連邦少女

みつくい

邂逅

 五月九日、クーラーが壊れた講義室の端で、一人の女子学生が黒板の内容を全てノートに書き写していた。茶色で短い髪は外からの日光を吸収し、熱がこもっていた。教授の言葉を一言一句逃さず聞き取り、表紙の文字がすり減り始めた大学ノートに書き留めた。その講義室で授業を聞いている生徒は二〇人程度。大半が半袖を着用し扇風機片手に虚ろな目で授業を受けているのに対して、この学生だけが手首まで届くシャツを着て授業を受けていた。

 名を深田沙織、帝都大学文学部ロシア文学科でロシア史とロシア語を学び、露の文化と歴史をこよなく愛する左翼の少女である。普段から優等生の雰囲気を出しているが、オープンキャンパスで大学に訪れた学生を左翼に勧誘する狂人としてその名を轟かせている。

 他の生徒が教科書を盾に動画視聴やゲームをする中、彼女は大好きなロシア史を聞き、妄想の世界に浸りながら授業に励んでいた。

「これによりロマノフ王朝は消滅。じゃあ課題として、来週のこの時間までにロマノフ王朝とソビエト連邦を比較して文化の変容を二〇〇〇字内でまとめてくること」

 ロシアに精通している相田教授が課題を出すと、生徒たちは机の上に突っ伏した。

「なあ深田、今日のノート取った?」

「もちろん、あなたは睡眠学習してたから見せなくても大丈夫よね?」

「そこをなんとか」

 隣に座っていた吉田が両手を合わせて腰を曲げた。彼曰く、深田のノートは非常に分かりやすくまとめられており、そこらの参考書より遥かに役に立つという。どうしても引き下がろうとしない吉田を前に、深田は渋々と「ロマノフまとめ上」と書かれたノートを貸し出した。

「明日まで、それ以降は延滞料金が発生。もちろん烏金」

「ありがと、明日の古典に返すから」

 深田は吉田の肩を引っ張り、できる限り怖く見えるよう睨みつけた。こうでもしないと彼は返すのを忘れる。

 終業のベルが鳴ると、各々が席を立ち雑談を始めた。ロマノフ王朝時代を網羅してある「ロマノフまとめ中・下」のノートを閉じると深田も同じく席を立った。


 講義室を飛び出すと化粧室に入り、誰もいないことを確かめると金属製の扉を閉めた。洗面台に両手を置くと鏡の中の自分と目が合った。

「またか」と、心の中で呟いた。鏡の中にもう一人の自分がいるような気がしてならない。深田はこのようにすぐ近くからもう一人の自分に観察されているような気分にしょっちゅう陥った。

 蛇口を回し冷たい水で顔を洗うと、先の感覚は跡形もなく消え去った。

 扉を開け、また講義室に戻った。誰もいない講義室の椅子に置かれた自分の荷物を見て、盗まれたものが無いかを確認し始めた。財布と定期券、ノートと教科書。ふとノートの一つが足りないことに気づいた。

「ソ連史がないっ」

 机の上に出してあった持ち物を全てしまい、大切なノートの行方を探した。そもそも深田のノートを他の誰かが間違えて持っていくはずが無い。赤色の表紙に黄色のサインペンで「ソ連史」と書かれた百枚近い厚さのノートを一体誰が盗むのだろうか。それだけではない。最初のページからレーニンの肖像画が糊付けされ、最後のページにはキリル文字で「ソビエト連邦万歳!」と書かれており、少し見ただけでも異常さを感じられるノートなのだ。

 風の如く走り、購買食堂カフェを通過し、数量限定のカレーパンとフルーツ牛乳を片手に走った。心当たりのある場所は全て探したがいずれにも無かった。何の手がかりも得られないまま講義室に戻った。カバンが置いてある椅子の隣に腰掛け、携帯電話を開き教授に電話をかけ始めた。

