第4話 First request

「JACK、依頼の相談が届いたよ。今日、その方が来るから君もしっかりと悩みを聞くんだ。いいね?」


「DAVIDさん、了解しました。僕なりにその相談を聞きながら、 僕に出来そうなアイデアを考えてみます。」


___


地下一階に下りてくる足音が聞こえてくる。


(ギーッ)


木製の扉が開くと同時に声を出す女性。


「あの、初めまして。山内・・・山内恭子と言います。依頼の相談でご連絡していた者です。」


疲れ果てた感じに見える表情からは切羽詰まった感情が現れている。


「初めまして、私が所長のDAVIDで、こちらがアシスタントのJACKです。どうぞ宜しくお願い致します。どうぞ、ソファに腰を下ろしてください。」


軽く会釈する動作からは本人の持っている生気が失われつつあった。


「では、こちらにある紙に出来る限りで良いのですが、書けるだけ山内さんの情報と、お悩みをお書きください。それを参考にして相談を行っていきます。また、こちらで話した全てが守秘義務となりますので同意される場合は一番下の欄に署名をお願い致します。」


「あ、はい。かしこまりました。」


そう彼女は言うと、黙々とその書類に書き始める。

その間も二人の視線は彼女の所作をずっと見ていた。

何処に彼女の悩みが現れるかも分からないからだ。

その手、体、唇、髪の毛の艶、全てに現れるストレスの症状。


暫くすると山内さんは書類を書き終え、こちらにその紙を手渡してくれた。

私たち二人でその書類に目を通す。


_____


山内恭子  48歳。

住所〇〇〇_____

電話〇〇___

家族構成 夫 息子1人(高校2年)


■本日の相談内容


実は夫は仕事で忙しく普段は遅くまで帰ってきません。その為、息子と二人で過ごす時間が長くなってきました。中学入学以降段々と口が悪くなり、口答えも多くなってきました。それを夫に話しても思春期じゃないか?という言葉で済ますだけで特に息子と向き合って対処する事も無く日々が過ぎていきました。

高校生になってからは私の事もババアと読んだり、無視したり、とにかく私の手に負えない状況となりました。

最近ではたまにですが、暴力っていう程の強い力ではありませんが、私の事を叩いてきたりするようにもなりました。

このままだとどうなるのか不安になり始めましたが、夫もその事には向き合ってくれず、家庭での事はお前に任せているだろと言われ、今はどうしたらいいのか自分でも何も分からない状況になってしまいました。

長い間息子と意思疎通が出来ない事で、血は通っていますが・・・子供として愛しているのか?と言われると、それすらも分からなくなったきています。

何かアドバイスを頂けたらと。どうぞ宜しくお願い致します。


______


「山内さん、どうも。大体の大まかな事は分かりました。良くある事ですね。ただ、当相談所は知っての通り、もうどうにもならないという段階で来る場所だという事はご存じですかね・・・。他の相談所も行きましたか?」


DAVIDが淡々と山内さんに尋ねる。


「はい、実は二件ほど伺い相談してきましたが、どこも今の時期を超えれば段々と息子さんも優しくなりますよ、みたいな感じで。なのでこちらの噂を聞いてお願いしようと思いました。正直、私自身がこれからの事で不安で眠れなくて、それでも頑張らないといけないのかと思うと辛くて。もうこんな感じだったら逃げ出したいと思い始めるようになってきて・・・。そんな時にこちらの相談所の事を・・・。勿論、お話した事も口外しませんし、最後の場所と思って伺った次第です。」


相当悩んでいるな・・・JACK自身も山内さんの話し方を見ていて感じていた。

表情、身振りから見てもかなり精神的にやられているのが分かった。

なかなかママ友に相談出来る事でもないのかもしれないし、この山内さん自身が性格的に友達や誰かを頼れないのかもしれないな。

するとDAVIDさんが静かに質問し始めた。


「山内さん。うちには三つの相談コースがあります。

1 GENTLYコース (優しく)

2 NORMALコース (普通に)

3 DESTRUCTIVELYコース (破壊的に)☆当社おすすめ

そして、山内さんが今の状況を抜けるにはこの3番めのDESTRUCTIVELYコース (破壊的に)しかありませんが、そこには同意可能でしょうか?可能であればこのお話お受けいたしますがいかがですか?」


結局はこのコースしか行っていないのだが、こういうDAVIDさんの話し方により皆さんが自然とこれを選ぶしか自分は救われないんだと感じる。

狂気に満ちて、不安定になっている人にはこのDAVIDさんのような静かな物言いが一番安心するからだ。


「はい、覚悟は出来てます。もう家を飛び出しても・・・、最悪死にたいと思った事もあります。なんだか楽になりたいと思う事が増えました。なので最後の扉として思い切りの案をお伺いしたくて。それでダメなら自分自身を諦めるしかないと思っている位、気持ちの面ではギリギリなんです。」


「了解しました。ではJACK!例の書類にもサインをもらってください。」


「はい、DAVIDさん。」


そして、JACKが別の書類を取り出すと、山内さんの前にその紙を置く。


「これが、今回の相談依頼の申し込み書兼守秘義務書類です。こちらを読んでサインをお願いします。」


_____


当相談所(甲)「女・闇相談所 (お悩み相談所) ★DAVID★ 」と○○(乙)は、以下について合意したものとする。

また、この合意以降(乙)は全ての執行業務に対して異議を唱えない事を誓います。

最終的な結果がどうあれ、(乙)からの相談に対して実行する事が大切な事であり、どのような結末を迎えるかという事はお約束は致してません。

ただし、業務を行う為に最も必要な事は(乙)の感情の解放であります。

この解放なくして成功は有り得ません。何も怖がる事無く、当相談所の指示に従い(乙)は行動をする事を誓います。

全ての事が終わり次第、お支払いをして頂きますが、それは(乙)の満足度に関係なく支払い義務が生じます。


〇 年 〇 月 〇 日 署名(乙)______________印__

  

