まずはチュートリアルを始めようか
一瞬の浮遊感の後、俺が立っていたのはだだっ広いロビーの中だった。
黒を基調とした空間の中には、多くのプレイヤーの姿が散見され、俺も含めて大抵の人間は同じ隊服らしき格好をしている。
恐らく、俺と一緒でサーバー増設に伴ってゲームを始めたプレイヤーだろう。
「へえ、これがサガノウンの世界か。……なるほど、これは覇権を取るくらい人気になるのも頷ける」
周囲をさっと見渡して、本心からそう思う。
まずソマガと比べてグラフィックが段違いに良い。
さっきは空間が特殊だったからあまり意識してなかったけど、何も知らないでこの光景を見せられたら現実だと見紛うレベルだ。
決してソマガが酷かったと言うつもりはないが、今目の前に映る光景と比べればどうしてもお粗末なものに思えてしまう。
なんなら、他のVRゲーと比べてもクオリティの次元が違っていた。
「まあでも大事なのはコンテンツだ。他の要素も確認してみないと、だよな」
とりあえず現状把握として、マップ画面を開いてみる。
すると今いる階層と周囲の地形情報、それと現在地が表示される。
どうやら今、俺がいるのは、セプス=アーテルの中心都市オリオールの中枢区内に建設された防衛基地——その新人訓練棟のようだ。
どうやらここが初期リスポーン地点となっていて、キャラメイクを終え、初期陣営を北に選んだプレイヤーはここに転送される仕組みになっているらしい。
格好が微妙に違う人間はNPC、もしくはキャラメイクを終えた新規プレイヤーを迎えに来た先行勢のどちらかといったところか。
ソロでやっている身からすれば関係のないことだが、リスポーン位置が固定なら合流場所も分かりやすくていいだろうな。
「さてと、まずは何からやろうか」
全プレイヤー共通の大々的な目標はあるものの、思うがまま自由に冒険して良いってのがこのゲームのスタンスではある。
しかし、だからといって初っ端から放任っていうのは初心者に優しくない。
手始めにチュートリアルとかでゲームの感覚を掴ませるのも一つの良心的なやり方と言えるだろう。
……え、ソマガはどうだったかって?
んなもん、ちゃんとやってればサ終なんてしてねえよ。
というか、あっちはもっと酷かった。
『剣と魔法と弾丸で世界を救え!』
——なんて謳い文句を掲げておきながら、直近の目的は全て自分で見つけて対処しろよ、みたいな超絶不親切設計だったせいで、新規勢が何すればいいのか分からず、ちょっとだけ触ってそのまま引退するって事例も一定数あったくらくらいだ。
流石に本物のクソゲーには及ばないレベルではあるけど、端々から残念臭が漂ってたな、あのゲーム。
それと比べれば最初から全部自由ですよーって言ってる分、まだこっちの方がマシだが……って、ん?
「これは……」
よくよくメニュー画面を見てみれば、項目がざっと並んだ下側に[Tips]と書かれたアイコンがあることに気が付く。
タップしてみれば[新人合同訓練場へ行ってみよう]というテキストと、[マップに場所を表示]と書かれたボタンが配置されたウィンドウが現れる。
「新人合同訓練場……チュートリアルエリアみたいなものか」
とりあえず素直に場所を表示させてみれば、目的地が赤点で表示された。
チュートリアルガン無視で攻略するのもナシではないが……折角だ。
同じ建物内にあるみたいだし、試しに行ってみるのも悪くないだろう。
実戦に赴く前に戦闘時の仕様とか色々確かめておきたいしな。
というわけで、マップの案内に従い新人合同訓練場に向かってみる。
転移装置やらを駆使して歩くこと数分、マップが示す座標まで辿り着く。
「へえ、ここが訓練場か」
……うん、訓練場にしては狭いな。
マップを見てた時点でなんとなく想像はついていたけど。
広さは大体、一般的な体育館の半分程度か。
これだと流石に訓練するには些か狭すぎる。
「ま、細かいところはTipsを見りゃ分かるか」
メニューを開けば、予想通りというべきか。
さっきとTipsの内容が変わっていた。
[訓練を行うには、専用の端末を操作しよう]
それと微妙にポイントの位置も変わっていたので、その先に視線を向けてみると、ATMみたいな端末装置が幾つか並んで置かれていた。
——なるほど、あれでチュートリアルを始めるってわけか。
早速、端末の元に移動し、試しにディスプレイに触れてみる。
『——よく来たな! 右も左も分からぬ役立たずの傭兵よ! 今から我輩が貴様を未熟な雛鳥から一匹の鷹へと導いてやろう! 光栄に思え!』
「……おお、随分とクセ強い教官AIだこと」
如何にもザ・軍人気質の鬼軍曹って感じの力強い声だ。
『新人訓練として貴様には幾つかのカリキュラムを用意した! 全ての過程を終えない限り、貴様が履いているオムツが無くなることはないだろう! 精々、死にもの狂いで訓練に臨むがよい!』
一通り言い終えると、戦闘プログラムが画面に表示される。
中身を確認してみると、ロールの各項目の特徴をまとめたものや戦闘の基礎訓練、それとモンスターを相手にした実戦訓練とかが用意されてあった。
それに伴う形で、目の前にウィンドウが出現する。
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ミッション『新人訓練を修了せよ』が発生しました。
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へえ、チュートリアルもミッション扱いなのか。
一応、ゲーム内で何を目的にするかはプレイヤーに一任されてあるが、特定の条件を満たすことでフラグが立ち、ミッションが発生することがある。
メインストーリーに関わるものから、ゲーム進行を有利にするもの、ただ報酬をゲットする為だけのものと言ったように内容は多岐に渡るが、今回の場合はミッションを体験させることそのものが目的っぽいな。
「けど、新人訓練を終了しろって言っても、一体どの訓練をクリアすりゃいいんだ」
一から十まで全部やれとかだったらキリねえぞ。
なんて思っていたが、ミッションの詳細を確認できることに気づく。
画面を切り替えてみれば、クリアするべき訓練が書かれてあった。
「……なるほど。実戦訓練と修了認定試験ってのをクリアすればいいのか」
だったら手っ取り早く済みそうだ。
そうとなれば早速、『実戦訓練:I』を選択する。
——さてと、こっちの敵の強さがどんなもんか、見せてもらおうじゃねえか。
『——実戦訓練:Iを開始。間もなく、シミュレーションルームへと転送します』
今度はさっきの鬼軍曹ではなく、キャラメイクする時に聞こえたアナウンスが流れると、視界が白く染まるのだった。
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基本的に主要な施設の構造や中身は、どの陣営も一緒で優劣はありません。
異なるのは内外装のモチーフカラーや教官AIの人格などですね。
ちなみに教官AIがおっさんなのは、北の陣営だけです。
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