「相田教授」

「深田か、何の用だ?」

「私のソ連史ノートがどこにあるかわかりますか」

「あの赤いノート?一回教室出たあとまた戻って取りに来てただろ?」

「えっ」思わず立ち上がり、同時に素っ頓狂な声が出た。確かに深田は顔を洗うために一度化粧室に向かった。だが戻ってきた時、講義室には人一人いなかった。深田はすかさず聞き返した。

「そんなはずはないです、だって私はあの後化粧室に行って───その、本当に取っていったのは私ですか?」

「間違いなく深田だったぞ。寝ぼけてたんじゃないのか」

「わかりました」

 そう言うと深田は携帯電話を下ろし、事の顛末を考察した。

「まさか!いやでもそんなはずは、とりあえず落ち着け私」

 講義室の椅子に再び腰をかけると水筒を取り出した。蓋を開けると麦茶の水滴がスカートに滴った。気にせずに水筒を傾けた時、麦茶が地面に零れた。深田は講義室の扉に立っていた人を見ると言葉を失い、水筒を投げて飛び出した。急いで掴んだカバンが椅子に当たり、大きな音が室内に響いた。何度か転びそうになったがその度に体勢を整え、狙いを定めたその人物目掛けて走った。

「待て!」

 出会い頭に吉田や他のクラスメイトとぶつかりそうになったのを間一髪で避け、その影を追いかけた。

「どうした深田!」という声はフローリングの床を捉えた靴との摩擦の音で掻き消された。久々の全力疾走で転びそうになる深田に不思議な視線を送ると、何事も無かったかのように吉田達は他の講義室に向かった。

 非常階段を登り、いよいよ屋上につくというところで深田は足を止めた。息を切らし、信じ難い光景に口を開かずにはいられなかった。

「私なの?」

 私、と言われた人物は深田と姿が同じだった。ドッペルゲンガーのようなものと言ってもいいだろう。それは深田を見下ろし、その左手には真っ赤なノートが握られていた。

「私のノートを返して」

 出来る限り落ち着いた声で対応し、ドッペルゲンガーと思われるものを刺激しないようにした。一歩一歩非常階段を登りつつ、細心の注意を払うよう意識した。汗が眉間を流れ、今なら空気の流れすらも体毛で感じられそうな程集中していた。

 階段をまた一歩登り、あと三歩もすればノートに手が届きそうだ。

「や!」という掛け声と共にドッペルゲンガーが深田目掛けて飛び上がった。蝶のように舞い、深田の脇をすり抜けると下の階に向かった。呆気に取られた刹那、向き直り同じように下の階へと走った。


 七階まで下がるとドッペルゲンガーは何かに引っかかったのか顔面から転んだ。「追い詰めた」という声と共に息のあがった深田が降りてきた。逃がさないよう馬乗りになり、うつ伏せになった頭がどんな表情をしているのかを見ようと両手を使い、首元を抑えた。もがき暴れる両足を全身で覆い被さるようにして捉え、いよいよ目と目が会う瞬間、

「きゃっ!」

 二十五メートルも離れていない場所に雷が落ちた。

「まずい!」ドッペルゲンガーが叫んだ。

 なんの事か分からず二回、三回と点滅する雷に目をくらませながら辺りを探った。

「そっちはダメ!」

 声が遠ざかっていく。ドッペルゲンガーが消えていったのか、しかしそれが間違いだと気づくのに深田は時間をかけすぎた。自分が落下していたことに気づくまでかかった時間が一秒弱、そして自分が遠ざかっていく中、自分と瓜二つな彼女と目が合った。その目からは涙が溢れ、悔しそうに唇を噛んでいた。

 そして一秒後、深田は七階からの転落し、鑑識によってショック死だと判断された。


 * * *


 街はパレードによって大きな盛り上がりを見せていた。遥か彼方までを埋め尽くす軍用車両、国中の将校や有力政治家、そして数万以上の国民が同じ広場に集った。国歌が広場中に聞こえる大音量で流され、人々は国歌を聞き様々な思いを馳せ、国家がここまで来れた感動なのかそれとも怒りなのか、哀しみのどれなのか見分けがつかない複雑な感情を持っていた。将校や政治家は右手で敬礼をしたままその場に立ち、軍人達は銃を構え持ち場を守っていた。

