第12話 舞台女優__田中 美鈴

静かに相談所の扉が開いた。そこには一人の女性が立っている。


「こんにちはDAVIDさん。久し振りにお仕事に呼んでもらって嬉しいです。」


彼女は挨拶をすると直ぐに僕らの前に腰掛ける。


「お久し振りです。田中美鈴さん。」


田中美鈴さん30歳___


どうやらたまにアルバイトとして雇うらしいが、本業は舞台女優のようだ。本当にDAVIDさんは色んな方との繫がりがある。


「こちらがアシスタントのJACKです。」


「どうぞ宜しくお願いします。JACKと言います。主に調査に必要な装置などの開発担当をしています。」


「こんにちは、初めまして。田中美鈴です、宜しくお願いします!」


物凄く人を惹きつける不思議な魅力の持ち主だ。

女優さんという事もあり、変幻自在に色んな役をこなせるのかもしれない。


「そしてこちらが山内さん、北原さん、そして”T”という人物の写真になります。」


この間隠し撮りしておいた映像をプリントした写真をテーブルの上に置く。


「田中さん、今回お願いしたいのはこの山内さんという男性に近付いて頂き、彼の仕事のパートナーになれるように動いてもらいたいのです。こちらの調べによると、山内さんは輸入関連の会社をこの写真の女性、北原さんと一緒にやる予定だったのですが、何かしらのトラブルに遭遇して二人で”T”という人物にお金を支払う事になっているようなのですが、その辺の所がまだ釈然としないんですよね。そこで、山内さんと仲良くなって頂き、仕事を手伝いたいという感じで相手の懐に入ってもらいたいんです。山内さんが一体どのようないきさつで北原さんと出会い、会社を立ち上げる事になったのか、そして”T”という人物に支払っているお金の理由についても探って頂きたいんです。」


「なるほど、今回も面白そうですね。でも元々はこの話の依頼者はどういう事で相談をしてきたんですか?」


「依頼者の方のお名前は高野みやびさん33歳。始めはマッチングアプリで山内さんと出会い、その後二人はお付き合いをする事になりました。それから山内さんが会社を辞めて自分の会社を立ち上げるという話になったんです。そこで、高野さんはその会社の立ち上げに必要なお金を”もしかしたら彼と結婚するかもしれない”という思いから彼のサポートとして出資したらしいのです。ところが会社設立で山内さんが忙しくなり、最近では会う事も少なくなってきた。段々と高野さんは今後の事が不安になりこちらに相談に来たというのが話の流れです。最初にお話を伺った時は単なる結婚詐欺なのかと思っていたんです。山内さんが結婚詐欺師という事であればそれなりの対応で全てを終わらせる予定でしたが、”彼が高野さんのお金を取った”というのが真実では無く、他に何か理由があるのでは?という気がしてまだ決定的にこれだという証拠が見付かっていないんです。そこで是非田中さんに一緒に仲間に加わってもらい、私達に協力して頂こうかと。」


DAVIDさんがかなり田中さんを信頼しているからこその言葉だ。

ここまで事細かに話せるのは以前に何かしらの依頼に対して一緒に動いた経緯からなのだろうと。


「なるほど、確かに結婚詐欺だけでしたらもっと簡単に終わりそうですもんね。・・分かりました!同業として山内さんに近付けば宜しいんですね。キーワードは輸入雑貨なんですか・・・?私、元々意外と詳しいんですよ。雑貨に。」


そう言うと田中さんはニコっとしてこちらを見た。


「田中さんがあらゆる事に精通しているのは知っていましたので。流石ですね、安心しました。JACK、あれをお願いします。」


「これが田中さんの今回の仕事用の名刺です。こちらを使ってください。」


___DAVIDさんに頼まれて僕がデザインした名刺を置く。


____


株) ワールドアクセ ドアトゥーヘブン

  代表 桐山 冴子

address ○○ ______

☎   ○○____

URL:○○_____


____


「へー、お仕事速いですね。DAVIDさんもJACKさんも。しかもそれっぽい会社名ですね。」


田中さんが面白そうに名刺を眺めている。


「今回の田中さんの役柄のお名前は桐山冴子さんです。輸入関連の会社という事で作りましたが、細かい仕事内容は相手の話に合わせて興味を引きそうな感じに持っていってください。あとは田中さんにお任せしますので。」


