第7話 かまいたち

 今日も僕とケウケは酒を飲む。ビール瓶を片手にピーナッツをつまむ。こんなに幸せなことが他にあろうか! いや、無い!


「今日はどんな妖怪の話を聞かせてくれるんだい」


 訪ねるとケウケはそうだなあと、顎を撫でた。彼の仕草はどことなくユーモラス。見ていて楽しくなってくるね。酒が入ってるから、なんでも面白く感じるだけかも。


「……そうだなあ。今日はかまいたちの話でもしてみようか」

「かまいたち、なんとなく分かるよ。人を切りつける風の妖怪だろう」

「かまいたちには、そういう能力もある。が、それだけではない」

「ほほう?」


 つまり、それだけではないんだな。僕、気になるよ。ぜひ、教えてくれよ。


「かまいたちという妖怪はな。三つの力を持っている。三体の妖怪がそれぞれの力を持っていて、集まったのが、かまいたち、なんて考えられていたりもするな」

「なるほど。それで、三つの力というのは、具体的にどんな力なんだい」

「急かすな。説明してやるから」


 ケウケはビールをぐびっと飲んだ。良い飲みっぷりだねえ。実に美味そう。真似したくなるじゃないか。と、いうわけで、ぐびっと一口。あぁ! 美味い!


「……さて、かまいたちの力についてだな。それは、すなわち、転ばせる、切る、治す。この三つだ」

「転ばせるのは、なんとなく想像できるけど治しもするのか。そいつは面白いね。ユーモラスだよ」

「そうだろう。かまいたちは三つの能力で、人を傷つけながらも治すのだ。決して人に害を与えるだけの妖怪でないところが、ユーモラスかつ面白い」

「やってることは、自分が起こしたことの後始末だけどね」

「違いない」


 ケウケはくつくつと楽しそうに笑う。そんな風に笑われると、こっちも面白くなってくるじゃないか。


「ケウケ、君と話していると楽しくて飽きないよ」

「そう言ってもらえるのは光栄だが、私など、そう面白い人間ではないさ。ただ、少しばかり人よりも妖怪に詳しいというだけ」

「そこが面白いんじゃないか。自信を持てって!」

「自信が無い訳じゃないんだがな……ま、ありがとう」


 その夜も僕たちは二人で楽しく語り合った。こういう日がいつまでも続いてほしいな。なんて、思っていた。少なくとも、大学に通っている間は、彼の話を聞き続けられるものだと思っていた。


 ところが。


「悪い。この夏休みが終わったら実家に帰ることになった」


 ある日、急に告げられた彼の言葉に僕は唖然とさせられる。だって、あまりにも突然すぎる。説明をしてくれ。どういうことなんだケウケ!?

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