7 おしゃれしない行き先

 侑人が愛海のアパートに泊まっていった日、侑人は不思議な次の約束を結んでいった。

 それは「今日の夜に迎えにいくから、なるべくおしゃれしない格好で待ってて」というものだった。

 まだ月曜日の夜で、一緒に遊びに行くという話ではなさそうだった。それ以上に、なるべくおしゃれしない格好という言葉が、愛海の中の不思議を大きくした。

 侑人が帰って行った後、愛海はそんな彼の言葉を思い返しながら一日を過ごした。

 夜もすっかり更けた頃、約束の時間がやって来た。インターホンが鳴って愛海がアパートの扉を開けると、侑人は少しむすっとして言った。

「愛海ちゃん? だめって言ったのに」

「だ、だって」

 愛海は自分にできる精一杯のおしゃれをしていた。おしゃれに自信はないけれど、昼間からまじめに考えたからそんなにひどくもないと思う。

「……ごめん、派手だった?」

 色味は抑えて、スカートの丈だって短くはない。ただちょっと気持ちは浮き立っていたかもしれないと、愛海はしょんぼりする。

 そんな愛海に、侑人は苦笑して言った。

「困っただけ。これから行くのは、すごいイケメンのところだからね」

 愛海はきょとんとして首を傾げる。侑人は困ったように続けた。

「でも無理か。愛海ちゃんがかわいいのは隠しようもないしな」

 侑人はひとつ息をつくと、手を差し伸べて言った。

「行こ。デートとはちょっと違うけど、どうしても連れて行きたいところなんだ」

「……うん。わかったよ」

 愛海は侑人に手を取られて、外に向かって歩き出した。

 愛海は侑人と車の後部座席に乗った。車は公園を抜けて、メインストリートを北へ走って行った。

 窓の外では街灯りが輝いていた。都会の中心のような派手なネオンサインではなくて、しっとりした風情ある灯りで満ちている。愛海はその灯りを見送った。

 車は高級住宅街の直前で道を東に折れて、少し坂を上った。そこに現れた巨大な建物に、愛海は声を上げる。

「病院?」

 愛海が侑人を振り向くと、彼はうなずいた。

「特別に、医師の予約を取ったんだ。……愛海ちゃんの病気を、ちゃんと診てもらうために」

 車はまもなく乗合所に停まると、運転手が降りて扉を開いた。

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