第9話 その後

山内さんにはこちらから用意した部屋を一週間使ってもらう事になっている。


「山内さん、どうでしたか?」


「この度は有難うございます。最初にDAVIDさんから耳元で言われた時は、瞬間的にそんな事を言うのは無理かも?と思ったんですが、もう何も怖がる事は無いんだって思い出してからは、あの二人に言うのが楽しくなってきまして。最後は勝手に叫んでました。申し訳ございません。大丈夫でしたかね?」


「はは、そうでしたね。でもそれが本心だと思いますよ。思った事をおもい切り言う事で全ての自分の中にある怒りが浄化されますから。普段からきちんとされていたからこそ出来る作戦だったと思いますよ。ご主人からも息子さんからも、言葉からは本当に申し訳なさが出ていましたので。」


元の温厚な山内さんに戻っている。僕から見ていてもこの姿の方がほっとする。あの時の山内さんの言葉を聞いていた時は、正直こっちまで怖くなったくらいだ。


「山内さん、全て上手くいって良かったです。あのタイミングで山内さんが最適な言葉を発してくれたので、僕としても良いタイミングでガラスの割れる音を出せました。本当に効果音が上手くいってくれて良かったです。」


「こちらこそ、それにしてもあの状況であんな風にガラスが割れる音がするとびっくりしますよね。あの時の二人の顔は忘れられない位楽しかったです。本当にビビっている感じで二人共私を見てビクビクしていましたし、きっと私の事を悪魔の化身だと思ったんじゃないかと思います。それにしても本当に楽しかったです。有難うございました。」


以前とは違い表情に曇りが無くなっている。

DAVIDさんの言う浄化って、本人の心自体も綺麗にしてくれるんだな。

確かに、表面的な解決じゃどうにもならないかもしれない。心から思っている不満を吐き出させる事でリセットさせているのかもしれない。

1週間後が少し楽しみだ。


「でも良かったですね。山内さんの今の表情見ていたらこちらとしてもやって良かったです。でもこれでお分かりになりましたよね?人間はギリギリの所までいかないとあのような演技は出来ません。その演技がリアルに変わった時にこそ本当に良い結果が生まれ、自分の悪いものが体から排出されていきます。だから当相談所は、悩みの末期症状の方の場所なんです。もう無理だという精神状態でこそ出来る事ってあるんですよね。」


「はい、本当にあんな言葉を今まで使った事が無かったんですが・・・おもい切り言ってみるとスッキリするんですねー。本当に二人の顔目掛けて叫んでいる時は最高に楽しかったです。いつも私は二人に同じような感じで怯えた顔を見せていたんだろうなって。確かにあんな顔していたら相手ももっと、いたぶりたくなるかもしれませんね。実際私も叫んでみて感じました。そしてもっともっと言ってやろうって思っちゃったので、結局はあの二人がしていた事を体験した訳ですが、やっぱり普通に楽しく過ごせる事が私の願いなんだって思いました。」


ちゃんとあの中から相手の感情の原因も導き出している。

そうか、DAVIDさんのやり方は単なる復讐ではなく、その中でも山内さんが直した方が良い所を鏡のように見せていたのかもしれないな。


「どちらにしても良かったです。」


_____


1週間が経ち、山内さんは家に戻り、暫くして僕にメッセージが送られてきた。


(JACKさん、今まで有難うございました。帰ったら家が見違える位綺麗に掃除もされていて、二人でご飯を作って私の事を待っていてくれました。あまり美味しくはありませんでしたが(笑)気持ちのこもった料理でした。改めて二人共今までの言動なども謝ってくれて思わず泣いちゃいました。本当にお二人には感謝してもしきれません。また昔のように幸せな家族になれるような気がします。DAVIDさんにも宜しくお伝えください。本当に有難うございました。 山内恭子)


「DAVIDさん、山内さんからこちらのメッセージが届きました。」


携帯をDAVIDさんに渡すと静かにメッセージを読み始めた。

その表情からふっと見せた笑顔が、なんとなく僕の心に刻まれていく感じがした・・・。

やっぱりDAVIDさんは奥深い人だよな。だからこの仕事はやめられない。


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