チュートリアルの次は

『——敵性個体ガルーラダ、ランページジャガー、ヴィイミーの全撃破を確認。これに伴い修了認定試験を終了します。お疲れ様でした。三十秒後、ロビーへと転送します』


 あれ、なんか帰還までの時間が伸びてんな。

 訓練によって時間が変わってくるのか……?


「ま、いいや。ショットガンどこぶん投げたかな」


 辺りの地面をぐるりと見回していると、


『合格だ! よくぞ実力を示したな、傭兵よ! これで貴様は、未熟な雛鳥から一羽の鷹へと成った! この功績を讃え、貴様を我がセプス=アーテル防衛戦線——その精鋭部隊への入隊を認めようではないか! 有り難く思うがいい!』


「……その感じだと、やっぱこっちに拒否権はねえのな。熱烈な歓迎どうも」


 まあ、別にどっちでもいいけど。


「というか、精鋭部隊なんだ」


『貴様は特別だ。訓練と試験で水準以上の実力を示したからな」


「ふーん」


 ってことは、全員が全員精鋭部隊から始まるってわけではないのか。

 なんかちょっと得した気分。


「それで……俺はこれから何すりゃいいの?」


『貴様には後で防衛任務をくれてやる! 我がセプス=アーテルに侵攻する不届き者共を蹴散らすのだ! 作戦開始までにはまだ時間がある。貴様はそれまでに準備を整えておけ! 貴様のその貧弱な装備では容易く蹴散らされるのが関の山だからな! それから作戦準備が整い次第、本部に来るがよい! そこで詳細な作戦内容を説明する!」


「なるほど」


 つまりここからは一旦、自由行動ってわけか。


 プレイヤーの任意である以上、鬼軍曹の指示に従うもよし、ガン無視して自分のやりたいようにするのもよし。

 何にせよ、これで戦闘のチュートリアルは完了したわけだ。


『修了認定試験はこれで以上だ! 戻ったら次の戦いに備えておけ!』


 ここで鬼軍曹は一度言葉を区切り、


『——しかし、今日は豊作だな。何せも精鋭部隊に入れるに相応しい人材を発掘できたのだからな』


 誰に言うでもなく、そんなことをボソリと溢した。


「……ん、三人?」


 今コイツ、三人って言ったよな。

 もしかして……いや、まさかな。


 ——でも、


「おい、そいつらって——」


 しかし、鬼軍曹に言葉の意味を問う前にタイムリミットが訪れる。

 口を開きかけたところで俺は、ロビーへと転送されてしまうのだった。




————————————


ミッション『新人訓練を修了せよ』をクリアしました。


以下の報酬を獲得しました。

・5000ガル

・新人訓練修了証書

・セプス=アーテル防衛戦線精鋭部隊証


————————————






   *     *     *






 チュートリアルを終えてから暫くして、俺はオリオールをぶらついていた。


 街の外に出て冒険をするにも防衛任務とやらに参加するにも、まず回復アイテムのような消耗品や装備を充実させておきたい。

 その為、ショップを回るついでに街の中を散策しているわけだが——、


「想像以上に広いな……!」


 商業区の大通りを歩きながら、思わずぼやいてしまう。


 防衛基地やハンター協会といった自治に関する主要な施設がある中枢区を中心に、オリオールは計四つの区画で構成されている。


 まずは中枢区から南。

 食糧プラントや武器開発施設が集中して建てられてある工業区。


 北西にあるのは、回復アイテムをはじめとした消耗品から装備を取り扱う武具屋、カフェやアパレルショップといった各種ショップが並んだ商業区。


 そして、北東。

 宿屋とか自宅(※購入の必要あり)のような宿泊施設や住居がある居住区。


 多分、隅から隅まで探索しようとすると、一つの区画が回り終わるのにすら半日はかかるくらいの広さはある気がする。

 事実、徒歩だと中枢区から商業区に移動するのにすら結構時間がかかっていた。


 救いがあるとすれば、ファストトラベル機能があることか。

 一定の間隔でランドマークと呼ばれる場所が設定されていて、そこを一度でも訪れればマップ画面から一瞬で転移することができる。

 この機能が無かったら、間違いなく移動だけで時間が溶けるクソ仕様だったぞ。


「これがソマガだったら、ちゃんと実装されてたかな……?」


 いや、ねえな。

 仮に機能自体はあっても、各エリアに一つみたいな感じになってただろう。

 なんとなくだけど、あの運営ならそうする気がする。


「……ったく、そういう配慮の無さがサービス終了にさせたんだぞ」


 などと愚痴りながら、何気なく路地裏に入った少し後のことだ。


「——ざっけんな!! もう二度とこんな店来ねえからなクソが!!」


 柄の悪そうな男性プレイヤーが、がなり立てながら建物から出てきた。

 ……何故か見ぐるみ剥がされた状態で。


 おっ、なんだ物騒だな。

 ぼったくられでもしたか?


 すれ違うブチ切れプレイヤーを一瞥しながら、さっきまでプレイヤーがいたであろう建物の前まで行ってみる。


「ここは……ショップか?」


 ”Insult&Injury”書かれたネオンの看板が立てかけられている。

 それからドアの傍に目立たないように小さく”G/hP”と書かれた看板も。


 マップから店の情報を調べられるっぽいから、早速確認してみる。


「『インサルト&インジュリー』——なるほど、銃火器専門の武器屋か」


 路地裏にひっそりと佇むアングラチックな雰囲気を醸し出す店。

 どうやらNPCが店を経営しているらしい。


 ……いいね、こういう感じの店はかなり好みだぜ。

 何故かプレイヤーが見ぐるみを剥がされてたことは気になるけど。


 さっきのプレイヤーが何か訳ありじゃない限り、もしかしなくてもかなりやべえ店だよな。

 だってNPC相手にあんだけブチ切れるって相当だぞ。


 冷静に判断するのであれば、ここは大人しく引き返すのが無難だろう。

 ——だが、


「ここまで来て引き返すのもつまんねえよな」


 明らかヤバそうだからこそ、あえて踏み入りたくなる。

 ぼったくられた時は致し方なし。

 街灯に誘われる蛾の若く、俺は店の中に入ることにした。




————————————

精鋭部隊に入ると良いこと

・一部NPCからの反応が変わる

・防衛戦線から受注可能な任務が一部変動する


精鋭部隊かそうでないかで大きな変化はないので、無理に精鋭部隊に入らなくてもゲームの進行に問題はありません。

ちなみに新人訓練から精鋭部隊に入るには、


・基礎訓練を一つも行わない

・実戦訓練、修了認定試験を全てノーコンクリア

・ゲーム開始から防衛戦線に入隊するまでの間、新人訓練以外で戦闘を一度も行っていない


以上、三つの条件を達成する必要があります。

そこまでして最初から精鋭部隊から配属されるメリットはぶっちゃけないです。

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