第5話 戦略 ~対 夫&息子

「では山内さん、今からお話しする事を頭に入れて頂きながらイメージして役作りをしていってください。」


「はい・・・、頑張ります。」


さあ、DAVIDさんが山内さんの頭の中に”花火”を仕込む時が来た。

まだ山内さんの顔からは不安が抜けていない・・・楽しみだな。


「それでは、作戦の一つとして、山内さんは生活に疲れて頭が少しおかしくなってきた人物になりきってください。まずはそこからです。精神的に参っている状況の人間に対して、ご主人も息子さんも文句を言う所か、”やばい、どうしよう!!こんなにも追い詰めていたんだ!”という状況になります。今迄山内さんが頑張ってきたからこそ通じる対策なんです。だからこそ、二人が信じるくらいの憑依したような演技でお願いします。そうです、あなたの内なるものを解放しちゃいましょう。」


「DAVIDさん、僕も考え付いた事がありますがお話しても良いでしょうか?新しいデバイスを思い付いたんです。」


「勿論、その時を待ってましたよ。JACKのアイデアを。」


DAVIDさんが軽く笑みを浮かべながらこちらを見て頷いてくれる。


「山内さんの耳の後ろに、JACK特製のフェイクスキンでコーティングしたマイクを貼り付けます。周りから見ても肌と同化している為に、誰が見てもそれがマイクだなんて分からない様に作り上げます。そして、山内さんの家にいくつかの超小型スピーカーマイクを仕込みます。そこのスピーカーから話している声も聞く事は出来ますが、どちらかというと、こちらから音が出せるようにしたいというのが肝です。ちょっと面白いアイデアが浮かびましたので。」


「なるほど、その辺はJACKのアイデアなら間違いないだろうね。ちなみに山内さん、彼は当相談所の最高の技術者であり、私が考えた対策を最高の所まで引き上げてくれる装置を作ってくれますのでご安心を。」


僕の方を見ていた山内さんが大きく頭を縦に振る。


「あ、はい、勿論お任せします!なんだか私も楽しくなってきました!今までの不安が馬鹿らしくなってきたというか・・・なんでもやれば良いんだって思えるようになってきました。悩んでいた自分が・・・アホらしくなってきました。」


山内さんの表情から少し柔らかさが出てきたような気がした。


「そうなんですよ。悩むなんて嫌ですよね。たった一度の人生ですよ。それをご主人や息子さんだからって壊していいわけが無いんです。山内さんの人生は貴女だけのものなんです。勿論、ご主人や息子さんの人生もお二人だけのものなんです。だから、はっきり言うと、家族だから、血が繋がっているからって事だけで分かり合える訳が無いんですよ。親子でも”別人格”と思わないと人生やってられません。多分、山内さんは真面目だから自分が息子の為にどうにかしないといけないんだ!って使命感で動いていたんだと思いますよ。でも、そもそもある程度成長した子供なんてそこまで親をあてにしていないんです。”だから放っておく”って事も重要なんですよ。それが出来なかったから今の悩みがあるんだと思います。厳しく言うと、今の息子さんは、今までの山内さんの行動によって生まれたという事も事実なんですよ。なので一度何事も恐れず・・・。リセットしましょう。」


ハッとした表情の山内さんが現れた。自分の今までしてきた事を思い出したのだろう。多分、”こんなにしてあげたのに何で息子は分かってくれないの?”という思いを。でも、”してあげたのに”と思う事がそもそも間違いだったと気付くはずだ。

