主流に乗れど、逆張りは捨てず
『Saga of The Unknown』——略称”サガノウン”。
サガノウンが発売されたのは、確か去年の夏頃だったか。
βテストによる前評判やら正式にリリースされてからの評判を度々目にすることはあったが、率直に言ってしまえばソマガの完全上位互換である。
グラフィック、ストーリー、システム——至極残念なことに例を挙げればキリがないくらいには、ソマガがサガノウンに勝てる所が無かった。
まあ、世界観からしても、文明レベルを現代並みに引き上げたことで自然に銃要素を落とし込めたサガノウンと違って、ソマガはよくあるファンタジーの世界に銃要素をとって付けたようにぶち込んだだけだったしな。
そして、元々末期に片足突っ込んでいたのもあったが、ソマガがサービス終了に追い込まれたのは、十中八九このゲームが台頭したのが最大の原因と言って差し支えないだろう。
剣と魔法と銃のファンタジー、という世界観が思いっきり被っている上に、ほぼ全ての要素においてサガノウンの方が上回っていたし、事実、サガノウンが正式リリースされてからのソマガのプレイヤー人口の減り具合はそれはもう酷い物だった。
だから去年の秋にソマガがサービス終了の告知をした時は、ちょっとだけサガノウンを恨んだ事もあったが、どっちかというと非があるのはユーザーを繋ぎ止められなかったソマガ運営にある。
なので、色々葛藤した末に仕方ないと割り切ることにした。
——けど、まさか俺がサガノウンに手を出す事になるとはな。
学校で鷲宮に提案されてなければ、確実にずっと逆張りが働いてやることはなかっただろう。
自室でサガノウンのダウンロード画面を見つめながらしみじみと思う。
「ゼネとティアも同じようにサガノウンを始めたりしてんのかな。だとしたら……ワンチャンまた会えたりしてな」
今日から新規サーバーが開設されていることを鑑みれば、全くあり得ない話ではないはず。
それから色々と今は亡きソマガを思い返している間に、インストールが完了する。
「……お、終わったか」
そんじゃまあ、ソマガの息の根を止めた覇権ゲーのクオリティ……とくと見させてもらうとしようか。
VRギアを装着して俺はベッドに横たわり、ゲームを起動するのだった。
* * *
タイトル画面から[Game Start]を選択すれば、いつの間にか俺は四方全てが真っ白な空間に立っていた。
『——生体反応を確認。認証を開始します』
直後、どこからか機械的な音声アナウンスが聞こえてくる。
「おー……中々にSFチックな雰囲気あんじゃん」
『——認証エラー。一致する生体情報が存在しません。新たな識別情報を作成します』
言い終えると同時、目の前にウィンドウが出現する。
どうやらキャラメイク画面のようだ。
「凄えな……つーか何、この設定の項目数。顔の形から体型、髪型まで全部ミリ単位で設定できるのかよ」
凝り性の人間だったらキャラメイクだけで半日は余裕で潰せるぞ。
プリセットも数百単位であるし、見てるだけでちょっとテンション上がるな。
「つっても、見た目は固定でやってるからあんま関係ないけど」
というわけだから、イメージに近いプリセットを原型にして少し数値を弄って、ちゃちゃっと容姿の設定を完了させる。
そうして完成したアバターは、長身でややがっしりした体格の男性だった。
サイドを残し、ツンツンと髪を逆立てたオールバックの黒髪と鈍色の瞳が特徴で、ソマガで使用していたアバターもこのような見た目にしていた。
「ま、ざっとこんなもんか」
あまり見た目ばかりに時間をかけてるとキリがないし、さっさと次の設定に移るとしよう。
重要なのはここからだからな。
「次の設定はレンジとポジション、それからクラス……か」
サガノウンの特徴としてRPGでありながら、戦士や魔法使いといったような分かりやすいジョブが存在しない。
その代わりに採用されているのが、ロールシステムだ。
得意な交戦距離を表す”レンジ”。
どの武器種をメインに据えるかを示す”ポジション”。
それと立ち回りや習得アビリティの傾向を決定する”クラス”。
これら三つの要素によって構成され、総称したものをロールと呼んでいるらしい。
こういったシステム面に関しては、学校から帰るまでの間にちょっと下調べして前情報を頭に入れておいた。
「……なるほど。どれを選ぶかによってステータスとか習得できるアビリティに補正が入るようになってるのか」
例えばレンジをミドル、ポジションをガンナー、クラスをストライカーにすれば
ロールはキャラを育成する上で今後を大きく左右する要素ではあるが、後から変えられるっぽいから気軽に決めても問題はなさそうだ。
「んじゃ……それなら」
レンジは近距離メインに戦うクロス。
ポジションは銃火器を扱えるガンナー。
クラスは防御系のアビリティを多く習得するタンク。
多分、これでソマガでの戦闘スタイルに一番近いものに出来るはずだ。
残る問題は装備できる武器が俺のイメージと合致しているかどうかだが……うん、大丈夫そうだな。
今のロールで使える武器を一通り確認した後、利き手側であるメインウェポンにはショットガンを、反対側のサブウェポンには大盾を装備する。
近、中距離で高火力の範囲攻撃を叩き込みつつ、近距離アタッカーとも十二分に渡り合える為の構成——これでソマガの時と同じような戦い方を確立できそうだ。
ロールと使用武器が決まったなら、次はステータス設定だ。
このゲーム、ある程度であれば初期ステータスを弄ることができるらしい。
ステータスをどう調整したものか悩みどころではあるが、これもソマガの時と似た感じの配分にすればいいか。
これがサガノウンでも通用するかはやってみなければ分からないが、まずは慣れたやり方でやるのが一番だ。
「そんで残るは……所属する陣営か」
東西南北に配置された四つの中から選ぶ必要がある。
ただこれに関して言うと、どこに所属するかはもう既に決めてある。
北の陣営——セプス=アーテル。
ここにした理由は四つの陣営の中で一番人気が無いから、以上。
詳しい理由までは調べてないから分からないが、まあそこら辺は実際にやってみれば分かるだろ。
一応、ロールと同様に陣営も後からでも変更可能とのことだけど、こっちは多分そうそう変えることはないと思う。
それに覇権ゲーに手を出したとはいえ、安易に人気どころに行くのは負けな気がする。
最後にプレイヤーネームをいつも使っているアラヤと入力すれば、これでキャラメイクは完了だ。
「よっしゃ、いっちょ暴れてやりますか……!」
最終決定を押せば、アナウンスと共に、視界が真っ白に染まった。
『——生体情報の登録を完了しました。スキャン開始……認証完了。貴方をセプス=アーテルへ転送します。ご武運を』
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四つの陣営の人気順ですが、オキス=アルブム(西)≒オリエ=カエルラ(東)>メリデ=ルブル(南)>>セプス=アーテル(北)となっています。
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