幕間 相談室にて

「わたし、褒められなかったわけではないんです。愛されていたって思います。

 ただ、お友達とそのお母さんが一緒にいるとき、母は「詩織ちゃんは凄いですねえ、それに引き換え――」って言うんです。

 もちろん、分かっています。自分の娘を人前で褒めるなんて、そんなのは変だからだって。

 それでも、そういう心にちくって刺さる一言が、どんどん蓄積していって……」


 クリーム色の部屋には立派な木製のローテーブルがあり、その両隣には二人掛けのソファーが置かれている。

 一ノ瀬波奈はローテーブルの木目を眺めながら話す。


 正面には人の好さそうな女性が同じように腰かけている。バインダーに時折何かを書き込みながら、彼女は相槌をうつ。


「悲しかった?」

 目の前の女性は穂波さん。

 波奈が通っている通信制高校に所属するスクールカウンセラーだ。週に何回かある登校日のあとに、こうやって話を聞いてもらっている。

 

「……はい。それで、幼馴染の詩織に劣等感を持つようになりました。何を頑張っても結局のところ、わたしはダメな子なんじゃないかって」


「そう。お母さんとは、最近はお話してる?」

「いえ。あまり……些細なことで口論になっちゃって。お互いに傷つくだけなので」

「そう」


 穂波さんは実のところ、あまり有益な話をしてくれるわけではなかった。けれど、まとまりのない話を、ただ聞いてくれる存在はありがたかった。

 自分のことを心配してくれる人、思い浮かぶ顔はいくつかある。けれど、今は相談しても互いに毒になるだけだ、と波奈は思っていた。


「わたし、完璧になるより、誰かに劣等感や八つ当たりをせずに、もっと肩の力を抜いて生きたいんです。もう、同じことは繰り返したくない……」


 彼に対する罪悪感で波奈は顔をしかめた。

 会えない。少なくとも、今はまだ。

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