第11話 捜査

高野さんから伺った彼の名前と住所、職業____。

山内 隆さん 38歳

東京都練馬区〇〇___

現在は自分で会社を作る為に会社は辞めている。以前は〇〇商事勤務。


DAVIDさんからの指示で山内さんの近況を探ってみようという事になり、僕は山内さんの家の前で待機する事に。


___時間は夕方の5時___


彼の写真も高野さんから頂いていたので何となくその外見は分かったつもりだ。

身長は170センチ弱、細身で年齢よりも若く見えるらしい。服装も普段はジーパンばかり履いているという事だった。

こんな時は片手に牛乳、そしてクリームパンを食べながら待ちたいのだが、警察のドラマそのものになり、寧ろ”変な奴がいる”とバレそうな気がしたのでペットボトルのお水と肉まんで見張りを行う事に。・・・やはりこのスタイルでする”見張り”というのはかなり気分が上がる。


___午後6時半___


高野さんから聞いていた家から山内さんらしき人が出てくる。鞄も持っているようなのでどこかに行くのかもしれないと思い、様子を見る事に。


____やはり出かけるようだ。足早に歩く山内さんを追う事に___


僕はバレないようにヘッドホンを頭に付け、音楽を聴いているふりをしながら山内さんの後ろを少し離れて歩く。そしてDAVIDさんとコンタクトを取り行動を逐一報告する事に。


(DAVIDさん、今山内さんが出掛けました。これから後を付けます。)


(了解しました。宜しくお願いしますね。)


西武新宿線の〇〇駅から電車に乗る。少し離れた所から気付かれないように様子を伺う。山内さんは電車内ではずっと携帯を触っているようだが、誰かとやり取りしているのかどうかまではこちらには分からなかった。


___そして〇〇駅で下車。


(DAVIDさん、〇〇駅で山内さんが下りました。そのまま尾行します。)


(了解しました。気付かれないように気を付けてください。)


山内さんは改札を出ると大きな交差点を渡り、静かな通りへと曲がる。曲がってからすぐの所に、よくあるコーヒーショップがあり、そのお店の中へと山内さんが入っていく。

私も続いて中に入ると店員さんに「あの席でも良いですか?」とお願いして山内さんの事を観察しやすい席へと案内してもらう。

そして珈琲を注文するとさりげなく山内さんの行動を観察する事に。

僕の付けているヘッドホンはDAVIDさんとのやり取りも出来るが、それ以外の装置能力としては近い距離の音声を拾う事が可能な超強力な集音デバイス装置完備、さらには万が一彼がお店のWIFIに繋いで携帯などを扱う際には、彼の携帯へのアクセスも相手に気付かれる事なく可能となっている。あくまでもかなり違法な行為ではあるが、僕は気付かれる事なくそれらの事が出来るくらい電子機器には長けているのだ。


(DAVIDさん、喫茶店〇〇に入りました。そのまま山内さんを観察します。山内さんがご自分の携帯をお店のWIFIに繋いだようなので、そのWIFIをジャックして音を拾うと同時に、山内さんが今見ている携帯の中身をDAVIDさんが見れるようにそちらへ送ります。)


(了解しました。いつもながら素早い行動ですね。店員さんなどにも気付かれないように。)


(大丈夫です。僕の携帯は回りからは見えない様になっていますのでご安心を。どうやら山内さんは携帯でメッセージアプリを開きましたね。誰かとコンタクトを取るのかもしれませんね。)


(こちらでも確認しました。誰かと落ち合うのかもしれませんね・・・。)


_____


(今私は喫茶店〇〇に着きました。)

山内さんが誰かにメッセージを送る。


(こちらはあともう少しで着きますので。)

その相手から返事が届く。


(相手の名前はイニシャルだけで”T”になっていますね。)


(”T”ですね・・・。)


「お待たせしました。山内さん。」


グレーのスーツに身を包んだ175センチくらいの小太りの50歳くらいの男が山内さんの席で声を掛けると、山内さんの正面の席に座る。


「あ、どうも」


(少しだけかしこまった様子で、山内さんは相手に対してなんだか緊張しているようにも見えますね。)


(うん、どういった関係なんでしょうかね?)


「用意出来ましたか?お金の方は。」


「はい、私と彼女の分とを足して30万円程用意が出来ました。」


「なるほど、仕方ないですね。残りは70万円です。」


(その”T”という男から借金をしているのでしょうかね。)


(何とも言えないですが、この二人にどういった背景があるのか気になる所ですね。)


「では、また月末までにはお金を用意してくださいね。」


そう言うと、その”T”はお金を山内さんから受け取ると立ち上がり、お店を出て行った。


(また月末と言っていた所を見ると、この場所で定期的にお金の受け渡しをしているのかもしれませんね。という事は浮気ではないという事でしょうか・・・?)


