第8話 作戦遂行
そろそろ息子さんが家に帰ってきても良さそうだな。
時間は夜の8時を回っていた。
装置を設置してから長い時間ここで待機している。その間も山内さんは緊張しているのかな?とJACKと話しながらその時を待つ。
「DAVIDさん、あれ息子さんじゃないでしょうか?」
「ああ、そのようだね。」
(山内さん、息子さんが戻って来たようです。最初はいつものように接していてください。とにかく普通に。宜しくお願いします。)
(はい、かしこまりました。)
(ガチャ)
玄関ドアが開いた音がこちらにも聞こえてくる。息子さんが家に入ったぞ・・・。
(お帰り、翔太。)
(・・・。)
なるほど、母親の言葉には無視か・・・。
(翔太、ご飯は食べるかい?)
(うるせーな、俺は食いたい時に食うんだよ!)
息子さんが階段を上り自分の部屋へと入っていくのが聞こえる。
(バタン!!)
(山内さん、息子さんはいつもあんな感じなんですか?)
DAVIDさんが山内さんに問いかける。
(はい、そうです。でもご飯を食べる時は・・・、もっと凄い時もありますけど。)
なるほど。親を何だと思っているのか?何でも言う事を聞く召使いとでも思っているのかもしれないな?全く何様なんだ。自分の力で飯もろくに食えない人間が・・・。
___俺のやり方もこれで決まった。とことんやってやろう。
(山内さん、後戻りは出来ませんけど覚悟はよろしいですね?)
(はい、勿論大丈夫です。もう何も恐れはしません。)
___
階段を下りてくる音と共に息子さんがリビングに入ってくる。
それと同時に山内さんに罵声を浴びせている息子。
(腹減ったー!飯だ、飯!俺は腹が減ってるんだ!早くしろ!ばばあ!!)
___そろそろいきましょうかね?JACK。
準備は出来ています。思い切りやりましょう・・・。
(山内さん、それでは今から私が言う事を自分の言葉として息子さんに言ってください。宜しくお願い致します。)
DAVIDさんが山内さんに言葉を伝え始めた。いよいよ山内さんの女優業が始まる・・・。
(・・・・・・)
DAVIDさんが話し終わると直ぐにスイッチが入ったかのように山内さんが息子さんに怒鳴り始める。
「ずーっと我慢して聞いていれば好き勝手言いたい事を言いやがって!ふざけんじゃねーぞ!このクソガキー!てめえのご飯くらいてめえで何とかしろ!なんで私があんたの為に温めないといけないんだよ!!ふざけんのもいい加減にしろ!お前なんか私がいないと何も出来ないだろうが!!自分の事は自分でしてくださーい!」
「え、ちょ・・ちょっと、どういう事だよ!何、俺に逆らっているんだよ!」
息子も初めはびっくりしているようだが、狼狽えながらも強気に山内さんを責め立てようとしている。・・・まだまだこれからだよ。お母さんが変貌するのは。
DAVIDさんの横顔が凄く楽しそうだ。こんな顔もするんだ・・・。
(・・・・。)
DAVIDさんが更に山内さんへと言葉を伝える。
「はあ?逆らっている?っていうかお前何か出来るの?お金稼げるのか?どうなんだよ!親の金で生活しているくせに。お前が親になった時、同じように子供に言われたらどうなんだよ!全部言いなりになるのか???教えてごらんよ!お前も子供の言いなりになるなら私もなってやっても構わないけどね。どうせ無理だろ?口答えするなーとか言うんじゃないの?」
「いや、俺は・・・言いなりには・・・。」
息子さんの言葉の力が弱くなってきている____。
「自分が親になったら子供にはさせないけど自分なら良いんだ!ははは、それは面白いね。どれだけ自分はガキなのか。威張っているのがカッコいいとでも思っているのかね?寧ろカッコ悪い事だよねー。親に威張って。最低だねー。まあ、そこまで威張るんだから自分で何でも出来るんだろうねー。これからは、もうあんたにご飯も作る事も無いし。私はもうこんな家出て行くから好き勝手やってくださいね。」
「え?ど、どうしたの?急に・・・??それは極端だろ??出て行くなん・・て。」
息子さんの動揺が大きくなってきた。そりゃそうだろう。今までに見た事の無い母親の姿を目の当たりにしているんだからな。でも、これじゃ終わらないよ・・・。
さあ、もう一押しだ。
(・・・。)
DAVIDさんがさらに楽しそうに言葉を投げかける。
「今まで黙ってあんたの言う事を聞いてるフリをしてやったんだよ!あまりにもお前が愚かな人間だからね。どうせ学校じゃ強い奴には逆らえないんだろ?お前みたいのが親とか自分よりも弱そうな奴にだけ威張るんだよねー。あーカッコ悪い。私の息子だったらそんなカッコ悪くないはずだから、多分あんたは息子じゃないんだって私も気付いたんだよ。大体、自分じゃご飯も作れないクソガキのくせして、よくぞ威張れたもんだな!こんな家、こっちから出て行ってやるさ!お前とアホなくそオヤジで楽しく過ごせばいいさ!!二人で楽しく仲良くやればいいんじゃないの?」
「え?どうしたの・・・母さんん。やっぱり今日はちょっとおかしいよ・・・。」
そんな時、ご主人が家に戻って来た。
(山内さん、ご主人も戻ってきました。そのままお願いします。)
