#7/3 #飛ぶ #ブラッドハウンド

「ねぇ。ピムズ・ナンバーワン教えたの、マスターでしょ」

「おや、気付きましたか」


 喫茶店からバーへと照明を落とした店内で、バイトは店主に呆れた目を向ける。


「リクエストしてくるなんて、めずらしいと思ったら――ピムズとか。嫌がらせか何かと思いましたよ」

「なかなか置いてませんからねぇ、あのお酒は」


 いたずらが成功したように笑みを深めた店主は、バイトにピムズ・ナンバーワンを持たせた張本人だ。たそがれ荘の元住人でもあり、不可思議な体質を持つがわざわざ明かすほどかわいい性格ではない。

 いくら睨んでもわからないことはわかり切っているので、バイトは早々に踵を返した。更衣室に向かう背に声がかかる。


「飲んだ感想は?」


 扉を開いたバイトは一寸の間、動きを止めた。何に対しても冷めた目で聞かなかったフリをする彼女が、今、何を考えているのか。

 平時とは違う好感触に店主は片眉をわずかに上げた。

 バイトは振り返らずに肩をすくめる。


「炭酸は苦手だって言ってました」

「そりゃあ、残念」

「今日のブラッドハウンドは飲みやすいって言ってましたよ」

「さわやかなものがお好きなんですね」


 皺を深くした店主は、明日は何でしたっけと顎に手を当てた。

 探りを入れる相手に目を細めたバイトは熱のない笑みを口元に描く。


「秘蔵のお酒、分けてくれるでしょう?」


 話題が飛んだことに店主は目だけを彼女に向けた。

 顔だけ振り返った彼女は、いつになく愉しげに瞳を細めている。こんな姿を目にするのは初めてだ。

 店主は企むような笑みを抱えて応える。


「まぁ、一杯ぐらいなら」

「ケチ」

「早く買える歳になればいいですねぇ」


 幼子をからかう言葉は、いつものように無視された。


܀𓏸𓈒◌𓈒𓏸܀܀𓏸𓈒◌𓈒𓏸܀

誕生酒:ブラッドハウンド

酒言葉:探さないで



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