         (甲)「女・闇相談所 (お悩み相談所) ★DAVID★ 」  


__________


山内さんのサインが終わり、DAVIDが話し始める。


「それでは今から、大体の家族関係から推測される家族の形を私なりにまとめます。

何かあれば随時、お知らせください。それと、行動に移す前に山内さんの頭の中に少しだけマインドコントロールをさせて頂きます。別に怖がらなくて大丈夫です。私が話すだけで多分、気持ちが引っ張られていく方向が見付かりますのでそのまま身をゆだねてその方向へと精神を向かわせてください。とにかくリラックスして聞いていてください。」


「あ、はい。分かりました。もう何も怖くはありません。気持ちの整理はついていますので宜しくお願い致します。」


「では、話しますね。まず、山内さん、そもそもあなたは何者ですか?女性、妻、母、それとも一人の人間ですか?」


「え?・・・そう言われると・・・答えが分かりません。母としての悩みと思っていましたし、妻として夫には相談していましたが、そこでも何も解決は出来ませんでした。」


「そうなんですよ。この質問は簡単に答えられるようで答えられない質問なんです。一体、自分は何者なんだろう?って思った事ありませんか?」


「はい、あります。自分の存在って、夫にとっても息子にとっても何なのかなって?」


「ですよね。こうやって順序立てていくと、山内さんの悩みが段々と明確に見えてきます。それが分からないから自分でもどうしたらいいかが分からなくなるんです。」


「はい、確かに・・・そうでした。」


「では、家族で一番偉いのは誰ですか?」


「え?偉いですか・・・。夫が働いてるのでなんとなく私が夫の言う事を聞いている感じになりますが、息子は偉いとかそういうのではなく、子供ですよね・・・。」


「なるほど、では、山内さんは自分でも働いてお金を稼ぐ事が出来るとお思いですか?」


「はい、結婚する前は働いていたので出来ると思います。いや、出来ます。」


DAVIDさんが段々と話していくうちに山内さんの殻を割り始めてるぞ。

___JACKが事の成り行きを一緒に考えながら聞いている。


「では、ご主人は今、山内さんがしている家事などを出来ると思いますか?あるいは息子さんが出来ると思いますか?」


「いえ、それは出来ないと思います。夫は結婚するまでは実家に住んでいましたし、息子に至っては、私が子供だからやってあげなければ、という気持ちでしていましたので。」


面白くなってきたな。DAVIDさん、今回は簡単にこじ開けてますねー・・・。


「なるほど、では簡単ですよ。ご家庭で一番全てにおいて何でも出来る人は、山内さん、あなたです。あなたが一番偉いんですよ。野球で言えば、二刀流みたいなもんですよね。働けるし、家事も出来るし。ご主人はバッターだけですね。息子さんに関してみれば何も出来ませんね。暴力と口答えしか。となると、球拾いも出来ていない状況なんですよ、息子さんは。結果は簡単です。山内さん、あなたが一番ご家族の中で偉くて威張って良いんですよ。だって、今一人きりになっても生きていけるのは山内さんだけですよね?寧ろ、一人になった方が自分の事だけをすればいいので楽じゃないですか?違いますか?」


「え?私が・・・。確かに、一人でも生きていけます。働けるし、家事も全部出来ます。一人の方がどれだけ楽だろうってたまに思います。」


詰めてきましたね。DAVIDさん。心の持って行く方向は見えていたって事ですよね。やっぱり見ていてDAVIDさんのマインドコントロールは楽しい。


「では逆に、山内さんが家を出て行ったらどうなります?残されたご主人と息子さんは生活をきちんと出来ると思いますか?」


「いえ、出来ないと思います。食事は総菜など、お弁当を買って食べるようになると思います。夫はお伝えした通り、帰ってくるのも遅いので、息子とのコミュニケーションも取れないと思います。二人とも、洗濯や掃除が出来なくて家の中は汚くなると思います。」


「ほら、どうですか?山内さん。今の話の中で困っているのは誰ですか?」


「え?夫と、息子で・・・すか?」


「その通りなんです。男の私が言うのも変ですが、全ては男の方が”妻”、”母”、としての役割を持つあなたに甘えてるだけなんです。だからそもそも山内さんがその二人の事で悩むのは可笑しな事なんですよ。だって、もうギリギリだって思っているんですよね。」


「はい、精神的にギリギリになっていました。」


さあ、始まるぞ、DAVIDさんの復讐的なアドバイスが・・・。


「では思い切りやっちゃいましょうか?山内さんがどれだけ必要かを分からせる為に。その為には山内さん自身がスーパー女優のような演技もしなくてはいけませんが、ギリギリまで来ている方なら皆さん出来ますので安心してください。そして今まで山内さんが悩み苦しんだ分、ご主人と息子さんには同じ思いを味わってもらいましょう。その時に初めて、山内さんの大切さを心底感じる事だと思いますよ。人生は綺麗事じゃつまらないんです。仕返しも必要ですし、それこそが山内さん自身を解放しますから・・・。あなたの今までのお気持ち、浄化して見せましょう。」



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