 国歌が終わると、階級が高い雰囲気を醸し出す将校が車のシートの上に立ち、楽器隊と騎手合わせて数百人を連れて進行を始めた。国民達は綺麗に整列した兵士と統率の取れた動きを見て感涙せざるを得なかった。

 一九八五年、戦勝記念日である五月九日に赤の広場で行われた軍事パレードは大盛況だった。世界一の社会主義国家らしくこのような国家権威に関わる軍事イベントは国が主導しているため、規模は当然大きくなる。大国アメリカと遜色ない、或いはそれ以上だ。

 ソビエト連邦軍は第二次世界大戦を生き延び、勝利に導いたベテラン兵士の集まりであり、赤軍と呼ばれたソ連軍は平時だろうと三百万人近い人員を誇る世界最大規模の軍隊である。

 ソ連地上軍に従軍しているセルゲイ・ドミトリエフ曹長は、今日のパレードにて一部区画の警備を任されていた。赤毛で太い眉を持ち、好青年らしい顔立ちのセルゲイ曹長は二十三歳という若さだが、国家への忠誠心と才能を買われ、階級が低いながらも上官と対等に話すことが出来ている。

「曹長!不審な人物があちらに」

 兵士の一人から報告をもらい、不審な人物が現れた場所へセルゲイは歩を進めた。赤の広場端のゴミ捨て場の上にその人物が倒れているという。軍事パレード中だというのにそんなだらしない人がいてはならん、と自身に喝を入れ、将校が発見する前に問題を処理し、パレードの進行を邪魔させないようしておくべきだと考えた。

 兵士が不審人物と疑うのも無理はなかった。ビニール袋で縛られた大量のゴミの上に大の字で寝転んでいる女性を見れば、頭がおかしいか、それとも事件にあったかのどちらかを想像するだろう。ソ連人でなければ尚更だ。

「───おい、こいつはアジア人か?」

 セルゲイの部下の一人が言った。もう一人がライフルで軽く突いてみると、動きがあった。また突いてみると動き、段々とその動きがおかしく見え、何度も繰り返し突いて遊び始めた。

「───これは、面倒なことになりそうだ」

 セルゲイがいつもより低い声音で呟いた。そして「起こせ」と命令し、その場で尋問を始める準備をした。

「あ、あれ?」

「───起きました曹長」一人が振り返り言った。セルゲイはライターの火を消し、タバコを胸ポケットにしまうと尋問を始めた。

「───ロシア語は話せるか?」

「はい。えっと、ここはどこなんですか」

「今は関係ない、名前と国籍、旅行者ならパスポートを」

「深田沙織、国籍は日本、パスポートは無いです」

 セルゲイと部下二人は戸惑った。八五年はまだ冷戦中だ。一般の旅行客が行くならば厳密な審査をし、許可を取らなければ行くことは出来なかったはずだ。それにも関わらず、この身なり。

「スパイの可能性が、逮捕すべきでは?」

「黙っていろイワン」長身で痩せた男に言うと、ペトロフと言う名の、無精髭で日焼けした男が耳打ちした。

「もうすぐパレードの本隊が来ます。一旦場所を変えましょう」

「ついてこいフカダサオリ」

「その、ここは一体どこで私はなんでここにいるんですか!」

 そんな質問は一切耳に入らなかったのか、彼女の手を握ると強引に連れていった。


 フカダサオリ、基い深田沙織は数分前大学の非常階段から落下し、死亡したはずだった。しかし何の間違いなのか、丁度三十年前のソビエト連邦に彼女はいる。

 深田は考えた。

 ソ連では定期的に戦勝記念日である五月九日にパレードが行われる。つまり何を意味するか、深田は二〇一五年から一九八五年にタイムスリップしたということになる。タイムスリップなどただの創作の世界での話だと思っていた。きっと夢だ、落下死などしていなくて変なところに頭を打って気絶し、夢を見ているに違いない。そう結論づけた。

