零距離ガンナー

 視界が開けば、俺はさっきのロビーくらいの広さの空間に立っていた。


「……なるほど、ここが戦うってわけか」


 床から天井まで白いパネルのようなもので覆われている。

 出入り口らしきものはどこにも見当たらないってことは……もしかして、独立した空間にでもなってるのか。

 シミュレーションルームって言ってたし、その可能性は高そうだな。


VR仮想現実にフルダイブした状態でシミュレーションルーム仮想空間に入るってよく分かんないことになってんな」


 ……と、そうだ。

 戦う前にステータスの確認でもしとくか。



————————————


PN:アラヤ

Lv.1

所持金:1000ガル


レンジ:クロス

ポジション:ガンナー

クラス:タンク


HP(生命力):50

MP(魔力):20

STR(筋力):10

VIT(耐久):25

INT(知性):10

MIN(精神):25

AGI(敏捷):10

DEX(器用):70

LUC(幸運):10

アビリティ

・スプレッドショット

・パワーガード


装備

メイン:旧式散弾銃

サブ:タワーシールド

頭:-

胴:支給隊服(上)

腕:革の手袋

腰:支給隊服(下)

脚:戦闘ブーツ

アクセサリー:-


————————————




 レベル1のままだけど、チュートリアルだしどうにかなるか。

 とはいえ、少しくらいSTRやAGIにもステ振っといた方が良かったか……。


 などと考えていると、


『来たか、未熟な雛鳥よ! 楽しい楽しい訓練の時間だ! 早速、貴様にはこれからフィースウーズを倒してもらう!』


 再び鬼軍曹のアナウンスが聞こえ、前方に光のエフェクトに包まれながらモンスターが出現する。

 現れたのは半透明な青い液体で形作られた高さ二メートル程のゲル状の生物。

 ウミウシのようなシルエットをしたスライムだった。


 あれが記念すべきサガノウン初戦闘の相手か。


 スライムはRPGでは定番の序盤に出てくる雑魚モンスター。

 相手としては悪くない……が、


「うわ、スライムにしてはでっけえ……」


『こいつは我がセプス=アーテルに侵攻を仕掛けてくる不届き者の一体だ。生半可な実力で挑もうものなら返り討ちに遭うのが関の山だろう! さあ、武器を取れ、未熟な雛鳥よ! 基礎訓練をすっ飛ばすその生意気さが蛮勇か無謀かどちらなのか我輩が見定めてやろう!』


 ……あれ、基礎訓練やってないの見抜かれてる。

 まさかチュートリアルの進行具合でセリフが変わったりするのか?

 だとしたら作り込みの凝りよう半端ないな。


 ——ま、何にせよ……だ。


「合点!! それなら目にもの見せてやるよ、鬼軍曹殿!!」


 戦闘態勢に入ると同時に身構えると、俺の意志に反応して右手にショットガン、左手に大盾がそれぞれ生成される。

 途端、左手にずっしりとした重さが乗っかり、ちょっとだけ身体が前に傾く。


「おっとと……」


 想定だともっと軽いもんだと踏んでいたが、意外と重いな。

 ……いや、俺の筋力が足りてないのか。

 これならやっぱSTR筋力にも振っておくべきだったな。


 けど、反省は後だ。

 とりあえず今は目の前の敵に集中しよう。


「まずは一発!!」


 ショットガンを構えると同時に先制攻撃。

 景気付けにフィースウーズに向けて散弾をぶっ放す。


「……ん?」


 しかし、弾丸は一、二発掠めただけ。

 他は全て明後日の方向へと飛んで行った。


 あれれー?

 どしたー?


「おかしいな……DEX特化にしたはずなのに」


 正直に打ち明けると、俺はそんなにエイムが良い方ではない。

 ショットガンをメイン武器を据えているのも、その低いエイム力を補う為だ。


 加えてこのゲームのアバターの操作性は他と比べてもずっと良く、精密動作性を高めるDEXにステータスを伸ばしてある。

 それに俺とフィースウーズまでの距離はおよそ二十メートル弱。

 十分、ショットガンの有効射程圏内のはずだ。


 にも関わらず外したってことは——、


「この銃……もしかしなくても欠陥品か!?」


『馬鹿者!! 貴様の腕が絶望的に悪いだけだ!!』


「うっせえ! 言ってみただけだ!」


 自分で認めるのは滅茶苦茶癪だが、俺がクソエイムだってことは、俺自身が一番よく知ってんだよ……!!

 何せゼネとティアに超絶馬鹿にされて、煽られ続けてきたからな……!!


 ——アラヤ……お前、擁護のしようがないくらい射撃センスないな。

 ——ええ〜、なんでその距離でまともに当てられないの? 的までたった十メートルだよ?


 みたいな感じに。


『喧しい!! 口よりもまず手を動かせ!!』


「理不尽だな、おい!!」


 というか、なんか自然に会話が成立してるのはスルーするべきか。

 指摘したらまたとやかく言われそうだし。


『さあ、敵の攻撃が来るぞ! 備えろ!』


「——っ!」


 咄嗟に大盾を構えると、フィースウーズがその見た目に見合わぬ速度で飛び跳ねながら接近してくる。

 数瞬して大盾とフィースウーズの巨体が衝突する。


「ぐっ、重っ……!!」


 液体で構成されてるとはいえ、二メートル近くもあればそりゃ重量もそれなりになるか。

 だけどな——、


「生憎、敵の攻撃を真っ向から受け止めるのには慣れてんだよ!」


 角度をつけて受け止めることで勢いを殺しつつ、フィースウーズの体勢を崩す。

 パリィ系の能力がなくとも、ただの突進を崩すくらい造作は無い。


(隙が生じた……今がカウンターのチャンス!)


 くどいようだが俺はクソエイムだ。

 でも、例えクソエイムでも確実に弾丸をぶち込む方法はある。


 やり方は至極単純。

 大盾を放り投げた後、体勢が崩れたフィースウーズに飛び乗る。

 そして、銃口を直接突きつけ、


「狙う必要もないくらい近くでぶっ放せば解決だよなあ!!」


 超至近距離——否、零距離での射撃。

 弾が続く限り散弾を一方的にフィースウーズの頭部に叩き込む。


 飛び道具の利点を完全に捨てる代償に、確実に攻撃を命中させる。

 つっても、ショットガンは元から射程距離が短いし、距離を詰めればより威力が絶大になるから他の銃武器と比べれば大したデメリットにならないけど。


 それから時折リロードを挟みながら引き金を引き続ければ、フィースウーズはポリゴンの粒子となって爆散、そのまま消滅していった。

 こうして最初こそ躓いたものの、サガノウン初戦闘は快勝を飾るのだった。




————————————

弾丸はMPを消費して生成されます。

弾丸を武器によって消費MPは異なりますが、強い弾丸になるほど消費MPも多くなっていきます。

また、MPは時間経過によって自然回復はするものの、MPの多さが手数含め総合的な火力に大きく影響するので、ガンナーはMPも意識して伸ばしていく必要があります。

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