(うん、どういったいきさつでお金が流れているのか気になりますね。)

DAVIDさんも少し考えながら話しているような様子だ。


(あ、メッセージアプリで今度は違う人に連絡しているようです。相手の名前は”北原さん”になっていますね。)


____


(こんにちは、北原さん、今”T”にお金の支払いをしました。今後の事でお話出来ますか?出来ればお会いして。)


山内さんが北原さんにメッセージを送っているようだ。女性なのか男性なのか、どういった関係なのかが全て気になる所だ。


(はい、私も連絡をしようと思っていました。どちらに行けばよいですか?)


(今私は〇〇駅の例の喫茶店にいます。)


(あそこですね、分かりました。20分程で伺えるかと思います。_)


____


(北原さんとこの喫茶店で落ち合うようですね。当初の予想とは少し事情が違うのかもしれませんね。僕はてっきり山内さんが詐欺師と思っていましたので。)


(どうなんでしょうね。先ほどの”T”という男、また北原さんという方とはどんな関係なのか・・・。)


____


喫茶店の入り口から30歳くらいの清楚な女性が入ってきた。その女性は入り口から入り山内さんを見付けると軽く頭を下げて山内さんの前に座る。


(DAVIDさん、女性でしたね。やはり浮気なんでしょうかね?なんだか少しだけ複雑ですね。)


(しばらく様子を見ましょう。)


_____


(どうも、こんにちは。わざわざ有難うございます。)


(いえ、とんでもないです。)


(あ、先ほど”T”に北原さんから預かっていた15万と私の分の15万で合計30万渡しました。次の支払いが月末になります。残りの金額が70万になりました。あともう少しです。頑張りましょう。)


(なんか私のせいでご迷惑をお掛けして本当に申し訳ございませんでした。私さえしっかりしていればこんな事に。)


(とんでもないです、北原さんも被害者なんですから。私も北原さんと一緒に会社を興す為に実務の方で動くばかりで、資金面の方を全てそちらにお任せし過ぎていましたので。こちらこそ申し訳ございませんでした。)


(元はと言えば私が会社の立ち上げの話をした為に。私がTを信じなければこんな事にはならなかったので本当に申し訳なくて。山内さんも彼女さんから借りたお金もあるんですよね?)


(はい、彼女からも借りていますが、その事の詳細に関しては本人にも伝えられなくて。今はとにかくどうにかしてお金を作る方が先なので・・・。そこをスッキリさせないとどうにもなりませんから。)


_____


(DAVIDさん、どうやら浮気では無いんじゃないですか?何か二人でトラブルに巻き込まれている感じがしますよね。)


(ああ、そのようですね。山内さんも北原さんもTに騙されていたという事かもしれませんね。それで高野さんからのお金も全て取られたのでは・・・。)


でも、まだ詳細が掴めないな・・・。何故、山内さんと北原さんは”T”にお金を払わないといけないのか?あと少しです・・・というのを考えると今までも払い続けていた事になる。


(JACK、もう少し細かい内容まで知る必要がありますね。全体像として最初は山内さんが詐欺師という見方でしたが、一度すべてを考え直さないといけませんね。)


(はい、僕もそう思います。頭にある固定観念を少し消し去らないと無駄な情報が頭に入ってきてしまいますね。)


(JACK、どうにかして山内さんのバックなどにマイクを取り付けられませんか?)


(はい、僕も同じ事を考えていました。ちょっと試してみます。)


やはり、DAVIDさんも腑に落ちない感じだ。どうにかして隠しマイクを山内さんの鞄に仕込みたいけど・・・。


僕は常に持ち歩いている特殊な隠しマイクを取り出した。

何色か取り揃えてある理由は取り付ける際にその人の鞄や持ち物に色を合わせる為だ。ここでもカメレオン的なアイデアは使われている。


__黒い鞄だからこの黒い隠しカメラを・・・。


僕は椅子から立ち上がると、トイレに行くフリをしながら山内さんの席の横を通る。通り過ぎると同時に躓いてハンカチを落とす。その際に鞄に隠しマイクを取り付ける。


「あ、大丈夫ですか?」


北原さんと山内さんから声が掛かる。


「あ、スイマセン、躓いてしまい。大丈夫です。有難うございます。」


と言って、立ち上がり、そのままトイレへと向かう。


かなり古典的なやり方だったが上手く装着成功。僕はトイレに行くと、隠しマイクの音声がきちんと動作しているか確認する。


(DAVIDさん、山内さんの音声拾えてますか?)


(大丈夫です。全部聞こえていますよ。やっぱりJACKは凄いですね。)


(有難うございます。でもこれからですね。)


その後二人は暫く話をすると、お互いに又連絡しますと伝えお店を後にした。


そして山内さんはそのまま家へと戻ったのだ。














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