 気づいた時には小部屋にセルゲイと二人きりでいた。初めて付けられた手錠の重みが深田の心の余裕を奪い、鼓動をより早くさせた。

「お前の言う帝都大学は確かに存在した。だがフカダサオリという生徒はいなかったそうだ、で?何か言うことは」

「信じて貰えないかもしれませんが」

 深田はそうして自分に起きた話を最初から最後まで全てを説明した。セルゲイは腕を組み、真剣な顔でそれを聞くと時々メモを取った。

 一言喋り終わった時にできる数秒の静寂は深田にとって大の苦手だった。沈黙を切って喋り始めるのは中々大変で、着る度に言葉を間違えかけた。それでも自分を説明することを諦めず、なんとか最後まで喋り終えた。

 最後まで喋り終えた後に再び始まった沈黙を切ったのはセルゲイの方だった。彼は落ち着いた声で目の前の異国人に質問をした。

「つまりお前は三十年後の未来から来たと、そういうことだな?」

「はい、そういうことになります」

 再び静寂が流れた。深田はこのままでは河童も流れてしまいそうだなと妄想した。

「釈放してやるから家に帰れ」

「え?なんで」

 あまりにもあっさりと言われてしまい、思わず日本語で聞き返してしまった。そしてもう一度ロシア語で同じことを聞き返すと、

「フカダ、君はかなり疲れている。現実逃避のために未来から来たという嘘をでっち上げた、同情するよ」

「いや、ちが、私は本当に」

「よかったら家まで送ろう。住所は?」

「き、記憶喪失!記憶喪失で住所覚えていないんです!」

「尋問を終了する」

 マイクに向かってそう言うと立ち上がり、深田の手錠を外した。ため息をついてしばらく考え込むと、困った声で深田に言った。

「じゃあ記憶が戻るまでうちにいるか?」

 容易には受け難い提案だった。

 突然異国の地に放り出され精神的に不安定な中、更には初対面の軍人から家に招かれた時果たしてこの提案を承諾出来るのだろうか。否、拒否するしかなかった。

「ごめんなさい、まだ詳しく知らない人についてくわけには」

「そうか、じゃあ非常用に連絡先だけ教えておこう」

 セルゲイは手帳に自分の住所とサインを書くと、切り取って深田に渡した。

「さ、どこへでも行くがいい」


「私どうなっちゃうんだろう」

 深田は道に放り出された時一人呟いた。相当長く悪い夢だと思い、どうすればこの悪夢から覚めることができるかを考えた。どこに行けばいいのかわからないため、道なりに進むと橋の下に丁度いい空間があった。小銭も、家も、知り合いもいないこの最悪のシナリオの中、どう攻略法を見つけ出せばよいのか。セルゲイが連絡先の書かれた紙を手渡す場面が流れてきたが、あれをあてにする訳にはいかない。確かに深田にとってソビエト連邦はロマンに満ち溢れた国家ではあるが、だからといってそこで暮らしたいわけでも深い交流を持ちたいわけでもない。

 現在のロシアを考えると、ロシアンマフィアが思い浮かんだ。逆らえばどんな残虐な仕打ちを受けるか全く予想できないのだ。ソ連時代にもマフィアがいたと考えると背筋に冷や汗が流れたような気がした。

「これは悪い夢だ、一回眠ればきっと覚める」

 悪い夢を見た時にするおまじないをひたすらに唱え、戻れることを祈った。

 既に夜が近づいてきたが、夢は一向に覚める気配を見せなかった。

 改めて辺りを見回すと、浮浪者や危険人物が集まるのにピッタリの環境だった。当然だが監視カメラも無ければ街灯も無い。街の明かりと僅かな月の光が橋の下をうっすらと照らし、更に不気味さを掻き立てていた。

