Saga of The Unknown〜覇権ゲーのせいでガチってたゲームがサ終したから、ちょっと殴り込んでくる〜
蒼唯まる
これにてサービスは終了です
世界を崩壊に導いた邪神イナニスの全身が光の粒子となって崩壊する。
それに伴って空一面を覆っていた深紅の暗雲が消え、ゆっくりと朝日が昇り始めた。
「——あーあ。これで、お前らともお別れか」
全ての人類が待ち侘びていた希望の夜明け。
俺は構えていた大盾を地面に突き立て、銃口から紫煙が立ち昇った散弾銃を肩で担ぎながら後ろを振り返る。
視線の先にいるのは、一振りの長剣と数本の短剣を携えた金髪の少年と重厚なマシンガンを背に担ぎ、短杖を手にした水色髪の少女。
二人は、感傷に浸るようにしながら俺の言葉に頷いていた。
「そうだな。この三年間、お前達二人には随分と手を焼かされたものだが、振り返ってみれば……まあ、悪くはなかった」
「おやおや〜? 全く、ゼネくんは素直じゃないなあ。最後くらい、わたしらと戦えて良かったーみたいな事とか言っていいんだよ?」
「誰が言うか。お前達とはただ腐れ縁が続いただけだ」
そう言って、ゼネくんことゼネラルはふんと鼻を鳴らす。
しかし、暫しの間を置いて、
「……それに、別にこれで終わりというわけでもないだろ。ここでお前達と会うことが無くなったってだけで」
「ゼネくん……!!」
「ハハッ、確かにゼネの言う通りかもな」
ここじゃないどこかでも、こいつらとはまた巡り逢うことになる気がする。
示し合わせてもないのに何度も遭遇し、戦いを繰り広げ、その果てに共に冒険をする仲になったこの二人となら。
——ま、根拠もないただの勘だけど。
「だったら、サヨナラなんて野暮な言葉を使うのはナシだな」
「ですなー。それじゃあ、アラヤ。そろそろ時間だし、なんかいい感じに締めてよ」
「分かった」
少女——ティアの要望に片手で応えてから俺は、
「あー……なんか、こう改まると照れ臭いものがあるけど……ゼネ、ティア。お前らと過ごした三年間はなんだかんだ滅茶苦茶楽しかった。これで離れ離れになるけど、俺らの事だ。どうせどっかであっさり再会するだろうから、サヨナラの代わりにこう言わせてくれ——またな」
「俺としてはどっちでも構わないけどな。でも……ああ、またどこかで」
「うん! またね、二人共! またこの三人で大暴れしようね!」
最後にゼネもティアも笑みを浮かべてみせる。
そして、互いに拳を突き合わせるようなジェスチャーを取った刹那——、
俺以外の全てが静止した。
空を流れる雲も、宙を舞う光の粒子も、目の前にいる二人も。
時が止まったかのように、何もかもが微動だにしなくなる。
少しすればゼネとティアの姿が消失し、代わりに目の前には一文だけ記載されたテキストウィンドウが出現していた。
————————————
[ERROR:サーバーメンテナンス開始のため、通信が切断されました]
————————————
「ああ……遂に終わっちまった」
静寂に包まれた世界の中、俺は空を見上げボソリと呟く。
この綺麗な朝焼けとは裏腹に、現実世界での時刻はちょうど二十一時を回ったところだった。
ここは異世界でもなんでもない。
『ソード&マジック&ガンズ・オンライン』——通称”ソマガ”。
剣と魔法と銃のファンタジーをコンセプトにしたフルダイブ型VRMMORPGの中の世界……更に詳細に言うのなら、そのラスボスとの戦闘エリア内だ。
ソマガは、俺——
ウィンドウにはサーバーメンテナンスと書かれているが、もう二度とメンテが明ける事はない。
何せ、半年前からこの日の告知がされて来たのだから。
この時間停止は、完全にサービスが終了した証明だった。
このゲームを評価するのなら、面白いには面白いが覇権を取るまでは色々と足りない今一つ残念なマイナーゲーム、と言うのが正しいか。
全体を通してふわふわとした世界観と微妙に盛り上がりに欠けるストーリー。
そのくせ敵MOBは異様に強く、セーブの効かないMMORPGなのに死にゲーを要求してくる最早悪意すら感じる鬼畜難易度調整。
しかし、ストーリーとは対照的に一対一、チーム戦関係なく剣、魔法、銃のどれでも環境トップを取れる可能性がある程にかなりの良調整を施された対戦環境。
なんというかRPGで見るならクソゲーに近いけど、対戦ゲーとしてだと、それ目当てで買う人間がいるくらいには神ゲー寄りというなんとも言えない立ち位置にあるというのが、ソード&マジック&ガンズ・オンラインという作品だった。
一時期は対戦目的に人口が増加する時期もあったが、全体的なアクティブプレイヤーはそう多くはなく、末期に片足を突っ込むようになってからは過疎ることもそんなに珍しくもなかった。
おかげで最後までガチってたプレイヤーの大半とは顔見知り程度の仲にはなっていたが、中でもゼネとティア——この二人に関しては、リアルの友人以上の付き合いになっていた。
同じ時期にこのゲームを始め、示し合わせたわけでもないのにログインする時間帯が被り、何故か同じタイミングで同じコンテンツを始める——という偶然が相次いだ結果、いつしか野良パーティーを組んで遊ぶようになっていた。
だけど、
「——結局アイツらとは、フレンドにならずじまいだったな」
たまたま遭遇したらパーティーを組む、みたいな事を続けていたせいか、誰も自分からフレンドになろうぜ、なんて言い出すことはなかった。
暗黙の了解ってわけじゃないんだけど、なんとなくこの距離感が丁度よかったから提案するのが憚られたのかもしれない。
ついさっきまではそれでいいやと思っていたが、いざこうして別れてしまうと、ほんの少しだけ、やっぱフレンドになっときゃ良かったな、なんて考えが今になって脳裏に過ってしまう。
けど……これで終わりじゃないはずだ。
ゼネが言っていた通り、俺達はまたどこかで再会するだろう。
そう遠くはない未来。
こことは違うゲームで、似たような形で。
確かな充足感と一抹の寂しさを覚えながら、俺はメニューからログアウトボタンをタップする。
こうして、三年間の青い春に別れを告げるのだった。
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