DAVIDさんはそれぞれの世界のプロには相手のスキルを信じて任せてくれる。僕に対しても同じだ。そこが凄くやりがいもあるし、思っている以上の結果を出したくもなる。これももしかしたらDAVIDさんお得意のマインドコントロールなのかもしれないけど・・・。


「信頼してくださり、有難うございます。その辺は得意ですのでアドリブで切り抜けますね。」


「この名刺に書いてある仕事用の携帯電話がこちらになります。適当に雑貨関連のアプリ等も入れてあります。会社のHPもJACKが作ってますので山内さんに聞かれた際にはこちらの名刺に書いてあるアドレスをお伝え下さい。全ての問い合わせはこちらに届くようになっていますので。また、田中さんにお渡しした携帯の電話内容、メッセージアプリの文章も全てこちらでも見れるようになっていますので、悩んだ時は私の指示で返信を行ってください。」


「やっぱり、いつもそうですよね。DAVIDさんは私がここに来る時には全ての安心材料を取り揃えてくれるんですよ。JACKさんにもそうじゃないですか?」


田中さんがこちらを見て笑顔で語りかけてくれた。やはり、不思議だ。こんな時の表情で少しだけ気持ちを持っていかれる。流石は女優だ・・・。


「はい、僕もDAVIDさんの考える作戦が大好きで。本当にこちらがやり易いように指示もくださいますし、何もかもが的確なんですよね。A地点からB地点まで行くのに最短のルートを常に頭の中で描いているような感じがして、その頭の中を側で覗かせてもらっている感じがします。」


「二人共大袈裟ですよ。私自身は何の力もありませんからね。皆さんのような人達がいるからこそ安心して戦略を練れるんです。将棋で言えば、私が駒を打つ人間。でも、その人間に能力が無ければその打つ手もダメになってしまいます。だからこそ、その駒の持つ能力を最大限に使いたいんです。そして最短で勝つ方法を考える。」


やっぱりDAVIDさんの考えは面白い、確かに僕には機器に関する能力はあるかもしれないが、それを有効に使う力は無いからな。だからこそ動かしてもらった時に見える”自分の隠れた能力”を知った時に改めて楽しさを感じる事が出来る。


「田中さん、携帯のメッセージアプリにうちの連絡先も入っています。それで連絡を取り合いましょう。山内さんの詳細も送っておきます。こちらでも盗聴マイクを使って彼の音声は常にチェックしてます。彼に動きが出そうな時はご連絡しますね。」


「かしこまりました。ご期待に沿えるように今回も頑張ります!そして今回だけと言わず、いつでも呼んでもらえるようにやらないと・・・ですね!」


少しだけ少女のような表情を見せてくれた田中さんが頭を下げて相談所を後にした。


____


「JACK、今の山内さんはお金をどうやって集めているのか分かりましたかね?」


「はい、どうやら日雇いの仕事等もやっているようで、かなりハードにお金を集めているようです。夜は遅く、朝は早く出掛けるので本当にお金に困っているようですね。北原さんと会った後はほとんど日雇いでお金を貯めているようです。その間にも山内さんには高野さんからのメッセージが届いているようですが返事もあまりきちんと出来ていないようですね。確かにこの状況では高野さんも不安になるかもしれませんね。」


DAVIDさんが少しだけ俯いて考える・・・。


「了解です。一番早いやり方としては、やはり”お金”で釣る方が早いかもしれませんね。田中さんが山内さんに出資するという方向で近付けましょうかね?」


「そうですね、今はとにかくお金をどうにかしたいと思っているようです。本人は無駄なお金も使っていないようですし。あ、それと高野さんにはまだ途中までの話はしない方が良いですよね?」


「そうですね、もう少し真相が見えてこないと不確実な情報を流す事になります。慎重にかつ迅速にやりましょう。」


いつもより少し難解な相談になってきたけど、それはそれで謎が解けた時は楽しいのかもしれない・・・今回はかなり探偵色が濃いから僕的にはかなり楽しめる予感がする・・・今回の装置のアイデアが決まってきたぞ・・・。

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