「ただいま。あれご飯の用意はまだなのか?何やってるんだ、早く用意をしてくれ。明日も俺は朝が早いんだ。」
「と、父さん、ちょっと今日は母さんが・・・。」
「はあ?何言ってんだ。お前は。」
(・・・。)
DAVIDさんの言葉が更に襲い掛かる。
「お前もお前だよ!こっちが息子の事で色々と頼んでも何にもしないくせに何がご飯の用意だ?!子育ては女だけの仕事じゃねーんだよ!お前ら似たもん同士で楽しくやればいいさ。私はあんた達の召使いでも何でもねーんだよ!!分かったか!寧ろアンタラより能力の高い人間なんだよ。何でも言えばこっちが動くと思っているのかもしれないけど笑わせるな!ここから先の私の人生にはあんた達と一緒に描ける事は何も無いんだよ!」
「お、おい母さん、どういう事なんだ?これは??冗談だよね?ちょっと・・・。」
「母さん?誰があんたの母さん?いつから私はあんたの母親になったんだろうね?私にも名前があるんだよ!二人して私の事を母さんとか呼ぶんじゃねーよ!お前ら糞共二人でこれからは生きてくんだな!どいつもこいつもお前らだけじゃ何も出来ないくせに威張りやがって!!」
「え?翔太・・・母さんはずっとこんな・・・なのか?」
「ああ、さっき俺がご飯を頼んでから・・・。」
(・・・・。)
DAVIDさんは手を緩めない・・・。
「ご飯を頼んだ???頼んでないだろ?ああいうのは頼んだとは言わないんだよ。”命令”って言うんだよ。違うか??早く用意しろ!って言ったんじゃないの?さっきの言い方は?違うのか?どうなんだよ!ほら、もう一度言ってごらーん。」
「いや、あの・・・その・・・。」
「母さん、ちょっと落ち着こう。ちゃんと整理して話せば・・・。」
「だからお前の母さんじゃねーって言ってんだろー!お前馬鹿か?日本語分からないのか???いくつなんだよ?」
凄い!山内さんが勝手にアドリブを入れ始めたぞ。DAVIDさんもこれを待っていたに違いない。
「す、すいません。恭子さん・・・。あの冷静にお話ししませんか?」
「そ、そうだよ、母さんちょっと疲れているんじゃないかな?きっとそうだよ。」
形勢逆転だ・・・。すごい、やっぱりDAVIDさんのやる事は桁違いだ。面白過ぎる。
(・・・・。)
「私が疲れてる??確かに、お前ら良ーく分かったな!馬鹿でも分かるんだな。お前らの顔を見るのに”つ・か・れ・た・の” そういう事。だからあんたらは二人で仲良くこれからは暮らせばいい。私はこの家を出て一人で楽しく暮らすから。」
「ま、待ってくれ。お願いだ!何とか話し合おう。恭子さんの言う事を聞くから。な、お願いだ。思い留まってくれないか?今までの事はこの通り、謝りますので許してください!」
ご主人が頭を下げているようだな・・・。
「そ、そうだよ。母さん、俺も協力出来る事はちゃんとしますから。本当に申し訳ございません。今からの僕を見ていてください!」
DAVIDさんが言葉を伝えようとした時、山内さんが自分で動き始める___。
「都合の良い事言ってるんじゃねーよ!!」
出た!本当の山内さんの心からの叫びだ!
相当心が疲れていたんだな・・・。
___でも、僕はこのタイミングを逃さなかった。
(ガシャン!!!パリーン!!!)
と、物凄い音が家の中から鳴り響く。
「え?どうした!!ガラスが割れたのか??」
「なんなんだ!え??」
(ガシャ!バリーン!)
色んな物が割れた音がさらに続き、リビング内を恐怖で包み込む。
「いや、父さん、可笑しい、ガラスも何も割れてないよ!これってホラー映画によくある”ラップ現象”じゃないかな・・・?」
「え?この音が??ラップ現象・・・?」
「何も割れていないのに凄い音が家中に鳴り響いているよ・・・。」
「ま、まさかこれは・・・恭子さんの怒りによるものなのか・・・?」
(JACK、面白い事やるね。流石だ。ラップ現象とはよく考えたもんだね。)
(DAVIDさん、有難うございます。どうしてもこれを入れたかったんですよね。)
「恭子さん!申し訳なかった。この通りだ。ちゃんと話し合ってこれからはもっと協力的に致します!!な、翔太もそうだろ!」
「ああ、もちろん!俺も・・・いや僕もちゃんとします!お願いします。その怒りを鎮めてください!」
(・・・。)
DAVIDさんが山内さんに伝える。
「何をどうするって言うんだ??言ってみろ!」
「はい、まずは掃除洗濯なども協力してやります!ごみ捨てでも何でも仰って下さい!」
「僕も今までの言葉使いなど改めます。ご飯も自分で作れるようになります。生まれ変わります。お願いです、信じて下さい!お母さん。どうか怒りを鎮めてもらえませんか?」
(・・・。)
「良いだろう。とりあえず私は一週間家を出る。戻ってきた時にこの家が以前とは違うと分かったら戻ってきてやろう。それでいいな!!!??文句あるか?」
「いえ!とんでもありません!文句など何もありません!はい、恭子さん、どうぞよろしくお願いします!」
そして息子からも、
「もちろん、お母さん、文句ありません。変わった姿をお見せしますので。」
___作戦完了___
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