Ep2 冥界

深夜2時。怪異に最も近い時間。

目の前の先輩は悪魔のような姿に変貌し、ベランダの外の世界は蒼炎の世界に変わっている。みどりは何もかも理解できず呆然と立ち尽くした。


その時先輩が突然後ろからハグをした。

「先輩…何を…」

と言いながらも翠は頬を赤らめる。次の瞬間

フワっ

翠の体が宙に浮いた。慌てて後ろを振り返ると、先輩はさっきまでたたまれていた羽を2メートルほどに広げ、羽ばたいていた。

「今からあの城に行くの。あなたに合わせたい人がいるから」

そういうと先輩は上体を前へ傾け、翠を持ちながら空を駆けて行く。


先輩の胸を背中に感じながら、翠はこの街の風景を見た。住宅の形は現代となんら変わりは無い、奥に見える中世のような城が建物の中で唯一異質だった。大きく現代と違うのは次の2つ。一つ目は空。太陽も月も出ていない昼と夜のはざまのような青紫色だが空一面に星が出ていた。2つ目は街の街路樹や植物から蒼い炎が立ち上っていること。普通なら葉がつくところ

から炎が上がっている。


「この世界は一体…」

先輩は翠の後ろで優しく答える。

「ここは冥界っていうの。君たちが住んでいる世界が表の世界だとしたらこっちは裏の世界。」

「冥界って…死者の国?」

「そっちでは死者の国や地獄ってイメージがあるかもしれないけど、それは違う。実際は人ならざる者、怪異が住まう街。わたしたちのようなね」

「怪異っていってもそんなの作り話のはず…信じられない」

「私のこの姿を見てまだ言う〜?地獄の絵は見たことがあるでしょ?あれは実際にこの世界に迷い込んだ画家によって描かれたのよ。江戸時代は現代よりももっとこっちの世界と近かったからね」

「じゃあ僕が連れ去られた目的はなんなの?」

「それは城についてからのお楽しみ!」

そう言って先輩はさらに速度を上げた。先輩の姿が見えないからかその優しい口調が翠を落ち着け、冥界へ慣らしていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る