「本当にどうしよう」

 深田は妙に落ち着いていた。自分でもおかしいと思っていただろう。なぜ今、かつて大学にいた頃の場面を思い出したのだろうか。それは深田自身もわかっていなかった。

「あの時の私は泣いてた。でもなんで?」

 目に涙を浮かべて悔しそうな顔をしていた。その悔し顔にどこか見覚えがあったような気がしたが、結局どこで見たかを思い出すことは出来なかった。

 段々と瞼が重くなっていくのを感じ、気づいた時には他の浮浪者と同様に体を丸めて眠りについていた。日本の熱帯夜とはまるで違い、夏にも関わらず夜は涼しく快適だった。強いて言うなら毛布が一枚欲しかったがこんな時に欲は言えない。緊張が解れ、昼間に起きたトラブルの疲れがどっと押し寄せたことに気づいた時には、既に夢の中だった。


「深田、ノート返しに来たぞ」

 背中を揺すられ、深田は目を覚ました。吉田がノートを持って目の前に立っている。驚きのあまり目を擦って何度も何度も吉田の方を見直し、さっきまでの光景はリアルな夢でしかないと思わざるをえなかった。

「ソ連は?ねえ吉田がなんでここにいるの?」

「どうした深田、寝ぼけてるのか?」

 吉田が不思議そうに聞き、

「体も震えてるぞ。体調悪いのか」

 そう言われ自分の体を見ると小刻みに震えている。これは寒さから来る震えだ。目が覚めてから背中に感じていた冷たい気配はクーラーの風だったのか、と認識した。

「クーラーいつ設置されたの?壊れてなかったっけ」

 吉田は一度クーラーの方を見るとまた深田の顔を見た。その目には困惑の表情が広がっている。

「ずっと前からだよ。暑い暑いってみんなが言うから俺たちで金出したじゃん、本当に大丈夫か?」

 そんなはずはない。クーラーはずっと前から故障し、直される目処も着いていなかった。

 途端、自分が見ているこの現実のような景色は幻でしか無いことを察した。すると今まで見ていた光景は消え去り、元あった夜のモスクワが広がった。

「そうか、そんなんだね。私は本当にソ連にタイムスリップしちゃったのか」

 丑三つ時、深田は夢から覚めると橋の下で静かに涙を流した。夜の寒さが身に染み、独りぼっちによる寂しさと一日中何も食べていなかったことによる空腹感がそれを一層辛くさせた。

「せめて朝まで───朝になったら何かしにいかなきゃ。それまで耐えて私の体」

 深田は生まれつき夜にめっぽう弱い。夜目が効かず、日本にいた時も暗くなれば基本的に外に出ることは無く、ひたすら家に篭っていた。なにより深田は重度の方向音痴であり、人の助けが無ければ長距離の移動は困難であった。

 深田は再び眠りについた時、夢を見た。大学での夢では無い。家族と過ごす夢だった。美しく聡明な母、強くて逞しい父、怠惰だがいざとなった時は頼れる兄。三人の家族に抱き抱えられ、笑顔で写真を撮っている場面だった。とても暖かく、いつまでもこの時間が続けばいいと思っていた。が、その願いは叶うはずがない。せめて夢から覚める前に何か話しておこうと考えた深田は、

「お母さん」と呼んだ。

 深田の母は優しく頷いた。続けて「お父さん」「お兄さん」と呼ぶと同じように優しく頷き、兄は頬を撫でると、目頭の涙を指で拭ってくれた。それ以上何かを喋ることは出来なかった。

 気づいた時には家族は風と共に去っていた。同時に長い夜が明け、建物の影から朝日がちらりと見えた。それは寒い夜に終止符を打ち、更に深田にとっての希望の灯火だった。スカートと上着についた落ち葉を軽く払い除け、軽く寝起きの伸びをした。

「───行くか」

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連邦少女 みつくい @mitukui

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