相手にしてあげる事の全ては無償でないといけない。

”してあげた”という気持ちには”見返り”を期待しているからだ。

だからこそ、自分自身も変わらないといけない。何かをしたい時には勝手にすればいい。そうでなければ恩着せがましく子供にする必要もないのだから。

それが分かってからの前進は明るいものとなって戻ってくる。それをDAVIDさんは伝えたいのだろう。そしてDAVIDさんが話を続けた___。


「何故、女子は結婚をして子供が出来ると、マインドが移行していくのか?それは、結婚する前は女性の皆さん全員が、自分を中心として幸せの形を思い描いているんですよ。女性としての幸せを。でも、妻となり、母となる事で勝手に自分が想像している形からずれていき”こうでなきゃいけない”と、勝手に頭の中で作り上げた”別の者”になろうとしてしまう。山内さんも結婚して子供が出来て、それで自分の人生が終わった訳じゃないんです。ご主人やお子さんのように、まだやりたい事ありますよね?お子さんがもしかしたら、”うるせえよ”とか、”俺の人生に口出しすんじゃねえよ”と言ってきたら、山内さんも同じように言えば良いだけなんですよ!”お前の人生口出ししないからご飯も勝手に作れ!”って。1つきちんと思い出してください。皆さん誰もが平等なんです。上も下もありません。だからこそ、妻になったからと言って自分の人生の目標を捨てる必要もないし、勝手に良い妻である事も、良い母でなくてはいけない!なんて思う必要も無いんですよ。山内さんが考えている以上に人間は勝手に育ちます。」


DAVIDさんなりの解釈が始まった。これにより相談者はどんどんとDAVIDさんの言っている事が当たり前のように感じてくる。そして私は今まで何をしていたんだろうって目を覚ます___。そして”花火に火がつけられる”


「確かに、気付かないうちに良い妻であり、母である事が全てだと思っていました。」


「でも、その良い母でいても相手はそれを受け入れているんでしょうか?認めているんでしょうか?」


「いえ、逆にうざったいと言われますし、会話を避けられるようになってきました。そうこうしているうちに、自分がどうしたらいいか・・・全然分からなくなってきて・・・。」


「ですよね。ならば良い母がうざったいと言われるなら、その逆のうざったい母になるのも良いのでは?」


「うざったい母に・・・?確かにそうですね、息子に色々言われていても、自分が正しいと思ってやっている事を拒否されているなら、最初からうざったい母になった方が楽かもしれない・・・。」


山内さんの顔から影が消えてくる・・・。


「そうなんですよ。その言葉通りにすれば良いだけなんです。私は母親なんだからこうならないと!とかそんなのどうでも良いんですよ。その事自体が山内さんにとって不健全なんですよ。勝手にその言葉で自分を縛っていたんです。だって、今の山内さんの姿って、偽物ですよね?本来の山内さんですか?」


DAVIDさん得意の”本来の自分を思い出させる”事が始まった___。


「いえ、そう言えば、昔の私はこんなんじゃ無かったかもしれません。どちらかというと明るくていつも笑っていました・・・。毎日が楽しくて、不安という気持ちこそあまり抱いていなかったかもしれません・・・。」


「やっぱりそうですよね。きちっとした山内さんの事をうるせーな!とか言う息子ならば、今までの家庭内での山内さんの姿は捨ててみるのも良いのでは?くだらないですよね。そんな事まで子供に言われるなんて。だったら逆に息子に言えるくらいの事をしてみましょうよ。」


「え?逆に・・・ですか?私が・・・。はい!やりたいです!!なんだかギャフンと言わせたいです!!そんな方法考えてもいませんでした。」


「それはそうですよ。山内さんは家庭内では嫌われたくなくていい妻、母親を演じていたんですから。息子さんにもご主人にも良い顔をしていたんですよね。それを否定されたんですから。今度は彼らの行いを否定してみましょう。どうですか?こっから先はもう戻れませんよ。」


「はい、是非お願いします!もうどうでも良いです!スカッとしたい気分です!」


__とうとう花火が上がった___俺の出番だ・・・。


「それでは、今後は僕の装置が出来次第ご連絡します。とりあえずは今まで通りお過ごしください。多分、同じ状況でもあまり気にならなくなってきますよ。ご主人の事も息子さんの事も。すでに山内さんの顔がそれを証明しています。それくらい、DAVIDさんの言葉は説得力もありますし、又これから一緒に行う事はかなり面白いゲームになるので。一緒に笑顔で楽しみましょう。山内さんが楽しかった学生時代のように。」


「はい、JACKさんも宜しくお願い致します!DAVIDさん有難うございます!」


その後、来た時とは別人のように変わった表情で山内さんは帰っていった。


___そして、二人でこれからの戦略を練る事になる。


「DAVIDさん、面白そうですね。やっぱりDAVIDさんのマインドコントロールは相手を元気にしますね。」


「ああ、JACKも楽しみながらやろう。そうじゃないと、山内さんが迷うからな。そうならないように私達で道をきちんと示していこう。」


花火は打ち上げられた。今度はその打ち上げ花火の鑑賞を山内さんがする番だ。

きっと綺麗な花火を見れる事になるだろう・・・。




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