覇権ゲーに殴り込もう
ソマガのサービス終了から早くも一ヶ月が過ぎようとしていた。
新学期が始まり、クラス替えやらで色々と環境がガラッと変わったが、どこか物足りない生活が続いていた。
考えるまでもなく原因は、今まで生活の中心だったソマガが無くなって、時間を有り余らせてしまっているからだろうな。
今なら部活を引退してロスに陥っていた奴の気持ちよく分かるよ。
全く充足感のない自由ほど虚無感に襲われるものはない。
これまでは学年が新しくなった影響でそれなりに慌しかったから良かったが、明日——というよりは、放課後になったから今からって表現が正しいか——からゴールデンウィークに突入する。
なので教室の中は、ゴールデンウィークの間、何をして過ごすかって話題で持ちきりだった。
いつメンと遊びに行く。
彼氏、彼女とデート。
部活漬け、ゲーム三昧、バイト……etc.
人によって充実してたりそうでなかったりと様々だが、教室を後にするクラスメイトの大半は何かしらの予定で埋まっているようだ。
それに対して俺は——何もない。
文字通り予定が何もない空白なのである。
このままだと折角の大型連休がただ起きて食って寝てだけの生活になる。
ソマガがサ終さえしなければ、こんなことにならなかったのに。
——ゼネ、ティア……アイツら今頃どうしてんだろうなあ。
「はあ、憂鬱だ……」
そのせいでなかなか帰る気になれず、机に突っ伏していた時だ。
「……ねえ、放課後になったのに何してんの?」
呆れ混じりの声に顔を上げれば、クラスメイトの女子——
「ゴールデンウィークにやることがなくて絶望してる」
「だからってそこまでなる? 何かしらやれることはあるんじゃないの?」
「……あったらこうなってねえよ」
「ふーん……じゃあ、あれは? いつもやってるっていうソマなんとかってMMO」
「ソマガ、な。生憎、先月末でサ終したよ」
ぶっきらぼうに答えれば、
「あ……終わっちゃってたんだ、あれ」
やめてくれ、その憐れむような目。
全く気づかれてなかった事実も含めて余計悲しくなるから。
宮と俺の関係性を簡潔に表すのであれば、ぼっち仲間といったところか。
互いに普段は教室の片隅で息を潜めて、周りに人がいない時、こうやってたま〜に世間話をする、その程度の関係。
去年、クラスで男女ペアを組む機会があり、その残り物同士になったことで始まった関係だ。
「——だったら、サガノウンはやらないの?」
「お前、俺の前でよくそのタイトルを口にできるな」
「だって、今一番人気なゲームって言ったら、間違いなくそれでしょ」
「……まあ、それは否定しないが」
なんなら昨今の覇権ゲーといっても過言ではない。
そのおかげで、俺の
「あんたが逆張り気質なのは、これまでの付き合いで何となく分かるけどさ。でも、時には流行りに乗っかるのも大事だと思うよ」
「流行りに乗っかる……か」
そう言われると、少しアリかもって思えてくるな。
「今日から新規サーバーが開設されるみたいだし、折角だから始めてみたら? 今ならまだソフト買えるみたいだし」
「ふむ……」
まあ、やることがなくて無為に過ごすくらいならそっちの方がマシか。
それに……ソマガがサ終する最大の原因となったサガノウンが一体どれほどのもんか気になりもなるし。
「——やるか、殴り込み」
こうなったらマイナーゲーで培った実力、覇権ゲーでぬくぬくと遊んできた奴らに見せつけてやるよ……!!
早速、
鷲宮の言っていた通り、今日から新規サーバーが開設されていて、まだソフトの購入も可能なようだ。
というわけで即断即決でソフトと利用権を購入、後は家に帰ってVRギアにソフトをインストールをすれば準備完了だ。
「ありがとな、これでゴールデンウィーク虚無らずに済みそうだ」
「別に、お礼を言われるほどのことでもない」
言って、外方を向く鷲宮。
俺が言えた柄じゃねえが、ほんと愛想ねえなコイツ。
まあ、いいけど。
——それよりも、だ。
「ところでさ、なんで鷲宮がそんなこと知ってんの? アンタ、ゲームとか興味ない口だったろ」
「……ただネットでそんな記事をチラッとみただけ。それじゃ、頑張りなよ」
そう言うと、鷲宮は足早に教室を出て行った。
彼女の背中を横目で見送りつつ、俺も荷物をまとめてこの場を後にするのだった。
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主人公はダウンロード版を購入しましたが、パッケージ版もまだまだ現役です。
全部ダウンロード版で済まそうとすると、データ容量が半端ないんじゃ……。
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