。そして2つの技がぶつかって爆発的な威力を得た2つの技により、周りのありとあらゆる物質は消滅。激しい揺れや轟音が試験会場に響き渡り、爆風とそれによる土煙が両者を襲う。


2つの技は互角だった。


​​───────​───────​───────

2つの技が衝突した際の轟音と揺れは救助テントまで届いた。

「うぉっ!?」


「きゃっ!!」


「君たち!大丈夫かい!?」

救助テントで保護された俺と翔庭さんは突然の地震と轟音に驚き、思わずその場に倒れそうになってしまう。すると、保健室担当の【木原 唱羽 きはら しょう】先生が駆けつけて俺たちの身を案じてくれた。


「は、はい。大丈夫です。」


「で、でも凄い音...耳がキーンってなってます」

翔庭さんは耳を抑えながらそう言う。


「うーん....まぁ矢羽根先生と今回の犯人がぶつかってると思う方が自然だろうねぇ」

あの矢羽根さんでも意外と苦戦するものなのか。相当相手が強いんだな。


「とりあえず矢羽根先生が来たんなら事態は収拾かな。君たちは寄り道なんてせずまっすぐ家に帰るんだよ。」


「「はい!」」

俺たちは返事をし、再びテント内の床に座って事態の収拾を待つ。


「さて、私は高専本部へ状況を報告、それと被害者の確認をしなきゃだ。はぁ骨が折れるなぁ、実際腕とか折れてそうだけど」

軽口を言ってから少し苦笑いをし、木原先生は救助テントから出ていって本部へ連絡をし始めた。


「賢くん、賢くん」


「うん?」

不意に翔庭さんが俺の肩をポンポンと叩いて話しかけてくる。


「事が落ち着いたら聞こうと思ってたんですけど、賢くんの内界力が先程からずっと垂れ流しになってますけど、これも作戦の内ですか?」

と、翔庭さんが俺に聞いてきた。

....いや、作戦なわけが無いだろう

俺は俺の実力の足りなさに絶望し、頭を抱える。翔庭さんは一瞬で状況を察したのか、何も言ってこなかった。


「...内界力は、脳で操作するものなので、慣れないと内界力の回復や可視化された内界力を抑える事は出来ません。ですが、内界力の可視化を抑えることに慣れてしまっては漏れ出す内界力が自動的に抑えられてしまいます。」


「?それがいいんじゃないの?」

かなり強い人...先生とかは力を使ってもほとんど内界力が出てこない。


「いえ、もし賢くんが敵との戦いで相手が突然内界力を爆発的に体から出したらどう思いますか?」


「.....そりゃあ、何をする気なんだって怖くなるな」


「そうなんです。内界力の可視化というのはそれなりに使い道があるんです。主にフェイントをかけるぐらいですけどね」

そのフェイントが戦闘では大きなアドバンテージとなる。そういう事なのか。


「そっか、俺の、アドバンテージ.....ありがとう」


「いいえ」

翔庭さんは満足気な顔をし、再び俺たちは押し黙る。

この笑顔がどこか弟のそれに似てる気がして、俺は感傷に浸っていた。


​───────​───────​───────

「いや、マジかぁ?分かってたことだけどこれで無傷って...」

白黒男が土埃まみれの服を払いながらそう言った。土埃まみれの服は所々敗れており、その隙間からは血が滲み出ている。頬と額からも血が出ていて、白黒男は顔を血で赤黒く染めていた。


「それに対してお前は傷だらけだな、可哀想に」

矢羽根凪が少し嘲笑的に、煽るように微笑し、無傷の体を見せつける。


「はぁ、じゃあ今日はお暇させてもらうとするよ、僕も本気でやり合う気は無いんだ。君も来ちゃったしね。」

白黒男はくるりと体を翻し、結界の穴を目指してゆっくりと歩く。


「逃げられると思うのか?」

矢羽根凪の体からうねうねと糸が飛び出し、白黒男へと飛びかかる。

だが、その糸は白黒男に当たる直前で速度が落ち、否、矢羽根が速度を落として糸を消す。


「止めときなよ。これ以上被害を出したくないだろう?」


「....まさか」


「既にこの試験会場全体はマーキング済みだ。僕が力を発動させたらすぐに試験会場全体が更地だ。」

白黒男は両手を広げて拳を開き、そして拳を思いっきり握りしめる。


(やられた...こいつは俺との戦闘中に試験会場全体をマーキングし、試験会場自体を力の効果範囲にした...つまり俺はここであいつに襲いかかったらあいつは力を使い、試験会場全体が更地....俺もこいつを殺すことが出来るけど、1発では無理だろう。つまり今はお互いに力を発動できない状態...!!!)


「チッ」

矢羽根は完全に力を解除して舌打ちをする。


「じゃ。またね~」

呑気に手を振り、帰っていこうとする侵入者に矢羽根は最後に言葉を伝える。


「残念だが、お前らエンパイアの思いどおりにはいかねぇよ。新しいお前らの怖がる世代が来たんだ。今は俺らを越すほどの実力者がわんさかいる」


「──その才能の芽を摘むのが、僕の役割だ」


「.....」


白黒男はそのままゆっくりと帰っていき、矢羽根は見えなくなるまで背中を見続けた。


──背中を、見続けた。


​───────​───────​───────

ブブブブブブ

スマホの着信音が鳴った。俺と翔庭さんはスマホの画面を見る。


"侵入者を撃退。生徒は速やかに近くにいる教師へと安全報告、それが済んだら家へ帰ること。"


「!!やった!」

翔庭さんが飛び上がって喜ぶ。


「よかった...」

俺も安堵し、安全報告を木原先生にする。


「そうか!やっと終わったのか....!!!いやぁ良かったぁ。....それじゃあ、君たちはもう帰って。試験はまた別の日に。」


「はい。ありがとうございました。」

俺たちは深々とお礼をし、帰路へと着く。


「じゃあ、賢くん、また明日。」


「うん、また明日。」

俺たちはそれぞれ家の方向が違うので途中の道で分かれそれぞれの家へと足を進める。


今回の件は色々と思うことがあったが、とりあえずはこれ以上の犠牲を増やされないで良かった。


俺は来る再試験に備えて、内界力の調整を初め、力の強化や新しい技の考案などを必死に考えたのだった。

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