WING〜男子高校生、不死鳥になり世界を救う〜

@destination

Ep1 幕開け

窓を開けるとそこは蒼い炎が燃える幻想的な別世界だった。


キーンコーンと鐘の音が鳴り生徒たちに放課後の始まりを告げる。ここは府立山尾高校。府の中でもトップの偏差値を誇る進学校だ。


日下部 翠は今日もじっと窓際の席でグラウンドを見つめていた。そこに別の男子生徒が近づいていく。


「みどり、お前またあの先輩見てんのかよ。飽きねーなぁ。そろそろ諦めなって」

話しかけてきたのは翠の数少ない友人の1人椎名 雅たまにうざい時があるが悪いやつではない。

「別にいいだろ。見るだけなら何も迷惑かけてないし…」

翠が見ているのは1つ上の3年の先輩である木下 由依。学校一の美女であらゆる男子から絶大な人気を誇る。白い肌に切れ長の目、それのさらりとした黒髪が印象的だ。翠は去年からずっと由依のことが気になっていた。

「早く行動しないと先輩も誰かの彼女になっちまうかもよ〜」

「先輩はそんな軽い人じゃ…」

「そんじゃ俺部活行ってくるわ。先輩鑑賞もほどほどにしとけよ〜」

と手を振って雅は去っていく。彼はサッカー部なのだ。ちなみに翠は帰宅部。もう少し先輩を見てから帰ることにした。


ー下校時バスの中ー

自分の降りる駅に着き翠は定期を持って並んでいるがなかなか前に進んでいかない。すっと前を見ると由依先輩がなにやら困ったように運転手と話していた。翠は何か先輩と接点を作ろうと話しかけに行った。

「木下先輩、どうかしたんですか」

「君は?」先輩は不思議そうに翠を見つめる。

「2年の日下部翠です。突然すみません…」

初めて話す緊張と先輩の美しさで冷や汗を書いていた。やはり自分のことは知られていなかったかと話しかけたことを少し後悔した。

「あ!もしかしていつも教室から見てくれてる子?実は財布を無くしちゃって、定期も入ってたからどうしようかなって」

「あ〜それは大変ですね。それなら僕が運賃払いますよ。どうぞ」

と運賃である200円を渡す。平然と渡しているが内心は見ていたことがばれているのを知って心臓が早鐘をうっていた。

「本当にありがとう。」そう言って先輩はバスを降りた。


翠がバスを降りると、そこで先輩が待っていた。

「バスの中じゃなんだから外で話そうと思って」

と先輩は優しく言う。そして歩きながら

「スイくんはどこに住んでるの?」

「突き当たりのアパートですけど…それより僕はスイじゃなくてミドリなんですが」

「いいじゃない!スイのほうが言いやすいしそれに可愛いから。というか私もおんなじアパートだよ!」

翠は同じアパートに住んでいたという事実に驚きを隠せなかった。

「えっ、まじすか。こんなことってあるんですね。俺は1人暮らしなんですけど先輩は?」

「私も一人暮らし!あっそうだ。さっき助けてもらったし家でお礼させて」

「いいんですか、そんなの」

「じゃ、7時に家のチャイム鳴らして。またね」

そう告げると先輩は足早にアパートの2階へ駆け上がって行った。翠は先輩からの誘いが嬉しすぎて無意識のうちに鼻歌を歌いながら1階の自分の家の鍵を開けた。


翠は家に帰ってからは気が気じゃなかった。先輩といる時は気づかなかったが、冷静に考えると先輩の家にいけるなんてやばい。ソワソワした気持ちを抑えるため、翠はシャワーをすることにした。


6時50分。バクバクと自分の心臓の鼓動を聞きながらアパートの2階へ上がる。そして震える手でドアチャイムを押した。

ピーンポーン

すぐに部屋の中からパタパタとスリッパでこちらへ近づく音がする。ゆっくりとドアが開き

「お、早いね。上がって」

そう言った先輩は髪が少し濡れていて普段と違った色っぽさがあった。

「お邪魔します…」


先輩の部屋は家具から窓辺に置かれた花瓶まで、どこか洗練されていた。

お礼といっても何をしてくれるのか翠にはわからなかった。

「そこのソファに座って待ってて。今夜ご飯を準備してるから。」

「そんな、なんか申し訳ないです。」

「これがさっき助けてくれたお礼だから遠慮しないで」

「わかりました。」


20分後、どことなくカレーのいい匂いがしてくる。翠は待ち時間ずっと窓辺の花瓶を見つめていたが、緊張でほとんど意識がなかった。翠にとっては初めての女子の家でそれに憧れの先輩の家なのだ。


そこから5分後

「できたよ〜、ほらここの椅子座って!」

テーブルの前には2人分のカレーとサラダが置かれていた。


夜ご飯を食べ終え、2人はソファで座っていた。先輩の作るカレーは翠が今まで食べた中で一番美味しかった。

「スイくんはどうして1人暮らしをしてるの?」

「僕、親がいないんです。小さい頃誰かに育てられた気もするんですけど、うまく思い出せなくて。先輩はどうして?」

その質問の後先輩は少し考えてから

「私は単純に1人立ちしたかったからかな」

その後もたわいのない会話が続き、時刻は夜12時になろうとしていた。そして先輩は突然こう言った。

「今日、泊まってく?」

翠は一瞬この言葉の意味がわからなかった。

「え、あ…」

「いやいや、変な意味じゃなくてこのまま帰るのも面倒かなと思って。嫌だった?」

「嫌なんてそんな…むしろほんとにいいのかなって」

「だからいいって言ってるじゃない!キッチンの奥に寝室があるから使って。」

「あ、ありがとうございます」

躊躇いがちに寝室に行きベッドに横になった。普段先輩が使っているベッドだと思うとドキドキしたが、なんとかその気持ちを抑えて眠りについた。


がさごそとドアの前でする物音で翠は目が覚めた。時計を見ると深夜1時58分。スッとドアを開けリビングを見ると、そこにはコウモリのような羽が生え黒いタイツを着た先輩がベランダの方を見ていた。ーーあれは先輩か?なんなんだ?翠は状況が全く理解できなかった。よく見ると頭には角も生えている。

「悪魔…」と無意識のうちにつぶやいてしまった。その声に反応するように先輩はこちらを向く。

「スイくん…」

こちらを向いた先輩の顔は目は猫のように瞳孔が細く本物の悪魔のようだった。

「先輩、その姿って…」

先輩は翠に近づき、何も言わず手をとった。そしてベランダまで手を引いた。時刻は2時00分


窓を開けるとそこは蒼い炎の燃える幻想的な別世界だった。

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